第16話 治安維持

「お亡くなり下さいって言ったって……!ポリスだかなんだか知らないけど、死ぬ訳にはいかないんだよ!」


 私が大声で反論する。赤髪の女はキョトンとした表情をしつつ、少し考えるような仕草を見せた。すると、間もなく納得したように口を大きく開けた。


「ああ、もしかして疑ってるんですか?確かに野蛮な盗賊とかの可能性もありますもんね!コホン。それじゃあ詳細に言いますよ?私は王府直属治安維持部隊、通称『ポリス』の第十六隊所属のフレバと申します!」


 フレバは手帳のような何かをこちらに見せた。顔写真にそれっぽいマーク。完全に警察手帳のそれだ。フレバはもう一度息を吸い込んでから宣言する。


「あなたがたを動植物保護法第三条、『無闇に動植物を殺傷した者は適切に処罰する』及び第四条『王が定める特定の動植物を殺めた者は現行の証拠がある場合に限りその場で死刑に処して良い』に基づいて殺します!良いですね!!」


 むちゃくちゃだ。『適切に処罰する』だなんて規定は曖昧すぎるし、『その場で死刑に処して良い』ってなんだ?独裁国家にしてももう少し上手く書くべきだろう。


 というかフレバの言い分に聞き入ってしまった。特撮で変身中に攻撃しない怪人の心理はこんな感じなんだろうか?


 とにかく反撃しないと。


「『リピート』!『火球』!」


 まずは様子見の『火球』。私とフレバは離れているし、避けようと思えば避けれるだろう。しかし、フレバは避けようとせず、むしろ当たりに行ってるのでは無いかと思わせるほど見事にクリーンヒットした。


「熱っ!!き、貴様ぁ!!法律違反に飽き足らず公務執行妨害までしやがりましたね!!手加減はしないと決めました!本気で行きますからね!!」


 フレバは当たり行ったにもかかわらず憤慨する。

 そして、彼女は全神経を指先に集中させるように精神を統一させた。それから、溜めた力を一気に解放するが如く魔法を発動させた。


「まずは、『炎刃ファイヤーブレイド!!』」


 その魔法は、今までの魔法とは明らかに違っていた。名前はもちろんのこと、魔法の雰囲気があまりにも違うのだ。今までの炎魔法は橙色に近い赤色の炎が燃え広がる……という感じだった。


 しかし、フレバの魔法は違う。赤、というより青いのだ。――ガスバーナーの空気調節ねじを回した時の炎によく似ている。


 しかも、それだけならまだしも回転する刀の如くこちらに飛んでくるのだ。タエがとっさに前に出て盾で刃を弾く。


「くっ……重っ!!」


「タエ、大丈夫!?」


「こんなんで致命傷を負うほど、おれはヤワじゃないですよ!」


 頼もしい一言だ。こうして守ってくれるだけですごく戦いやすくなる。


 タエの防御の後、モエがすかさず反撃する。


「『炎上』!!」


 それが発動された瞬間、フレバはニヤッと笑い、また魔法を受けに行った。


「熱っ!!でも、これで……『炎刃』!」


 発動された魔法は――先程より明らかに大きくなっている。フレバが出力を上げたのだろうか?というか防がないと!


「『リピート』!『タエの盾』!」


 私は先程のタエが使っていた盾術をリピートし、なんとか守りの体制に入る。しかし、攻撃の勢いに負けて後ろへ吹き飛ばされてしまう。それに気づいたモエが慌てて受け止めてくれた。


「お怪我はありませんか?」


「うん、無いよ」


「にしても、魔法の大きさがあまりに変わりすぎていますよね……」


 フレバは魔法を自ら受けに行っていた。ということは、攻撃を受けること自体に意味があるのだろうか……?


 私はウズの近くに行き、思いついた作戦を話す。


「ウズ!」


「どうしましたか?」


「少し動いてアイツに攻撃してみてよ。私が囮になるからさ」


「えっ!!で、でも、ウズはあまり役に立ててないし……」


「そんなこと気にしちゃダメ!いいから、バレないように後ろに回るの」


「わ、分かりました」


 もし攻撃されることが能力増強に役立つのだとすれば、ウズの不意をついた攻撃も避けようとせず、されるがままに喰らうはず。


 私はウズを見送り、モエにも作戦を話す。


「モエ、ウズが攻撃するまでは攻撃しちゃダメ。いい?」


「――?まあ、はい。分かりました」


 私は囮になるためにフレバに向かって距離を詰めていく。


「うおおおおぉ!『リピート』!『短剣』!!」


 モエの使っている短剣を手に出し、一気に突っ込んで行く。フレバ側からすればまさしく飛んで火に入る夏の虫だろう。


「なんだそりゃ!ポリスを舐めすぎですよ!そんなの……『炎刃』――」


「『放水』!!」


「えっ?『放水』……?み、水はダメっ!」


 フレバはウズの不意打ちに驚きつつも、咄嗟に水を避ける。私は急いで距離を取る。


そして、ウズの攻撃を見たモエが畳み掛けるように魔法を放つ。


「ここですかね……?『炎上』!」


 フレバの体から炎が燃え上がる。しかし、彼女はそれを消そうとしない。


 そして、すぐに反撃の『炎刃』をウズの方へ向かって放とうとする。


「まだ幼そうなので倒すのは後にしておこうと思っていましたが、水魔法使いならば仕方がありません……『炎刃』っ!!」


 大剣と言えるほどの炎が出現し、ウズへと振り下ろされようとする。ウズは咄嗟に


「『放水』!」


 と叫んだ。すると、水は大きく燃えていたフレバの魔法に当たり、勢いが段々と消えていく。


 これで私はひとつの確信を得た。フレバが炎魔法を受けに行くのは自らをパワーアップさせるため……!現に、炎魔法を受けたあとの『炎刃』はとてつもなく大きかった。つまり、アイツに炎魔法は厳禁……!


「モエ、ここからは短剣だけで戦って欲しい」


「なっ!?炎魔法使いのプライドを傷つける発言ですよ!?」


「フレバは炎魔法を受けると魔法の威力が上がる!だから、お願い」


「くっ……わかりました」


 モエは腰元から短剣を取り出した。そして、ひと仕事終えたウズと少し離れたところにいたタエとも合流し直し、陣形を整える。


 すると、フレバはすごく怒ったように腕をブンブンと振り回す。


「あーもう!これだから水魔法は!奥の手を使うしかないようですね!」


 フレバは腰から警棒のような何かを取り出した。と思いきや、その警棒がぐんぐん伸び、先の方には大きな刃が急に付いた。斧だろうか?しかも燃えている。とてつもない勢いで燃える斧が出現したのだ。


「なっ!?まだ隠し球があるだなんて!」


「この斧は燃えているだけではなく、単体でも凄まじい殺傷力を誇ります。これであなたがたを終わらせてあげましょう!」


 まずい。あんなので攻撃されたらひとたまりもない。死ぬどころの騒ぎでは無いかもしれない。そんなものをフレバはブンブンと振り回しているのだ。


「行きますよっ!」


 フレバは勢いを付けてウズに攻撃を仕掛ける。それを庇う形でタエが『防壁』を発動させ、何とか防ぐ。しかし、やはり勢いまでは殺しきれず、二人の体は大きく後ろへと飛ばされてしまう。


「あー、やはりそうなりますかー。じゃあ、先にあなたからっ!」


 フレバが私に向けて斧を振りかざす。私は咄嗟に『防壁リピート』を発動させる。しかし、先程のタエがそうだったように勢いで吹き飛ばされ、私もその場に倒れてしまう。しかも、私の場合はすぐ後ろに岩が有った。おかげで私は有効な守備手段もないまま距離も取れない。――絶体絶命。


「ふふっ、どうやら守りの手段は無いようですね……!なら、これで終わっ!?」


「『リピート』!音波!」


 私が思いついたことを口に出すと、モスキート音のような不快な音が辺りに響く。コウモリとの戦いで学んだアレだ。


「ぐっ……な、なにこれっ……」


 私は咄嗟にその場を離れる。助かった!!


「くっ……動……けなっ」


「と、とりあえず逃げるよ!」


 私たちは全力で逃げた。とにかく、フレバから離れるように!


◇ ◇ ◇


 私たち四人は何とか草原の近くまで逃げてきた。そして、話札を使って託使の人や討伐機構の人間と連絡を取る。


「――はい、それではお願いしますね」


「ねぇ、フレバあのこ放置してきて良かったのかな?」


「まあ、大丈夫でしょう。最悪討伐機構の人が何とかしてくれますよ」


「そうかなぁ?」


 まあ、いつまでも訝しんでいても仕方がない。とりあえず今日は帰って明日に備えよう。


◆ ◆ ◆


 再立の攻撃によって動けなくなっていたフレバは、しばらくしてようやく動き始めた。


「くっ、酷い目に遭った……というかなんなんですかアイツらは!!ずっと攻撃を防ぐし、水魔法は使ってくるし!!なんでこんなのの対応をこのフレバちゃんがしなくちゃならないんですか!おかしいですよ!」


 そんなふうに愚痴を零すフレバの元に、なにか飛翔体が一つ飛んできた。


「お、帰りの迎えかな?」


 いや、違う。飛翔体から降りてきたのはフレバの仲間ではなかった。全く知らない二人の男。降りてきた男の一人がフレバに話しかける。


「あの、ここ周辺に改物の遺体があると聞いたのですが――」


「あぁ、キミたち討伐機構って奴ら?じゃあ、容赦しなくていいのかな」


 フレバは斧を使って男の体をザクっと真っ二つにした。それから、程なくしてもう一人も――。悲鳴を上げさせる時間すらなく、地面の上に血の海が生まれる。


「はーあ。こんなの殺しても大した報酬出ないんだよなぁ……一回反撃させといた方が高くなるとはいえ、そういう血の気の多い奴らは強いし――」


 フレバは大きくノビをして、洞窟の方へと歩き始めた。

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