二十一日目 竹林の地獄絵図

 シュオンの西部に位置する大国、ビャコ王国。古くからの文化が現代にも伝わっている事で古い建築物や美術品なども残り、食事や言葉に関しても独特の物が多く見られる王国だ。

そんなビャコ王国の城下町を制服姿の数人の少年少女が歩いていたが、その手には串団子や串焼きなどが握られており、城下町の賑やかな雰囲気を楽しみながら少年少女は楽しそうにしていた。


「ほんと、この国に転移されて良かったよな」

「そうだね。ご飯も美味しいし、雰囲気ものんびりとしている……ここにずっと住んでても良いかもしれない」

「良いかもしれない、というか戻る手段も無さそうだから、結局ここに住み続けないといけないけどな」

「ただ、向こうのつまらない日常よりはずっとマシじゃない? めんどくさい勉強もしなくていいし、口煩い家族もいないから。

戦いの特訓や他の国からの襲撃に備えての見廻りは必要だけど、少し前に世界中から魔物の姿も消えて、ここの国と争いを始めるかもって言われてた大国の内の二つも誰かに襲われてすごく混乱してるみたいだしさ」

「その誰かがここに来たらって思ったらのんびりはしてられないけど、ここの王様もウチの戦闘要員達も強いし、そう簡単には負けないだろ」

「あはは、たしかに」


 四人が楽しそうに笑っていた時、反対側から一人の女性が歩いてきた。その人物は綺麗な紅色の着物でモデルのようにスラリとした身を包んでおり、薄い唇と鋭い目の下についた泣き黒子がある目鼻立ちの良い色白の顔と妖艶な雰囲気には道行く人々も目を奪われ、歩いていた少年少女も例には漏れず女性の姿をボーッと見つめた。


「うわ、すっげぇ美人……」

「うん……向こうでもあんなに綺麗な人は見た事がないよ……」

「あの人、この辺じゃ見かけないけど、他の国から来たのかな?」

「でも、このビャコ王国以外で着物を普段から着る国ってあるの? もしあるなら聞いた事があると思うけど……」

「まあな……けど、あんな人とお近づきになって、そのまま恋人になれたら良いよな。他の奴にも自慢出来るし、すごい大人な感じだからムードの良いところで二人きりになってそのまま……」

「ちょっと、すぐそういう話をするのは止めてよ。まったく……男子って女の人を見るとすぐそういう話をするんだから……」


 お調子者そうな茶髪の少年の言葉にメガネを掛けた少女がため息をついていると、謎の女性はそのまま四人のところまで歩いていく。

そして、その様子に四人が緊張する中、女性は目の前で足を止めると、軽く顔を近づけてからふわりと笑った。


「こんにちは、カッコいい男の子達と可愛らしいお嬢さん達」

「こ、こんにちは……」

「あの……私達に何か……」

「ええ。突然で申し訳ないけれど、実はあなた達にちょっとついてきて欲しいところがあるの」

「私達に……ですか?」

「そう。こんな女にそんな事を言われても困るだろうけど、私と一緒に来て……くれない?」


 そう言いながら女性が着物の合わせの部分を軽くはだけ、二つの小さな黒子がある胸元をチラリと見せる。

それによって見えた少し大きめな胸部に少年達はドキリとしながらも何かを期待するようにニヤニヤと笑い、大人しそうな少女が顔を赤くしながらドギマギとしていると、メガネを掛けた少女は少年達を軽く小突いた。


「ちょっと、なにデレデレしてるのよ」

「し、仕方ないだろ……!」

「そうだそうだ。こんな大人なお姉さんに声をかけられた上に誘われるような仕草をされたらこうなっても仕方ないんだよ……!」

「……ほんと最低。でも、困っているなら別に構いませんよ。断ろうと思ってもこっちのバカ二人がそれを拒みそうですし」

「うふふ、ありがとう。それじゃあこっちまで来てくれる?」


 そして、城下町の人々の視線を浴びながら女性の後に続いて四人は歩き出し、数分後には少し開けた人気のない竹林に到着した。


「ここよ」

「ここ……」

「何の変哲もない竹林だよね……」

「そうだよな……」

「あの、どうしてここに……?」

「……それではそろそろ教えるわね。でも、その前に……光真君、お願いします」

「おう」


 返事をしながら光真が姿を現すと、四人はすぐに警戒した姿を見せる。


「だ、誰だお前……!?」

「普通の復讐者だよ。さてと……それじゃあ始めるか」


 そう言うと、光真の体から四つの白い光の玉が飛び出し、それは四人の体の中へと入り込んでいった。


「な、何だ今の……」

「今のは能力だよ。どんなに酷い怪我をしたり強い毒や呪いを受けてもそれを少しずつ回復し、死ぬ事すらなくなる、な」

「なんだそれ……そんな無敵になる能力を俺達にくれたのか?」

「それはありがたいけど、それを私達にくれてどうするの?」

「ありがたい、か。その言葉、すぐに後悔する事になるぜ?」


 その言葉と同時に四人の首元には女性から放たれた血のように赤い棘がついた白い鞭が巻き付き、キツく縛られた事で四人は強い力で寄せ集められると、赤い棘は四人の首に深く刺さり始めた。


「ぐっ……!?」

「く、苦しい……!」

「……ふふっ、良い声ですね。でも、もっとあなた達には苦しんでもらわないといけませんよ? これまで私を散々苦しめ、ここに来た時にも同じような扱いをしようとしたあなた達には」

「く、苦しめたって──え、真言……!?」


 謎の女性がいたところには同じ紅色の着物姿で棘鞭を持ちながら楽しそうに笑う真言がおり、その姿に四人は心から驚いた顔をする。


「な、なんでお前がここに……!?」

「その意外そうな顔……てっきり私がとっくに死んでいたと思っていた顔ですよね?」

「そ、そうだろ……だって、お前には能力がなかったんだから……!」

「そう、あなた達は唯一能力がなかった私を兵士やあなた達自身の慰み物として扱おうとし、もうそんな生活が嫌だった私は逃げ出した。けれど、今の私にはあなた達ごときでは勝てない程の能力も武器もある。だから、私は戻ってきたんですよ。あなた達に復讐し、これまで私が受けてきた以上の苦しみを味わわせた上で殺すために」

「こ、殺す……!?」

「ええ。私はもう何人も手に掛けて来ましたから、今さらあなた達ごときでは躊躇う気もないんですよ。さて、それではそろそろ最初の苦しみを味わってもらいましょうか」


 その言葉と同時に四人の顔は青ざめ、苦痛に歪んだ表情を浮かべた後に少年達は込み上げてくる吐き気に耐えきれずその場に嘔吐した。


「うっ……うえぇ……」

「うぐっ、ごほっごほっ……!」

「ああ……すごく良い顔をしてますね……」


 胃の中の物を嘔吐し、それだけでは足りずに胃液まで吐き出す少年達の姿を真言がうっとりとしながら見ていると、メガネを掛けた少女は嫌悪感を露にした。


「アンタ、頭おかしいんじゃないの……!? この顔のどこが良い顔してるのよ!」

「何を言っているんですか? 注入された毒に冒されて、それに体が拒否反応を起こした事で嘔吐しながらもまだまだ苦しそうに青い顔で冷や汗を垂らす……その何も出来ずにただ苦しさを味わう顔が良いんじゃないですか」

「ひっ……!」

「それじゃあ次の苦しみといきましょうか」


 そう言うと同時に真言は指を鳴らす。すると、四人の両足と両腕にはどこからか飛んできたボウガンの矢がそれぞれ一本ずつ刺さり、四人は声を上げながらその痛みに顔を歪めていたが、矢が刺さった箇所はたちまち黒く粘っこい液体を出し始め、その部位は少しずつ広がっていった。


「ぐっ、ぐあぁっ……!?」

「い、痛い……痛いよぉ……!!」

「それに、なんだこの臭い……うえぇ、鼻が曲がりそうな程に臭い……!」

「これ、まさか……」

「ええ。あなた達の手足はこのまま腐蝕していき、そのまま腐り落ちます。でも、安心してくださいね? さっき光真君があげた不死身の能力があれば死ぬ事はありませんし、腐り落ちた手足もさっき注入した毒も少しずつ回復しますから。もっとも、毒は首を絞めながら継続して注入しますし、手足が再生する際にこれまで感じた事がない痛みを感じる事にはなると思いますけどね」

「じゃ、じゃあそのために俺達に不死身の能力を……!?」


 お調子者の少年が恐怖を感じる中、真言は背筋が凍りつきそうな程に冷たい笑みを浮かべた。


「はい。ただ殺すだけではつまらないですから。私の能力で自分から死んでもらう事も出来ましたけど、あなた達や他の人達にはめいっぱい苦しんでもらいたいんです。それが私の復讐ですから」

「い、イヤ……!」

「はあ……良いですね、その恐怖を感じて今にも泣き出しそうな顔。見ていてすごく興奮してきます。でも、まだ足りませんよ。もっとその棘鞭に縛られながらあらゆる毒で苦しみ、定期的に飛んでくるボウガンの矢と再生の痛みに顔を歪めながら壊れていってくださいね」


 その穏やかな口調で言った後、真言は更に棘鞭に力を込めて縛り上げる。そしてそれからおよそ一時間の間、竹林では少年少女の嗚咽や苦痛を訴える声が聞こえ続けており、精神が壊れていく中で涙ながらに止めるように懇願する少年少女の事を真言は時折赤い舌でチロリと自身の下唇を嘗めながら息を荒くしたとてもゾクゾクした様子で見続けていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る