二十二日目 狂乱の虐殺

「はあっ、はあっ……!」


 ビャコ王国の城下町の外れにある竹林。そこでは十人の少年少女達が辺りを警戒しながら背を取られないように身を寄せあっていた。

彼らの表情は焦りと恐怖の色に染まっており、荒い息づかいはそれらに加えて彼らの緊張感も表していた。


「お、おい……本当にどうなってるんだよ……!?」

「ぼ、僕だってわからないよ! 昨日この辺りでいなくなった四人を探してただけなのに、いきなりどこからかボウガンの矢や色々な魔法が飛んできただけなんだから!」

「ちょっと! 喧嘩してる場合じゃないでしょ!?」

「そうだ。今は俺達を襲ってくる謎の敵を撃退する事の方が大事で──」


 その時、話をしていた少年の首にどこからか飛んできた小さな赤い棘が刺さった。棘が刺さった瞬間に少年は痛みで小さな声を上げたが、刺さった箇所はみるみる内に紫色に変色し、広がりながら強い熱を発し始めた。


「あ、熱い! 熱いぃーっ!!」

「お、おい!」

「誰か早く治してやれよ!」

「こ、ここには治せる能力を持ってる奴はいねぇよ!」

「出来る人はみんなお城に残してきちゃったし……!」

「そ、そんな……!」


 九人の少年少女達が焦りと不安を感じる中、棘が刺さった少年の肌は少しずつ変色しながら少年に内側から炎で炙られているような熱を与える。

痛みと熱の両方に苦しめられている少年は大きな悲鳴を上げながら変色した箇所をかきむしり始め、そこからは次々と血が滲み始めた。


「おい、止めろって!」

「い、嫌だ……死にたくない、こんなところで、こんな死に方で死にたくない! 熱い……痛い……苦しい……!」

「誰かコイツを止めろよ!」

「で、でも触ったら私達にまで広がるかも……」

「止めろって言うなら、お前が率先して止めろよ!」

「そう言うお前だって止めろって!」


 突然の出来事に少年少女達が仲間割れを始め、竹林に怒声と苦痛を訴える声が響く中、そこに二人の人物が姿を現した。


「……あーあ、もう仲間割れした。これじゃあまともに俺達と戦えないんじゃないか? なあ、真言?」

「そうですね。これなら後衛の二人に任せる必要も無さそうです」

「え……」

「お、お前は……一色!?」

「どうして一色がここに!?」


 現れた光真と真言の姿に九人が驚く中、苦しんでいた少年は目から涙を流しながら白目を向き、かきむしった事で血まみれになった身体をその場に横たえた。


「きっ、きゃあぁーっ!?」

「お、おい。大丈夫か!?」

「……もしかしなくても死んでるんじゃないか!?」

「ああ、そうですね。存分に苦しみ抜いて死んでいます。ああ……その痛みの中で血まみれになりながらも生を諦めきれずにもがき苦しんだその表情、本当にゾクゾクしますね……」


 少年の屍を見ながら真言がうっとりとしていると、それを見た九人は強い恐怖を真言に対して感じた様子を見せた。


「な、何を言ってんだよ……!」

「人が、クラスメートが死んだのにどうしてそんな顔が出来るの!?」

「……“元”クラスメートですよ? だって、能力の無い私を無能だと言って、自分達や兵士達の玩具にしようした人達なんてクラスメートでも仲間でも無いですから」

「それと……触ろうとしなくて正解でしたよ? その変色した部分に触ったら、その人にも毒が染み込んで同じように良い悲鳴を上げながら絶命するところでしたから」

「ひっ……!」

「そして……ほら、そろそろ変化が生じる頃ですよ?」


 その言葉と同時に屍となった少年は煙を出し始め、変色した肉体に触れていた制服も耐え難い臭いを発しながら少しずつ溶けていき、制服と共に溶けきった肉体は水っぽさのある数個の肉片と喋らぬしゃれこうべへと姿を変えた。


「と、溶けた……!?」

「ええ。一定の時間が経つと肉体は溶けていき、あんな風になるんですよ。本当に面白いですよね?」

「面白い、だと……!?」

「お前、ふざけた事を──」


 その瞬間、光真が目にも止まらぬ速さで動くと同時に二人の少年は動きを止め、光真が七人の後ろで長剣を鞘に収めると、二人の少年の首は少しずつずれていった。

その後、重さを感じさせる音を発しながら頭が足元に落ちると、頭を失った肉体はグラリと揺れてから倒れ、首から吹き出した鮮血は近くにいた少女の体や制服を深紅に染めた。


「……え? いっ、いやあぁーっ!?」

「な、なんだったんだ今の……!」

「さっきまでそこにいた奴が動いたと思ったら、二人の首が切られてそのまま……」

「流石です、私の光真君。いつもと同じようにカッコいいですよ」

「あはは、ありがとうな、真言」


 目の前で同い年の少年達を殺したとは思えない程の笑顔を浮かべる二人の姿に七人の恐怖心は増幅すると、血を浴びた少女は力なくその場にへたりこんだ後、あまりの恐怖に失禁し始めた。


「あ、あぁ……」

「おいおい、コイツら絶対にヤバイって!」

「ああ、とりあえずどうにかして逃げないと……!」

「逃げる? あなた達をこのまま逃がすと思っているんですか? せっかくこうしてまた会えたんですから、もっとゆっくりしていってくださいよ」

「ふ、ふざけるなぁっ……!!」


 へたりこんだ少女の隣にいた少年が怒りを露にしながら走り出すと、少年の肉体は少しずつ鉄へと変わっていき、少年は鉄の拳を真言へと振るった。

しかし、真言は事も無げにそれを避けると、勢い余って転んだ少年の背中に腰を下ろした。


「ぐっ……ど、退けよ……!」

「イヤです。背中越しとはいえ、女の子のお尻に触れているんですよ? もっと喜んでも良いじゃないですか」

「な、何をふざけた事を……!」

「肉体を鉄に変える能力、ですか……中々面白い能力ですし、相手の武器を受け止めた上で反撃する事も出来るでしょうね。けれど、私の鞭はそう甘くはないですよ?」


 そう言いながら真言は座ったままで少年の頭に棘鞭を振るった。放たれた棘鞭は鉄の肉体に弾かれる事無く少年の肉体を傷つけ、その痛みに少年は苦悶の表情を浮かべた。


「ぐあっ!? な、なんで俺の肉体に弾かれないんだ……!?」

「この鞭は光真君の武器と同じで特別製なんです。その程度では私の棘鞭を阻む事は出来ません……よっ!」

「あぐっ! がっ!?」


 次々と棘鞭が肉体を傷つけていくと、鞭が当たった箇所からは血が滲み出し、更に鞭が当たる事でその血は辺りに飛び散り始めた。


「ぐっ! ひぎっ!」

「はあ、はあ……最高ですよ、その表情、その声……もっとです、もっと苦悶の表情を浮かべながら良い声で啼いてください……!」

「く、狂ってる……!」

「いや……私達をここから逃がしてーっ!」


 うっとりとしながら鞭を振るい続ける真言の姿に六人の恐怖心は最大値にまで増幅し、青ざめた顔で助けを求める者や何も出来ずに体を震わせる者などその反応は様々だった。

そしてそんな六人に対して光真はゆっくりと近づくと、狂乱する少女の肩に静かに手を置いた。


「ひっ!?」

「……なあ、とりあえず聞いてみるんだけどさ、俺に身体を捧げたら助けてやるって言ったら言う通りにするか?」

「し、します……! なんでもしますから、私だけでも助けてください……!」

「なっ、お前……!」

「なに勝手な事を!」

「う、うるさい……! 助かるならアンタ達なんて見捨てるに決まってるでしょ!? 男のくせに何も出来ずにただ震えたり殺されたりするだけなのに!」

「お前……!」

「お前達だっていつもいつも自分達は女だからとか体力が多いのは男だからとか言って自分のやる事を押し付けてくるだろ!」


 六人が完全に仲間割れをし始め、中には相手の髪を引っ張ったり相手の性に対しての罵倒をする者が出てくる中、真言の横に移動していた光真は呆れた様子で六人を見始めた。


「あーあ、壊れちゃったか。心も関係もみーんな」

「そうですね。それで、さっきの子は助けるんですか?」

「いや、助けない。あくまでも“聞いてみた”だけで助けるとは言ってないからな。それに、真言に比べたらそこまでそそられないしさ」

「ふふ、そうですか。それではそろそろ終わりにしましょうか」

「そうだな」


 返事をした後、光真は右手を上げた。その後、竹林では七人の少年少女達が剣や棘鞭、ボウガンや魔法によって苦痛を感じながら絶命していき、屍達から力と能力を手に入れた光真達が姿を消してから数時間の後に城下町の住人は見るも無惨な光景に腰を抜かし、情けない悲鳴を上げていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る