弐の五

 「ツヴァイ!おはよう!朝よ!」

翌日の明朝、元気のいい声で叩き起こされる。

ツヴァイは勢いよく起き上がった。

「ああ!?なんだよ急に!」

時計を確認すると時刻はまだ朝の四時。

「ちょっと手伝ってほしいの。」

アインツの優しい笑顔に釣られるままツヴァイはベッドを出た。

 「…………で?なんだよこれは。」

流れるがままにアインツについていくとツヴァイはなぜか庭の掃除をさせられていた。

箒を持って足を止めるツヴァイを見てアインツはクスリと笑う。

「手伝ってほしかったのよ。掃除を。それに貴方ここに来てから何もしてないでしょう?今日くらい手伝ってほしいわ。」

それを言われると弱い。そう思ったツヴァイは渋々掃除を続けることにした。

「あ!ツヴァイが掃除してる!」

「え!?ホントじゃん!」

「珍しい!初めて見た!」

庭を掃いていると起きてくる奴らが順々に口を揃えて言う。

ツヴァイはシッシッと手を返して追い払った

「うっせぇ。黙って朝飯待てよ。」

その光景をアインツは嬉しそうに見て笑う。

 そういえば、初めてここの奴らとちゃんと会話したかもしれない。

 ツヴァイは小さく舌打ちをした。

しかしその舌打ちには負の感情はなかった。

(まぁ……今日だけだしな。)

そう思って掃除を終え、一日を過ごしたが考えの甘さを翌日痛感した。

「おはよう!ツヴァイ!」

アインツは翌日も起こしに来た。

トイレ掃除を手伝ってほしいらしい。

(まぁ……二日くらいは。)

しかし翌日もアインツはきた。

「おはよう!ツヴァイ!」

その翌日も、またその翌日もアインツは来続け、その度に院の手伝いをツヴァイにさせた。

「おはよう!ツヴァイ!今日は電灯変えてほしいの。」

「おはよう!ツヴァイ!今日はテーブルの修理を手伝ってほしいの。」

「おはよう。ツヴァイ。今日はね………。」

毎日続き、いつの間にかツヴァイは一日に過ごす時間を殆どブラックハウスで過ごしていた。

そしてその度にみんなとの会話は確実に増えていた。

 「………あんたもお節介だな。」

庭の草をむしりながらツヴァイはつぶやく。

 アインツは少し驚いた。初めてツヴァイの方から話しかけてきたからだ。

しかしアインツは少し寂しげに笑った。

「……お節介ではないわ。私はね。ただの寂しがり屋なのよ。」

アインツは改めて優しく笑う。

「ここはただの私のエゴ。みんなを巻き込んでいるだけなの。だから私は本当は感謝されることはーー……。」

「エゴでもなんでも感謝ぐらいさせてやれよ。アイツラも、一応…………俺も。」

ツヴァイの小さな呟きにアインツは勢いよく振り向く。

ポリポリと気恥ずかしそうに頬を掻くツヴァイ。

「………両親が死んでから、色んな大人を見たんだ。嘘を付くやつ、笑ってるのに笑わないやつ。とにかくいい気分じゃなかった。」

ツヴァイは真っ直ぐとアインツを見た。

「大人は信用できないとずっと思ってた……けど……。」

そして再び照れながら視線をそらした。

「あんたは………信用するよ。」

 照れながら、話してくれた本音。

今までもみんなの為と頑張ってきた。

その中でも溶け込めないツヴァイとは特に仲良くなりたいと思った。

その全ては自分のエゴで本当は自分は必要とされてないんじゃないだろうか。何度も自問した。

だが、今日初めて自分の今までが報われた。

 返答が無いのでツヴァイはチラッとアインツの方を見た。

「いや……なにかーーー………!?。」

飛びつくようにしてツヴァイに向かってくる。

驚きのままツヴァイはアインツに押しつぶされた。

「いって………!?」

アインツをどかして起き上がろうとするとズシリと重りが乗っかった。

「私達も感謝してるよ!!」

「シスターのこと大好き!!」

「ツヴァイ抜け駆けすんなよ!!」

「ちょ……お前ら……!重っ……。」

「みんな……!」

「いや……アインツあんたも……。」

「シスター!!」「シスター!!」

シスターは初めてみんなの前で涙を見せた。

大きな声で、嬉し涙を。

「みんなありがとぉぉ!!」

全員で抱き合ってアインツは泣いた。

アインツは確かに幸せなのだ。

「いやどけって!!」

苦笑いを見せるツヴァイ。みんなはそのまま笑いあった。

ツヴァイも笑った。

ツヴァイもまた、確かに幸せだと思うからだ。

 この日がツヴァイがブラックハウスに来て三年経った日。

ツヴァイのもう一つの誕生日だった。

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