第56話 盗賊団の壊滅

 翌朝、僕は朝食の席で昨日の出来事を父上に報告した。


「情報屋か。確かに騎士団の中に情報を漏らしている人物がいるかもしれないな。すぐに登城して騎士団長に話をしなさい。私も陛下に報告しておく」


 父上に促され、朝食を終えるとすぐに王宮へと向かった。


 騎士団の詰め所に向かうとすぐに団長室を訪ねた。


「おはよう、ジェレミー。今日は随分と早いな。何かあったのか」


 騎士団長は約束もないのに訪ねた僕を邪険にする事もなく、真摯に対応してくれる。


「騎士団長。実は昨夜、彼が我が家を訪ねて来たんです。その際に僕の家の事を情報屋から聞いたと言っていました。まさかとは思いますが、騎士団の中に情報屋に通じている者がいるんじゃないかと…」


 騎士団長は僕の話を聞くとしばらく考え込んでいた。


 僕の発言を否定しない所をみると、騎士団長にも思い当たる節があるのだろうか?


「やはり、そうか。…前々からこちらの動きが盗賊に漏れているような気がしていたんだ。後はこちらで調査をしよう。知らせてくれてありがとう」


 僕は団長室を後にすると、そのまま騎士団の訓練に参加した。


 その後、騎士団の中では色々な動きがあったようだ。


 僕に知らされたのは、情報屋に通じていた騎士と情報屋の捕縛後だった。


 そして今日、盗賊のアジトへ乗り込むと聞かされた。


「ジェレミー。もしかしたらアジトには彼がいるかもしれない。それでも行くか?」


 騎士団長は気を使ってくれているのかもしれないが、やはりカインの事は見届けたい。


「はい。彼にはこれ以上、罪を重ねて欲しくはありません。だからこの手で彼を捕まえたいと思います」 


「わかった。しかしくれぐれも無理はするなよ」 


 騎士団長に釘をさされ、神妙な面持ちで頷く。


 アジトへ赴く準備をしていると、アーサーが話しかけてきた。


「ジェレミー。万が一カインを斬らなきゃいけなくなったらどうするんだ?」


 カインをこの手で斬る?


 考えたくはないけれど、そんな場合が来ないとは言い切れない。


「そんな時は来てほしくないけれど、やらなきゃいけないのならばやるしかないだろう」


「わかった。その時は私も容赦はしないぞ」


 やがて騎士団は盗賊のアジトへと向かった。

 

 見張りをしている者の話によると、首領以下何人かがアジトに残っているらしい。


 アジトへ突入する班に僕も加えて貰った。


 アジトの入口と裏口から一斉に中に踏み込む。


「騎士団だ! 逃げろー!」 


「一人も逃がすな! 全て捕まえろ!」


 あちこちで怒号が響き、剣のぶつかり合う音が聞こえる。


 カインは何処だ?


 アジトの中を探し回るが、カインの姿は見えなかった。


 もしかして、ここには居ない?


 少しホッとしたような気持ちになったその時、僕を目掛けて剣が振り下ろされた。


 カキィーン!


 咄嗟に剣で受け止めると、斬りかかって来たのはカインだった。


「カイン! 大人しく捕まってくれ! これ以上罪を重ねるな!」


 僕の訴えもカインは鼻で笑うだけだった。


「そんなわけにはいかないさ。捕まった所で死刑になるのは目に見えているからな。ここでお前を殺してでも俺は生き延びてやる」


 そう言って更に僕に斬りかかって来る。


 どこでこれだけの剣の腕を身に着けたのか、僕にはカインの攻撃を躱すのが精一杯だった。


 これだけの剣の腕があるのならば、まともに生きて兵士か騎士を目指せば、それなりに出世出来たはずなのに…。


 あの火事さえなければ、カインがここまで道を踏み外す事はなかったのだろうか?


「あっ!」 


 しまった!


 カインの攻撃で僕の手から剣が弾き飛ばされる。


 丸腰になった僕の喉元にカインの剣の切っ先が突きつけられる。


「悪いな、ジェレミー。これでお別れだ」


 カインが僕に向けて剣を振りかぶる。


 もう駄目だ!


 そう思ったその時、「ぐぅっ!」という声がカインの口から漏れた。


 見るとカインの体を貫いてアーサーが突き刺さっている。


「済まないね、ジェレミー。だけど容赦はしないと言っただろう。お前を死なせるわけにはいかないからね」


 そしてシヴァも僕を守るようにカインの前に立ち塞がっていた。


 ツーっとカインの口から血が伝い落ちる。


 カインの手から剣が離れ、カインはその場に崩れ落ちる。


「カイン!」


 駆け寄って抱き起こすとカインは力無く笑った。


「気にするなよ、ジェレミー。遅かれ早かれ死ぬ事になるのはわかってたんだ。ジェレミーの手にかかって死ぬのなら本望だ」


「…カイン」 


 かける言葉も見つからないまま、僕はただ、カインの命の火が消えるのを見ているだけだった。


 まだ温もりの残るカインの体を横たえて、カインの体から剣を引き抜く。


 アーサーの刀身には一滴の血も付いていなかった。


「ジェレミー。私を恨むかい?」


 アーサーの問いかけに僕はただ首を横に振るだけだった。


 盗賊団の首領も抵抗した挙げ句に討伐されたが、中には大人しく捕縛された者もいた。


 騎士団にも何人かが怪我をしていたが、大した被害はなかったようだ。


 全てが片付いた後で騎士団長に呼ばれた。


「ジェレミー、大変だったな。どうする。騎士団の仕事はまだ続けるかね」


 どうやら騎士団長は僕がカインを手にかけた事で騎士団を辞めるかもしれないと思ったようだ。


「いいえ。これからも続けますよ。彼のような子供をこれ以上増やさない為にも」


 それを聞いて騎士団長は満足そうに頷いた。


 家路につく馬車の中でアーサーとシヴァに告げた。


「アーサー、シヴァ。これからも危険が待ってるかもしれないけど、よろしくね」


 それを聞いてアーサーが嫌そうな声を出す。


「お前。私達がいるからって無茶をするなよ」


「アーサー。ジェレミーを守るのがお前の仕事なんだから諦めろ」 


 シヴァに諭されてアーサーがブツブツと文句を言っている。


 この先もこうやってこの二人に助けられて生きていくんだろう。


 僕の波乱の人生はまだまだ続きそうだ。




  ー完ー

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捨て子の僕が公爵家の跡取り⁉~喋る聖剣とモフモフに助けられて波乱の人生を生きてます〜 伽羅 @kyaranoa

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