零の四

 今日も零は空を眺める。

風の吹く午後のひととき。

 冷たい頬。風に吹かれた君の冷たい頬に。

「………触れてみた、小さな午後。」

少し詩風に曲を聴く。

これが何より心地良いのだ。

 【それは良い。私も今度試してみよう。】

「!?」

勢いよく起き上がる。

だが付近に人の気配はない。

 そもそも聞いたことのない声だ。

何よりこの声は……。

【頭に直接語りかけてくる………かい?】

「!?」

零は喉を鳴らす。

「お前は………誰だ?」

【私はガーオ・ヒノ。君と同じタイプの人間。】

「同じ………?」

零はイヤホンに流れる音楽を止めた。

【まぁその中でも君は特別なようだから明確に同じとは言い難いがね。】

「………要件はなんだ?」

【話が早くて助かるよ。雨霧零くん。】

 名前も知られているのか。

【要件は簡単だ。私達に協力してほしい。】

私達………?複数人いるのか。

「お前は今どこにいるんだ。」

【私は今南アメリカ大陸の山奥にいる。足が悪いんだ。そこから君に語りかけている。】

 嘘くさい話だが頭に流れる会話が現実味を帯びさせてくる。

「それで……?協力とは何をするんだ?」

【興味を持ってくれたかい?】

「暇だしな。聞くだけだ。」

ガーオは笑った気がした。

【……君はこの星ついてどう思う?】

質問とは違う回答に一瞬驚く。

しかし零はこの質問に答えを持っていた。

「クソだな。異星人も。地球人も。」

【そうか。私もそう思う。そこまで汚い言葉は使わないがね。】

「それで……?なにが言いたい?」

ガーオは一幕おいた。

【私と一緒にヒーローになってみないか?】

言葉を失った。というより馬鹿だと思った、のほうが的確だろう。

ヒーローなどコミックの世界の話。現実には存在しない。

【だから私達でなるんだよ。】

勝手に会話を繋げてくる。

【どうかな?君の力は人を救うことのできる。素晴らしい力なんだ。】

ガーオは優しく話す。

だが零は一笑に付した。

「宗教なら他でやれ。俺は確かにこの星が大嫌いだし何より異星人は特に嫌いだ。開拓前・・・は知らない世代だがその方が良かったってのはわかる。」

零は続ける。

「だがヒーローなんぞになる気はない。それってつまりあれだろ?地球人の為に頑張りましょうって事だろ?クソくらえだ。さっきも言ったが俺は地球人も嫌いなんだ。どいつもこいつも自分本位。同じ立場の人間の中に自分より下を見つけたがる。助ける価値などまるで見当たらない。」

零はなおも続ける。

「なにより俺はこの力が大嫌いなんだ。出来る事なら誰の目にも止めずに俺は密かに死にたいんだよ。」

 顔は見えない。だがガーオは哀しい顔をした気がした。

【………では、君は何があっても戦ってはくれないのか?】

「生憎俺にはあんたと違ってわざわざ異星人と戦わなきゃいけない理由もないんでな。」

【……………そうか。だが、気が変わったら私の名前を呼んでくれ。いつでも歓迎している。】

「明日には忘れてるよ。」

何かが途切れた気がして、ガーオの声は聞こえなくなった。

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