二十三日目 血染めの白茨

 ビャコ王国内にあるコロシアム、そこでは鎧をまとった多くの兵士や騎士が息を切らしていた。そして兵士達の目の前には光真達の姿があり、その足元には先に挑んで敗北した幾多の屍が転がっていた。


「く、くそ……なんなんだよコイツらは!」

「仲間を連れて戻ってきたとはいえ、能力もないからと考えていたのにどうして俺達がこんなに押されているんだ!?」

「あり得ん……俺達はこのビャコ王国を守る兵士と騎士なんだぞ。子供なんかに後れを取るわけがないんだ!」


 兵士や騎士達がわけがわからないといった表情を浮かべる中、ところどころ赤くなった白いドレスを纏った真言は顔に付いている返り血を軽く拭ってから嬉しそうに笑った。


「うふふ……皆さん、良い顔をしていますね。でも、まだまだ私達はこの舞台で踊れますよ?」

「ぶ、舞台だと……!?」

「ええ、そうです。このコロシアムは私達が織り成す物語の舞台で私達は物語の主役、あなた方は私達に倒される役なのですよ?」

「ふ、ふざけるな! 少し力を手に入れた程度で調子に乗るな!」

「ふざけてなんていないですよ? これは私達による貴方達への復讐劇。そして次の幕を観客も楽しみにしていますから、そろそろ退場してもらいますね」


 その言葉と同時に真言の手に握られていた棘鞭は近くにいた兵士の体に巻き付き、真言が棘鞭を軽く引いた事で巻き付いた棘鞭は兵士の鎧にヒビを入れ、そのまま鎧は粉々に砕け散った。


「なっ……!?」

「鎧を砕く程の鞭だと……!?」

「そんな物を首や手足に巻き付けられたら……!」


 目の前で起きた出来事によって一部の兵士は恐怖に支配され、他の兵士や騎士は警戒を強めた。そして兵士の内の一人が軽く足を後ろに引いた瞬間、その下から赤い棘を生やした数本の白い茨が飛び出すと、その兵士と周囲にいた騎士を縛り上げた。


「な、何だこれは……!?」

「この茨……まさかその棘鞭の仕業か!」

「……ふふ、大正解です。どうやら武器も進化していくようで、その茨は私の意思に従って地面に出現してくれた後、その近くに来た敵を自ら捕縛してくれるんですよ」

「それ、本当に強いよな。昨日になっていきなり出来るようになった物だけど、事前に仕掛けておかなくても相手を捕縛してくれるし、同じような力も持ってるしな」

「お、同じような力……」

「はい。それでは、そちらの捕らえられた皆さんとはお別れしましょうか」


 その瞬間、白い茨は捕らえた兵士と騎士を強く縛り上げ、生やした棘は鎧を突き刺しながら肉体へと届いた。

そして、刺さった箇所は少しずつ紫色に変色し始め、兵士や騎士達は苦悶の表情を浮かべながら苦しみ始めた。


「あ、があっ……!?」

「あ、熱い……く、苦しい……!」

「や、焼ける……体が焼ける……!!」


 体を紫色に染めながら兵士や騎士達は耳を塞ぎたくなる程に悲痛な叫びを上げ始め、その叫びや逃げ出そうともがくその姿に残された兵士や騎士達の数名が吐き気を催してその場で嘔吐をし始める中で真言はうっとりとしながらもう片方の手を自分の頬に当てた。


「ああ……本当に素晴らしい光景です。苦しみながらも生にしがみつこうと必死になるその姿、内側から焼かれるような痛みと熱に侵されながらもがき苦しむその声……もっとです、もっと私にその声を聞かせてください……!」

「きょ、狂人め……!」

「この女も他の奴らもすぐに始末しなければ……!」


 残された兵士や騎士達は警戒を解かずに各々の武器を構え、騎士の内の数人が武器を構えながらも呪文を唱え始めると、炎や雷などの魔法が真言達へと放たれた。

しかし、それを光真は事も無げに自身の長剣で受け止めると、魔法達はそのまま長剣へと吸い込まれ、その光景に兵士や騎士達は絶望した。


「う、うそだろ……」

「俺達の魔法はそんじょそこらの魔道師よりも遥かに強いんだぞ!? それなのにそれをいとも簡単に……」

「この程度なら強佳の魔法の方が圧倒的に強いな。せっかくだし、その強さを見せてやれよ、強佳」

「はいはい……」


 強佳はやれやれといった様子で返事をすると、騎士達が放った魔法など比べ物にならない程の魔力をこめた炎と雷を放ち、それを受けた兵士や騎士達は一瞬にして消し炭と化した。


「そ、そんなバカな……」

「人間を一瞬で焼き尽くす炎と雷の魔法をあんな子供が使えるわけが……!」

「おあいにく様。私の中にはこれまで倒してきた奴の魔力が全て入っているし、私に使えない魔法は一つとしてないの。それに、この杖は通常の倍の力で魔法を使えて魔力も消費しない。だから、アンタ達ごときじゃ到底勝ち目はないのよ」

「そして、俺のボウガンも必中な上にその鎧ならば簡単に撃ち抜く。諦めておとなしく死んだ方が良いと思うが?」


 強佳と敦史が淡々とした調子で言う中、残った兵士と騎士は恐怖から悲鳴を上げそうになりながらもどうにか勇気を振り絞って光真達を睨み付けた。


「諦めるわけがないだろ……!」

「そうだ、俺達はこのビャコ王国を守る役目を担っている! お前達がどれだけ強かろうが俺達が諦める事は絶対に無いんだ!」


 地面を踏みしめながら兵士と騎士が声を上げていく中、光真はその光景に苦笑いを浮かべた。


「なんか俺達の方が悪役っぽいな」

「実際そうでしょ。向こうからすれば私達は王国の平和を脅かす存在で自分達の恨みを晴らすためだけに攻めてきた存在なんだから」

「そうだな。だが、俺達も復讐を諦めるつもりなどない。早々にコイツらを片付け、明日の相談をするために帰るぞ」

「ええ、そうですね。もっと悲鳴や苦しそうな顔を楽しみたいところですが、たしかにそれも大事ですから」


 微笑んだ真言が手を上げると、縛り上げていた兵士や騎士を死に至らしめた茨達が残された兵士や騎士達を続けて縛り上げ、捕らわれた兵士や騎士達は拘束してくる茨の力に苦しそうな顔をし始めた。


「あっ……ぐうっ……!?」

「ま、まだだ……この程度で諦めるわけには……!」

「まだ頑張ってくれるんですね。それならもう少しキツくしましょうか」


 その言葉と同時に茨の縛る力は更に増し、ヒビが入り始めた鎧からはミシミシという音が鳴り始めた。


「うぐっ……があぁっ!!」

「く、苦しい……!」

「こんな……力なんかに……!」

「うふふ……良い顔していますよ、皆さん。でも、なんだか少し物足りないですね……」

「も、物足りないだと……!?」

「ええ。なので、茨だけじゃなく暗闇と静寂にも捕らわれて下さいね」


 真言がニコリと笑った瞬間、茨の棘は兵士や騎士達の目と耳へと飛び、縛り上げられた兵士や騎士達は痛みから絶叫し始めた。


「ぎっ、ぎゃあぁーっ!!」

「め、目が……み、耳がぁ……!!」

「見えない……聞こえないぃ……!」


 視覚と聴覚を痛みと共に奪われた事で兵士や騎士達は完全に戦意を喪失し、その悲鳴に真言は恍惚とし始めた。


「はあ……良い光景ですね。暗闇と静寂の中でも自分を死へと追い込む痛みと苦しみが迫り、見えず聞こえずの地獄から逃げ出そうともがき苦しむ……あぁ……なんて素晴らしいんでしょうね」

「これを素晴らしいと言えるのは本当にヤバイけどね。さてと、これでコイツらも戦えないし、さっさと殺してから力と能力を奪って帰りましょ。そろそろシャワーを浴びたくなってきたもの」

「そうだな。返り血と汗を流し、次の作戦を立てるとしよう」

「おう」


 四人は頷き合った後、目を覆いたくなるような程に凄惨な光景を作り始め、光真達が消えた後にはこの世に作られた地獄だけが残された。

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