第4話 寄り道

「いやぁぁああああっはぁぁぁぁぁぁぁああ!」


「バカバカバカバカぁァァアアあああ!!」


 オンボロの白いバンが汚い街を爆走する。コーナーで差をつけろと教わったので四十キロ以上は出して曲がる。直線はもちろん七十キロは出す。


 深夜のこんな時間に警察の取り締まりなどあるワケも無く。


「ほーい、着いた」


 急ブレーキとともに、目的地へ到着。


「あんた……免許もってんの? なによこの運転」


「ゲーセンで学んだぜ」


「心配しかないよ……じゃあとって来るから:


 彼女は車から降りて、ボロい倉庫へと向かう。


「……ついてくよ」


「別にそんな荷物ないよ?」


「なんか危ねえ感じがするしな」


 着いて気付いたけど……ここ前に俺が売春グループ殺したところだな。


「あっそ」


 少女の後を警戒しながら進む。

 腰のベルトに挟んでるハンマーに手をかける。


「服とかってどこにあるんだ?」


「えっ、あの捨てられてる事務所のロッカーだけど」


 指さした方向に、建築現場などによくあるプレハブの二階建て。


「走ってすぐ取って来て」


 声に余裕が無くなっていく。


「わ、分かった」


「……怯えさせてしまって、ごめんね」


 少女は走って、事務所の外側にある階段を使い二階へ向かう。階段の入り口を塞ぐように立ち塞がり、ハンマーを抜く。


「……ん?」


 車への逃走経路は確保している。

 倉庫の方から、ゆっくり歩いて近づく人影が一つ。


 足音、気配を殺して近づく。


「…………え?」


 人影の声。


 気付かれたか?

 素早く飛び出し、人影の背後に回りハンマーを首に当てる。


「はい。ちょっと静かにね~。うわっ、めっちゃ暴れる……」


 拘束した人物は俺よりも背が低い。

 これは……


「え? てか女性?」


「離せよ! オラッ!」


 面倒なのですぐに離す。

 こちらへ害意は無さそう。俺から逃げようと警戒してるくらい。


早紀さき姐さん?」


 背後から、少女の声。


しずく!」


 お姉さんが少女の方へ走り、抱き留める。


「お前ェ……しずくに何を!?!」


「違う、姐さん。違うの!」


 う~ん、なんか昔の知り合いに会ったっぽい? 少女の誘拐前の関係者だったら喜ばしいが。


「今、私ね。この人と旅してるの」


「旅ィ……? ん、お前よく見たら」


「イケメンでした?」


「ここのグループのカス共ぶっ殺した奴じゃん」


「え?」


 知ってたのか。

 少女の方はかなり驚いたのか、口をパクパクさせている。


 って事はこの早紀さんという人は、俺が売春グループ殺してる時に見かけた被害者っぽい人の一人か。


「なぁに、しずくが欲しくてあんた、あんな大立ち回りしたってワケ? やるじゃん」


「んえ? へへへ」


 なんか勘違いされてるけど、褒められてるからノッとこう。


「その人、おとといたまたま会っただけだよ」


「ばれちった」


 なんか距離の近いお姉さんにデレデレしてたら、少女ことしずくちゃんからの目線が厳しい。


「名前、何ていうのよ?」


 早紀さんの質問に、雫も興味津々といった様子でこちらを見てくる。


「あー。まぁ、ヒーローは名乗らないって事で」


「ははっ。おもしれえェな、お前」


 どうやら早紀さん荷物を取りに来たようで、見覚えのある車が止まって居たから出て来たとのこと。


「お前なら、雫も大丈夫だろ。じゃあ、私も帰るから」


「姐さん……せめて街の外まで送って。ねぇ、いいでしょ?」


 雫のワガママをいう子供化のような仕草が、妹の小さい頃に重なってキツかった。


「……いいぜ。雫ちゃん」


 からかう様に言うと、ムスッとした彼女にスネを蹴られた。


「イデェ!」


「はははっ、いいよ。雫、私はこれから行くとこがあるから。」


「ホントに?」


「うん。それに……邪魔しちゃ悪いだろ?」


 イタズラっぽく笑うと、早紀さんは汚いこの街の出口の方へと立ち去って行った。


「さぁて、行くかね?」


「うん」


 そう言って車に乗り込む。


 雫は、俺の斜め後ろの後部座席へ。

 エンジンをかけ、発車する。舗装のハゲた道路に車もがたつき揺れる。


「……ねェ」


「どうした。酔ったか?」


 運転が荒いのは、ご愛嬌だぜ。


「いや…………名前、何て言うの?」


 彼女と初めて会った時意外、自分の事は話してない。


「まぁ、廃人はいじんとでも呼んでくれ。みんなそう呼んでた」


「…………そっか」


 穏やかな、夜だった。



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