第41話 A58ダンジョン攻略2


異空間ダンジョンと違い、地上のダンジョンは何層も階層の連なる構造となっている。


基本的にモンスターは下層に行けば行くほど強くなっていく。


僕の現在地は第一層。


今の所ゴブリンしか出現していない。


いくらAランクのダンジョンといえど、第一層では雑魚モンスターしか出てこないようだ。


『グギィイイイ!!!』


『グゲゲ…!』


『ギィギィ!!』


雑魚と戯れていても仕方がないため、僕は歩調を早めて第一層をさっさと通過しようとする。


すると行手にゴブリンの群れが立ち塞がった。


全部で二十匹以上の大群だ。


一匹一匹相手にしていたら時間がかかってしまう。


僕は手早く群れを仕留めるための範囲攻撃を使うことにした。


「スキル…『拡張』」


僕はスキルの力の及ぶ範囲を広げることのできるスキル『拡張』を発動する。


このスキルを使用した状態で、別のスキルを使うと、そのスキルの効果が広範囲にわたって得られることになる。


『グギィイイイ!!』


『グゲゲゲ…!』


『ギィギィ…!』


ゴブリンの群れは嬉々として僕に突っ込んでくる。


「スキル……『ドレイン』」


僕は何も考えずに突っ込んでくる愚かなゴブリンたちに、容赦なく生命力吸引のスキルを放った。


『グ…ゲ…?』


『グ…ギィ…』


『ギャ……ギャギャ…』


ゴブリンたちが途端に動きを止めて苦しみ出す。


僕のスキルによって生命力を吸い出され、地面に膝をつき、やがてはバタリバタリと倒れていく。


ものの1分程度で、立っているゴブリンは一匹もいなくなった。


「う…少し吸いすぎたな…」


ゴブリンの群れから吸引した生命力が僕に流れ込む。


体力を消耗している時はこのスキルで回復できたりして便利なのだが、体力が有り余っている時に使う者ではないな。


なんというか、受け皿を超える生命力を吸い取ってしまうとむず痒感じがするんだよね。


まぁ、別に戦闘に支障が出るほどではないけれど。


「お、吸い込まれてく吸い込まれてく」


生命力を吸引され絶命したゴブリンたちの死体は、すぐにダンジョンの床に吸収されていった。


後に残されるのは紫色の魔石。


僕はそれらを拾い上げて『収納』スキルで亜空間に収納する。


「……(えぇ…嘘。今何が…?)」


「ん…?」


ゴブリンの群れの魔石を集め終わったところで、僕はふと背後から気配を感じた。


一瞬モンスターかと思ったが違う。


これは人の気配だ。


他の探索者だろうか。


「なぜ隠れているんだろう?」


その人物は、物陰に隠れたまま僕のことを観察している。


他の探索者ならなぜそのようなことをしているのか理由がわからない。


敵意のようなものは感じないから、襲われる心配はないと思うけど。


「まぁいいや」


僕は気にしないことにして、先に進む。




「なんでついてくるんだろう…」


すぐにいなくなると思っていた背中の気配は、その後も僕をつけまわしていた。


僕は現在、A58ダンジョン第一層の最奥にいる。


もう少し進めば、第二層へと通じる階段があるはずだ。


僕はさっさと二層にいくべく、早足でダンジョンの通路を歩く。


すると背中の気配も速度を上げて僕をつけまわしてくる。


「何が目的なんだろう?」


殺気は感じない。


僕を背後から襲って魔石を奪う……のが目的ではなさそうだ。


たまにだが探索者同士の殺し合いもダンジョンの中で発生したりするという。


その多くが、他の探索者の魔石や高価な所持品を狙ってのことだ。


けれど今の僕は別に高値で売れるような魔石も、高級な装備も持っていない。


誰が一体なんの目的で僕をつけまわしているのだろうか。


「僕が気づいていることに、おそらく向こうは気づいていない…」


自分の尾行がバレていることに相手は気づいていないようだ。


…つまりその程度の実力ということなんだろう。


「放っておくか」


危険がないのならわざわざこちらから接触する意味もない。


僕は謎の尾行者を放っておいて、足を早める。


『グゲ』


『グギ』


「ん?なんだ…?ああ、ゴブリンアーチャーにウィザードか」


そうこうしていると、僕の目の前に二匹のモンスターが立ち塞がった。


ゴブリンアーチャー、そしてゴブリンウィザードだ。 


『グゲ』


『グギ』


ゴブリンの上位種であり、共に遠距離攻撃手段の持ち主である二匹は僕に向かってそれぞれ矢と魔法で攻撃しようとしてくる。


次の瞬間、スキル『攻撃軌道予測』が発動し、僕の視界に彼らの攻撃軌道が赤いラインで可視化される。


「なんだか懐かしいな」


僕は初めて異空間ダンジョンに潜った時のことを思い出していた。


あの頃、まだ小学生で弱かった僕は、この『攻撃軌道予測』スキルに助けられながら、

必死になってこいつらと戦っていたっけ。


「今は避ける必要すらなくなったんだけどね」


『グゲ!?」 


『グギ!?』


ゴブリンアーチャー、そしてゴブリンウィザードが僕のとった行動に目を見開く。


僕はまずゴブリンアーチャーが放った矢をキャッチして投げ返した。


次に少し遅れて迫ってきたゴブリンウィザードの火球をスキル『反射』によって軌道を百八十度捻じ曲げる。


『グゲ…ッ』


『グギ…ッ』


ゴブリンアーチャーとウィザードは、それぞれ自らが放った攻撃をまともに喰らうことになり、絶命した。


二匹の死体はすぐにダンジョンの地面に吸収されて、後には普通のゴブリンよりも若干大きな魔石が残される。


「これくらいの大きさなら少しはお金になるかな」


僕はゴブリンアーチャーとゴブリンウィザードの魔石を拾い上げ、収納してからさらにその先に向かった。


「……(えぇええ…どういうことですか今の……アーチャーの弓矢を素手で…?ベテラン探索者でもあんなこと出来ないですよ……何者なんですかあの人。本当に学生ですか…?)」


なんか背後の岩の影から小さな声が聞こえてきたような気がしたけど、多分気のせいだろう。






〜あとがき〜


現在新作を公開、連載しています。


無人島でクラス追放された件〜昔蓄えたサバイバル知識で一人でも余裕で生き延びます〜え?毒キノコが見分けられない?罠が作れない?知らねーよ自分たちでなんとかしろ〜


https://kakuyomu.jp/works/16817330650479419653


ぜひこちらの方もよろしくお願います。



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