三十一日目 真相

 光真達が拠点としている寄宿舎、そこはシュオンにありながらも次元を隔てた事で他者が容易に侵入出来ないようにされた場所であり、許可なく踏み入れた者は問答無用で消滅させられる。

その寄宿舎のエントランスには、リュイ王国での復讐を終えた光真達四人、そして横に並ぶ四人を向かい側に立って見つめるセンセイの姿があった。


「皆さん、おめでとうございます。これで皆さんはあの四大国やかつてのクラスメートへの復讐を果たし、大国をそれぞれの手中へ収めました。本当に喜ばしい事です」

「たしかに喜ばしいな。これで俺達の目標は達成されたし、この後はそれぞれの国を俺達が統治する国としていけるからな」

「これから私達はそれぞれの国の王様や女王様になるんですね。国民の皆さんは納得しないと思いますが……」

「そこは話し合うしかないだろうな。ただ、能力は極力使わずにな」

「そうね。使えば簡単に国を支配出来るし、文句も言わせないようにだって出来る。でも、そんなやり方は別に望んでないし、私達が殺してきた元クラスメート達が考えそうな事だから、一緒になんてされたくないもの」

「そうだな。さて……喜ばしい事だし、これを祝したパーティーでもやりたいところだ。けれど、その前に明らかにしないといけない事がある。なあ、センセイ?」


 少し警戒しながら光真が聞き、真言達が視線を向ける中、センセイは微笑みながら頷いたが、その目はまったく笑っていなかった。


「はい、約束していましたから。さて、皆さんが聞きたいのは、復讐が終わった後に私がどうするか、そして四大国の睨み合いを無くした事による私の得、でしたね」

「そうですね……それに、リュイ王国での復讐を始める前、センセイはここをこれからも私達だけの拠点兼中継地点にしても良いと仰っていましたが、そうする事でセンセイに得があるとは思えません」

「ああ、真言の言う通りだ。センセイにとってそれ相応のメリットがあるから俺達に対してここまで待遇を良くしてくれたんだと思うが、そのメリットがまったくわからない」

「私達しか来られない上にここの設備はしっかりとしているからね。そんなの簡単に用意出来るとは思えないし、用意するだけの何かを私達がセンセイに与えたとは思えないのよ」

「センセイ、話してくれるか?」


 様々な経験を経た事で顔つきが変わった光真達を前にセンセイは静かに笑う。


「ええ、お話ししましょう。まずこれからの私ですが、元々いたところへ帰ります。ただ、ここの管理のために私の分身は残しますので、何か相談や必要な物がある場合はその分身にお願いします」

「元々いたところ……」

「その通りです。そして睨み合いを無くさせた理由ですが、初めの頃にもお話ししたようにあの四大国のピリついた関係性があまり好きではなかったからです。

王とは言えども彼らもまたただの人間に過ぎませんし、そんな人間ごときが他の国を攻めあげ、その果てに世界その物を手中に収めようとするその傲慢な考えが気に食わなかったので、貴方達に王達を殺す事で止めさせてもらったんですよ」

「つまり、協力というよりは自分の目的のために俺達を利用していたわけか」

「そういう事になりますね。因みに、貴方達を転移させたのはあの四大国の独断であり、私は一切関わっていません。ただ、ちょうどよく貴方達だけが能力を持っていなかったので、皆さんを保護して力の源を取り込ませて能力を目覚めさせたわけです」

「なるほどね……でも、どうして私達が目覚めた能力はこれだったのかしら?」

「手にする能力というのは、例外もありますが、それぞれの過去や性質が大きく関わってきます。因みに対田さん、リュイ王国の王の能力は何でしたか?」

「アイツの能力は『復讐強化リベンジストロンガー』、生前に誰か一人を指定して能力を使い、自分が死んだ際に自分の能力やこれまでに得た経験などをそいつへ受け継がせる物だった。アイツが能力の対象としていたのは娘だったみたいだけど、そいつも結局俺に能力を使った後に俺の手で殺したよ」

「そうですか。皆さんの場合は、一色さんと猪狩さんはそれぞれの過去に関係があり、対田さんと食満さんは例外だったようですね」


 センセイが笑みを浮かべながら言う中、光真は未だ警戒を解かずに話しかける。


「……センセイ、アンタには感謝してる。アンタの支援があったから復讐を果たせたし、こうして絆を深められた仲間も出来た。もっとも、この絆はある種の呪いでもあるけどな」

「そうですね。お互いに裏切る事は許されず、その際には相手から制裁を受ける。そんな絆だと言えます」

「そうだな。それで、アンタがまだ答えていない事がある。どうしてアンタは自分の事を“センセイ”だと自称しているんだ? 見た目こそ教師っぽいけど、もしかして本当にどこかで教鞭を取っている教師なのか?」

「……ええ、そうですよ。そして先程から知りたがっていたメリットもそこにあります」

「メリットが……」

「はい。皆さん、私は初日に座学や実地、復讐自体を含めて30日で行うと言った際、本当に妥当だと感じましたか?」

「……その時はあまり深くは考えなかったけど、よく考えたら急ピッチではあるな」

「そうですね……学校での授業自体は初めの五日間で、その後は全て実地でしたし……」

「センセイ自身もだいたいの計算って言ってたし、何というか……試験的な感じだったわよね」

「ああ。まるで俺達を使って実験をしていたような……」


 敦史が呟いたその時、光真は突然ハッとし、その様子に真言は驚いた。


「こ、光真君……?」

「……違ったんだ」

「違ったって……何がですか?」

「俺達はここまでの三十日間はあくまでも俺達のための期間だと思っていた。だけど、正確には三十日で本当に復讐を果たせるかを調べるための期間で、センセイは俺達を実験台、そしてこのシュオンを実験場にして三十日間という長い期間の実験をしていたんだ」

「利用していたというのはそういう事か。そしてセンセイにとってのメリットはその実験データを入手出来る事……」

「……私達、知らない内に実験台として扱われていたのね。だから、ここまで設備も整っていたし、色々な物を与えてくれていたんだわ。いくら復讐の手伝いをしてくれると言っても、待遇が悪かったら不満は出るし、もしかしたら逃げ出す可能性もあったから」

「センセイ、どうなんだ?」


 光真からの問いかけにセンセイは頷きながら拍手を送る。


「大正解ですよ、皆さん。ただ、満点までは少し足りないですね」

「足りないって……他に隠してる事があるのか?」

「ええ。皆さんはもうその実験は終わったと思っているかもしれませんが、まだ終わってはいません。今のこの瞬間も皆さんの様子や考えはちゃんと記録しています」

「記録って……一体どこから……」

「それに、記録しているのはただデータ集めをしたいからではありません。先程もお話をしたように私は一教師ですので、教師として授業をする必要があります。では、その教師が作ったり発注したりする物とは何でしょうか?」

「作ったり発注したりする物……え、まさか“教材”か?」

「はい、その通りです。では、ここまでの流れも記録出来ましたし、これで教材のための撮影は終わりです。皆さん、ここまで付き合って頂き本当にありがとうございました」


 その言葉に光真達が困惑する中、センセイはこちらを見ると、どこからか取り出したリモコンのスイッチを押した。

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