零の六

 大きな音を立てて壁が破壊された。

「……え?」

壁に空いた大穴からはゾロゾロと四、五人のエルフ星人が現れた。

「……ここか?〈ソラビト〉らしき地球人がいるというのは。」

エルフ星人の一人の発言に佑の祖母が駆け寄る。

「そーだよ。ここにいるんだよあの化け物は。」

舞菜は言葉を失なった。

だが絞り出すようになんとか言葉を出した。

「お婆ちゃん………?どういうこと………?」

答えたのは人混みの中の佑だった。

「俺が言ったんだ。」

「佑………?」

弱々しく舞菜は振り向く。

「お前おかしいよ。あんな化け物と仲良くしてよ。昔のほうがずっと普通だった。お前あいつに心を喰われたんだ。あいつは化け物だぜ?」

首を振る力も残ってない。

「違うよ…………。変わったのはみんなだよ。昔はあんなに優しかったのに………レイだけに厳しくなった。」

舞菜は力強く叫んだ。

「レイは人間だよ!どんな力を持っていても、私の大好きな人間なんだよ!」

だがしかし、言葉は届かない。幾人もの人間の住むこの地下には最早人などいないのか。舞菜は心からそう思った。

「場所を教えな舞菜。そしたらあんたはたすけてやるよ。」

得意気にエルフ星人の横に立つ老婆は化け物のように見えた。

「………そのは何も知らんよ。異星人。」

全員の視線が一つの方を向く。

「……スウ爺ちゃん………?」

スウは優しく笑い何も言わず舞菜の頭を撫でた。

「レイの居場所知ってるのはワシだけだ。まぁ、教えんがな。」

エルフ星人の一人が一歩前に出る。

「ほぉ……?なにゆえ?」

スウは悟ったような顔で立っている。

「なにゆえ……だと?答えなんて決まってる。」

スウは力強くエルフ星人を見た。

「あいつは俺の家族なんだよ。文句あるか異星人。」

力強い眼。あれは確かな意志と覚悟を感じる。

だがその覚悟の正体が舞菜にはわかってしまった気がした。

「スウ爺ちゃん……駄目だよ……。」

「家族を売る馬鹿なんざいねーんだよ。」

スウは覚悟を決めてエルフ星人の前に立ち、舞菜の方は見なかった。

 エルフ星人達はクスクスと笑う。

下等の虫を見るように。

「おいジジィ。貴様自分が何言ってるかわかってるのか?我らは現宇宙連合の中心核とも言えるエルフ星人だぞ?」

「耳尖ってるだけだろ?」

エルフ星人の顔色が変わった。

「………ジジィ。そんなに死にたいなら殺してやるよ。」

エルフ星人は銃の撃鉄を鳴らしてスウの額に当てる。

「………まぁ……長生きしたよ。」

「スウ爺ちゃん!!ダメェ!」

 この日人生で一番嫌な音が地下に鳴り響いた。

一足遅れてきた零の目の前で。

その日は世界で一番嫌いな日になった。零は幸せだったのに。

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