第24話 入学式

 王宮を訪問してから、何度か母上と一緒にお茶会に招かれたり、またこちらから王妃様とクリスを招待したりして、僕とクリスは随分と仲良くなった。


 そしていよいよ、学院に入学する日がやってきた。


 学院に通う為に少し小さめの馬車が用意され、それに乗り込む。


 アーサーは僕の懐の中に収まり、シヴァは僕の影の中に入った。


 アーサーとシヴァがいれば護衛騎士なんていらないよね。


 最も学院に護衛騎士を連れてくるのは王族だけである。ある意味僕も王族と言えなくはないけどね。


 馬車が学院に到着すると一緒に乗り込んていた侍従が扉を開けて、僕を馬車から降ろしてくれる。


「それではジェレミー様、いってらっしゃいませ。後ほどお迎えに参ります」


 侍従は僕が学院の職員に連れられて校舎に入るまで、その場に待機していた。


 僕は職員に案内されて入学式の行われる講堂へと向かった。


 講堂にはほとんどの学生が集まっていた。身分が高いほど入場が遅くなるのだ。


 つまり後はクリスが来るのを待つだけとなっていた。


 やがてクリスが護衛騎士を連れて職員に案内されて講堂に入ってきた。


 クリスは隣に座る僕にチラリと目をやると少し口元を緩めた。僕も同じように笑みを返す。


 やがて入学式が始まった。


 式次第の内容はどこの世界でも似たようなものになるんだな。


 学院長の話を聞きながら僕はそんな事を考えていた。


 入学式も終わり、各教室へと移動する。


 王族、公爵、侯爵、伯爵までの身分の者で一クラス。子爵、男爵、富豪の身分で一クラスに分かれる。


 クラスは分かれても学院内での交流は自由ではあるが、馴れ馴れしく上の身分に話しかける者はいない。


 僕はクリスの次に高い身分ではあるが、今まで孤児院にいたので他の貴族との交流がない。


 したがってこちらから声をかけると言っても誰が誰だかわからないのだ。


 さて、どうしよう。


 そう思っていると、「ジェレミー」とクリスから声をかけられた。


「はい、殿下」


 僕は胸に手を当ててクリスに頭を下げた。


「私の後ろに立っていろ。今から皆が私に挨拶に来る」


 普段は見せない横柄なクリスの態度に一瞬怯んだが、王族として他者に隙を見せるわけにはいかないのだろう。


 クリスの言葉を合図にクラスの生徒達が身分順に列を作った。


 僕はクリスの後ろに立ち、クリスと一緒に皆からの挨拶を受ける。


 これでクラスの人物の顔と名前を知る事が出来る。


 一通り挨拶を交わした所で担任の教師が入室してきて、これからの授業の説明をしていった。


 オリエンテーションが終わると本日は終了だ。帰るのは今度は身分が高い順になる。


 クリスが護衛騎士を連れて教室を出ると、それに続いて僕も教室を出た。


 教室を出た所で数歩先を歩いていたクリスが僕を振り返った。


「ジェレミー。一緒に来い」


 勿論僕に断るという選択肢はない。


「わかりました、殿下」


 クリスの後を付いて校舎を出て、馬車へと向かう。


 そこにいる職員に僕の馬車への伝言を頼んで、クリスの馬車に同乗する。


 クリスの真向かいに腰掛けると、馬車が走り出した。


「やれやれ、ジェレミー。いつもどおりに話していいぞ」


 「王子」という仮面を外して、僕の身内としての態度に戻る。


「わかった。それにしても疲れるな。いつかボロが出そうで怖いよ」


「何を言ってる。少しは感情を隠す練習をしないと足元を掬われるぞ」


 クリスの言うことは最もだとは思うけれど、なかなか感情を隠す事が出来なくて、すぐに表情に現れてしまうのだ。


「それよりいきなり王宮に行って大丈夫なのか?」


 クリスとお茶会をするときは前もって連絡しておくのが常だ。それなのにいきなり行って大丈夫なのだろうか?


「心配ない。最初から連れて行くつもりだったからな」


 なるほど、予定通りと言うわけか。


 馬車はやがて王宮へと入っていった。


 護衛騎士が先に降りてクリスを降ろし、それに続いて僕も馬車を降りた。

 

 いつものようにお茶会室に行くのかと思えば、別の扉へと案内された。


 そこに入ると既に国王夫妻と僕の両親が席に着いていた。


 国王夫妻はともかく、どうして僕の両親までがここにいるんだ?


 驚きを隠せない僕を父上がいつもの無表情で告げる。


「ジェレミー、馬鹿みたいに口を開けてないで顔を引き締めなさい」


「そういうお前はもう少し感情を表した方がいいぞ」 

 

 陛下の指摘に父上は眉をピクリと動かす。


「二人共、そんなのはどうでもいいわ。今日はクリスとジェレミーの入学祝いなんだから」


 そう王妃様に言われて僕はやっと招待された意味がわかった。


 僕とクリスが席に着き、楽しい昼食会が始まった。 

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