エピローグ

「……はい、以上で『30日のカリキュラム~クラス転移した先で各々のクラスで無能とされた四人にチート能力を与えて復讐を企てさせたらどうなるのか~』は終わります。皆さん、良い勉強になりましたか?」


 とある学校内にある教室、その教壇に立つセンセイは席に座りながら自分を見つめる生徒達に問いかける。生徒達はセンセイからの問いかけに頷いていたが、髪や肌の色がバラバラなその誰もがどこかただならぬ雰囲気を醸し出していた。


「はあー……なんかすごくボリューミーな内容だったなぁ」

「けど、人間の色々な部分が見られて面白かったよな。特に人間の女のあんなとこやこんなとこを……」

「もう、感想はそれしかないの?」

「これだから男神は……」


 生徒達がそれぞれの感想を述べ、教室内がざわざわとする中、センセイはニコニコ笑いながら口を開く。


「楽しんでもらえたようで何よりです。私もこの教材を作った甲斐がありましたよ」

「センセイだって結構ノリノリでナレーション入れてたんじゃないですか?」

「ふふ、それはどうでしょうね」

「でもセンセイ、だいぶ内容が過激なところもありましたけど、これでよく教材として許可されましたよね?」

「校長先生からの許可は得られましたし、これは皆さんが今後自分が管理する世界を持つ際に必要な知識でもあるので多少は大丈夫です。人間の心の黒い部分や人間の中にある三大欲求において一番犯罪行為などに関連する性欲については知っておかないと、後々厄介な事になるという実例でもありますしね。

そして、この教材の中で私が行った事は世界の管理をする上で不適切な部分を多く含んだあまり良くないやり方なのでそれを学ぶ機会だったわけです」

「不適切な部分……人間にいらない能力を目覚めさせてしまう事ですか?」

「それも正解の一つですね。今回のようにメインとなる人間が復讐を行う際、強力な力を与えるのは間違いではないですが、強力過ぎると人間は自分こそが世界の支配者なのだと考えてしまう場合があります。

そして、復讐を果たした後に更に面倒な存在として君臨してしまうので、下手に強力な力は与えない方がよく、相手の性格や周囲にいる存在などを見極めた上で適切な能力を与えましょう。もっとも、今回関わった彼らはそもそも世界の支配については興味は無かったようなので、問題はありませんでしたけどね」


 黒板に表示させた光真達四人の顔写真を示しながらセンセイが話す中、生徒の一人は手を挙げた。


「センセイ、四人はこの後どうしたんですか?」

「彼らは今でもこの世界で四大国の王や女王として生きていますよ。初めは慣れない事も多く、国民からの反発なども何度もありましたが、四人でその苦しさを乗り越え、今では国民達からも信頼されているようです。

この世界にはこの先勇者も魔王も現れませんし、彼らにとってはようやく辿り着いた安住の地となっているみたいです」

「そうなんですね……」

「さて、他に何か気付いた事はありますか?」

「えっと……あ、はい。人間と必要以上に関わりを持つ事ですか?」

「それも正解の一つですね。場合によりますが、私達は管理する世界に住む生物達にあまり積極的に関わらない方が良いです。あくまでも私達は世界を管理する神であり、その生きる姿を見守りながら時には試練を与えてそれを達成した際にはそれ相応の力などを与える。それが私達のやるべき事ですから。

ただ、中には世界に誕生した勇者に祝福を与える場合やこちら側の不手際で異世界の住人を呼び寄せてしまった際はその限りではありません。

その時には必要最低限の関わりを持つようにし、自己判断でそれ以降の関わり方は決めると良いでしょう。中には自分が関わった人間などに好意を抱き、夫婦になったり子供を作ったりする方もいますから」

「人間などと夫婦になったり子供を作ったり……今の私達では考えられない事ですね」

「それで大丈夫ですよ。特別な感情を持った方々はそういった事をするというだけなので、基本的には管理している世界の住人達はただ見守ったり目に余る行動をしたりした際にはそれなりの罰を与えるだけで良いですから」


 センセイが笑いながら話す中、生徒の一人は手を上げた。


「センセイ、この四人をそのまま生かしているのもそういった特別な感情があったからですか?」

「そうですね……私も別に彼らに対して何かを感じたわけではありませんし、力に溺れていった場合は世界ごと無くしてしまう事も考えてはいました。

ただ、私をただ信じるのではなく自分達で考えながら行動をし、時には戦った相手の話にも耳を傾ける姿が見られたので、このまま彼らの生きていく姿を見るのも面白そうだと思いましてね。なので、これからも彼らの人生は見ていきますよ」

「ふーん……なんか面倒臭そうだし、俺には出来ないなぁ。そういえば、これってセンセイがコイツらの生活の様子を小型のカメラを使って撮影して、編集したものなんだよな。って事は、コイツらがよろしくやってるところも全部見たのか?」

「はい。私は別に性欲はないのでまたやっているな程度にしか思いませんでしたが、それを別に皆さんに渡すつもりはありませんし、今ではその事も私の正体もしっかりと話していますから、手に入れようとしても無駄な上にその事もしっかりと話すのであまりその事は考えない方が良いですよ」

「ちぇっ、お見通しか。でも、世界の管理か……センセイはこうして教師やりながら世界の管理をするのってどうなんだ? やりがいってあるのか?」

「大変ではないですし、やりがいはありますよ。私達のような神や皆さん達のような半人前の神ではわかりませんが、心の奥底に暗い部分を持っていたり邪念を抱いたりしていても彼らのように時には誰かの想いに触れてそれを尊重したりお互いの心の中を見せ合ったりする姿を見るのは嫌いではありませんし、物語のような人生を歩むひともいますので見ていて飽きませんよ。

皆さんもこの学校を卒業して自分が管理する世界を持った際は、その世界の様子を眺めると中々面白いかもしれませんよ?」


 微笑みながらセンセイが言ったその時、授業終了を知らせるチャイムが鳴り、センセイは教室内にかけられた時計に目を向けた。


「おや、もうそんな時間ですか。それでは授業はこれで終わりにします。次回は管理する上で適切なやり方を記録した映像を観ていきますので、本日皆さんで観た映像と比べながら更に良いところと悪いところを見つけていきましょう」

『はい』

「それでは日直さん、挨拶をお願いしますね」

「はい」



 日直の生徒が返事をしながら立ち上がり、生徒達と挨拶を交わしたセンセイは生徒達が勉強用具を片付ける様子を眺めながら光真達の姿を収めた映像を片付け始めた。


「特別な感情……ですか。ふふ、私もないわけではないですね。初めはただの教材用の人間だったのが、今では受け持つ皆さんと同じように大切な生徒だと思っていますから」


 そして映像をカバンの中にしまい終えた後、センセイは窓の向こうへ視線を向けながら静かに微笑んだ。


「対田光真さん、一色真言さん、猪狩敦史さん、食満強佳さん、これからもあなた方四人は私の大切な生徒なので、しっかりとセンセイを続けさせてもらいますよ。復讐のためのカリキュラムは終了しましたが、皆さんのよりよい人生のカリキュラムはまだまだ始まったばかりですから」


 そう呟くセンセイの表情は穏やかであり、窓の向こうを見る目もどこか温かな物だった。

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30日のカリキュラム~クラス転移した先で各々のクラスで無能とされた四人にチート能力を与えて復讐を企てさせたらどうなるのか~ 九戸政景 @2012712

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