第25話 王都の街へ

 次の日から学院に通う日々が始まった。


 授業内容は前世での小学生のようなものだったが、それなりに楽しかった。


 授業を午前中で終えると帰宅して昼食を取り、午後からは魔法の訓練や剣の訓練をした。


 たまに前を走るクリスの馬車が我が家の門をくぐり、一緒に昼食を食べる事もあった。


 今日も前を走るクリスの馬車が王宮ヘ向かわずに我が家の方へと角を曲がって行った。


 クリスの後を追って僕が乗った馬車が玄関脇に到着すると、既に使用人達が僕達を出迎えるべく整列している。


 僕とクリスがほぼ同時に馬車を降りると、使用人達が一斉に僕達に頭を下げる。


「お帰りなさいませ、ジェレミー様。いらっしゃいませ、クリス様。お待ちしておりました」


 僕とクリスは連れ立って玄関を入り、食堂へと向かう。クリスは我が家にすっかり馴染んで、まるで自分の家のように寛いでいる。


 母上は今日は集まりがあるらしく、既に出掛けていた。いわゆる女子会というやつだろう。


 僕とクリスが食事をしている間、アーサーが僕達の間を飛び交いながらおしゃべりをしていたが、それに飽きるとグィネヴィアの元へと向かったが、すぐに戻って来た。


「グィネヴィアがいない! …あ、そうだ。そう言えばジュリアに付いて行くって言ってたな」


 …普通、それ聞いたら覚えているよね。何で忘れるかな。


 僕とクリスは顔を見合わせて肩をすくめた。


 するとクリスが思い出したように。僕に聞いてきた。


「そう言えば、ジェレミーは王都の街を歩いた事はある?」


 クリスに言われてまだ王宮と学院しか行った事がないのを思い出した。


 王都に来てから間もなく一年になろうとしているのに、どこにも行った事がないなんて自分でも信じられないな。


「いや、まだどこにも行った事がない」


 それを聞いてクリスはあんぐりと口を開けて僕をまじまじと見た。


「うそ? どこにも? 公爵はどこにも連れて行ってくれないの?」


 クリスは驚いているけれど、そういう気遣いが出来ないから、母上が家出をするんだと思うんだよ。


 まぁ、僕もどこかにでかけたいなんて言わなかったからだと思う事にしよう。


「よし! じゃあ今から一緒に街に行こうか」


 何とも行動的な発言をする王子様である。


「今から? 勝手に出掛けて大丈夫なのか?」


 突然の発言に尻込みをする僕をクリスは急き立てる。


「ほら、早く。街を歩けるような質素な服を用意して貰ってくれよ。あ、僕の護衛騎士の分も頼むよ」


 クリスに言われるまま、僕はバトラーに僕達3人の服を用意して貰った。


 平民用の服とは言っても僕が孤児院で着ていた服よりはよっぽど仕立てがいい。


 僕達は街を歩けるような服に着替えて、目立たないような馬車に乗り、王都の街を目指す。


 孤児院から王都の街に出てきた時は町並みを見渡す余裕もなかったけれど、こうして王都の街を見るとやっぱり活気に満ちているのがわかる。


「クリスはしょっちゅう、街に行っているの?」


 僕が聞くとクリスはちょっと考えて首を振った。


「そんなには行っていないかな。一緒に行く友人もいないしね。でもこれからはジェレミーが付き合ってくれるんだろう?」


 そんな期待を込められた目をされたら嫌とは言えないな。


「僕で良ければ付き合うよ。ところで今日はどこへ行くんだ?」


「最近出来た評判のお店があるんだって。そこでお菓子でも食べないか? 甘い物は嫌いじゃないだろ」 


 それって女の子の街歩きみたいだけど、いいのかな。確かに嫌いじゃないけどね。


 そんな事を話しているうちに馬車が止まった。ここで降りて後は歩いて行くらしい。


 僕とクリスが歩く後ろを護衛騎士が目立たないように付いて来る。僕の懐にはちゃっかりアーサーが、影にはシヴァがいる。


 色んな店が立ち並ぶ中を僕とクリスは連れ立って歩く。


「ところでお目当ての店はどこにあるんだ?」


 僕が尋ねるとクリスは辺りをキョロキョロと見回した。


「表通りじゃなくて、どこか裏道を入るって聞いたんだけど、どこだったかなぁ」 


 店探しをクリスに任せて僕は目の前の店のウインドウを見ていた。色んな物が店先に並べられている。


「ねぇ、クリス」


 振り返った先にクリスと護衛騎士の姿はなかった。


 あれ? 何処へ行ったんだ?


 振り返った先に裏道に入る道が見えた。あそこに入ったんだろうか?


 慌てて後を追いかけるように角を曲がったが、その先には誰もいなかった。


「どうした? ジェレミー。迷子か?」


 アーサーがからかうような口調で話しかける。

 

 どうしよう。


 何処へ行ったらいいんだ?


 オロオロしていると、突然誰かとぶつかった。


「あ、ごめんなさい」


 そう声をかけた相手を見て僕は驚いた。


 えっ、まさか?!

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