零の八

 涙で濡れた瞳は真っ黒に染まっていた。

この笑顔はきっと喜びや嬉しさなんかではない。

感情の壊れた表情カオだ。

 舞菜はこの顔を知っている。

あの時と同じ、数年前大人達に裏切られた時と同じ顔。

「レイ………。」

零は右手をエルフ星人に向ける。

「あぁ?一体なにをしてるんだ?地球じーーーー。」

ぐしゃり。

生物の潰れる音が鈍い音を立てて鳴る。

「………ハ?」

続けて零は右手を横に降った。

二人のエルフ星人が横向きの重力・・で押し潰される。

 いつの間にか悲鳴は治まり、眼の前で無情に流れる血を見ていた。

人は本当の恐怖を感じた時、ただ見続けることしかできないのだろう。

 「ちょ……ちょっと待てよ……!重力を操れるのは……〈ゼウス星人〉だけだぞ……?〈ソラビト事件〉で〈ゼウス星人〉が地球人に殺された話なんて聞いてない……!」

零は右手をかざした。

「お前……何者だ!」

零の涙は乾いて瞼にこびれつく。

「化け物だとよ。」

エルフ星人は瞬きする間もなく跡形もなしに潰れた。

 悲鳴すらないその地下には悪魔とも化け物とも呼べる男がただ立つのみ。

人にとっての最大の恐怖がただそこに立っている。

「………お前らが俺を売ったんだろ……?」

明確な殺意を当てられる。

これほどの恐怖はそうない。

 だがすぐに零は視線を外した。

「………マイナ。俺はここを出る。やる事が出来たんだ。」

恐怖の対象となった零。だが舞菜の目はいつも通り変わらない目だった。

「マイナはどうする?」

シンプルな質問。だが舞菜の答えは決まっていた。

「ここにはいたくない。私も連れて行って。」

零はスウの亡骸を浮かして舞菜の手を引いた。

ゆっくりと歩いて行く二人を、地下の人々はただ見ていた。

恐怖で竦んだ足と、罪悪感を胸に。

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