返してもらうぞ

 違和感のある言い方だ。

 魔王の部下だからそう言っている……ようには見えない。

 ふと思い当たる。

 確かリリスの話では、ここは魔剣の魔王が誕生する以前、別の魔王がいたという。

 噂では魔剣の魔王に倒されたとされていたが……。


「まさかお前が、先代の魔王か」

「っ、儂はあんな小童を認めてはおらん!」


 怒りのままに突進してくる。

 短絡的な動きで読みやすい。

 俺は簡単に受け止め、地面にたたきつけて聖剣を突き立てる。


「くっ……」

「図星みたいだな」

「勇者だったのか……くそっ」


 本気で悔しがる彼を見て、俺はあることを思いつく。


「……なぁ元魔王、取引をしないか?」

「取引だと?」

「ああ。俺たちの目的は魔剣の回収だ。そのために魔王を倒す。その後はあんたがこの城を貰えばいい」

「な、何を……」

「その代わり、俺たちに協力してくれ」


 元魔王の男は歯ぎしりをする。


「配下になれというのか!」

「違う。仲良くしようってだけだ。今後、俺たちが困ったら助けてほしい。いうなれば同盟かな?」

「同盟……だと? 勇者が悪魔と手を組むと?」

「あいにく、俺はもう勇者じゃない。今の俺は、魔王リリスの配下だ」


 リリスが俺の後ろから顔を出す。

 怒りにかられていた男は、今になって彼女の存在に気付いたらしい。

 目を丸くして驚いている。


「この娘が……魔王? しかも配下だと?」

「そうだよ。今はまだちんちくりんだが、いずれこいつは大魔王になる」

「だ、誰がちんちくりんじゃ!」

「……さっきの話、本当か?」


 男は訝しむように俺を見つめる。

 拳を握り、震わせる。


「ああ」

「……わかった。頼む……儂の城を取り返してくれ」


 声を震わせながら、彼は頭を下げた。

 魔王が勇者に頭を下げるなんて、相当な屈辱なはずだ。

 そうしてでも、彼は取り戻したがっている。

 この城を、自身の家を。


「任せろ」


 元魔王と契約を交わし、俺たちは最上階へ進む。

 他の悪魔たちは襲ってこない。

 さっきの男が部下たちに命令したのか。

 どうやらここの新しい魔王は、よほど部下に嫌われているみたいだ。

 その理由は、出会ってすぐにわかった。


「なっ、侵入者が来てるじゃないか。くそっ、使えない奴らだ」

「……なるほどな」


 その男は魔王と呼ぶにはあまりにも弱々しい。

 魔剣さえなければ下級悪魔だ。

 偶然手に入れた魔剣で粋がっていたのだろう。

 そんな奴に地位を奪われ、上から命令されていたのなら……さぞ気分が悪かったはずだ。

 少し同情する。


「お前が魔王リーベだな。ってことは、腰のものが終焉の魔剣か」

「なんだお前は? 勇者か! なんで勇者が悪魔と……ああ、お前確かあの城にいた子供か!」


 リーベがリリスに気付く。

 一方的に面識があったらしく、彼はリリスを馬鹿にする。


「あの時はどうも。全然気づかないしザルな警備で盗みやすかったよ。今さら取り返しに来たのか? 勇者と手を組んで? どれだけプライドがないんだよ」

「くっ……この木っ端悪魔が……」

「安心しろ。すぐに終わる」


 俺は胸に手を当て、原初の聖剣を抜く。

 リーベを見ているとなんだかイライラしてくる。


「はっ! たかが勇者一人が俺に勝てると思うなよ! この魔剣の力を見せてやる!」


 リーベは玉座から立ち上がり、魔剣を抜き去る。

 おぞましいオーラを纏う漆黒の刃。

 これほど禍々しい剣を見たことがない。

 加えて、抜いた直後からリーベの魔力が膨れ上がった。

 終焉の魔剣には、使用者に無制限の魔力を与える効果がある。

 そしてもう一つ。

 使用者の魂、強さのイメージを具現化した魔獣を召喚する。


「これが……」


 リーベの強さの化身。

 魔剣が纏うオーラが膨張し離れ、四本足の巨大な獣の形になる。

 モデルはケルベロスか。


「食い殺せ!」


 魔獣が俺たちに襲い掛かる。

 こう圧縮された力の塊は、触れるだけで相当な破壊力をもつ。

 なるほど、これに新米勇者は負けたのか。

 一応は納得した。

 だが――


「なっ……」

「俺には足りないが」


 魔獣の攻撃を聖剣で受け止める。

 強力な一撃だが、俺にはまったく届かない。

 この程度の攻撃、今まで何度も受けている。


「お前の強さはこんなものか? だったら魔王なんて肩書、不釣り合いだな!」


 魔獣を弾き飛ばし、体勢を崩したところで両断する。

 思った以上にあっけない。

 所詮はこの程度……と、思った直後に魔獣が復活する。


「ははっ! 残念だったな! そいつは俺が生きてる限り死なないんだよ!」

「そういうことか」


 使用者を倒さない限り無限に復活する魔獣。

 確かにやっかいだが、自分から攻略法を口にしたのは馬鹿すぎる。


「リリス! こいつは俺が抑えておく。やれるよな?」

「……うむ! もちろんじゃ!」


 リリスが前に出る。

 サラも察して、邪魔しないように下がった。


「おいおい、子供のくせに俺と戦う気か? やめておけって、怪我する前に家に帰りな」

「……それはお父様の剣じゃ」


 リリスは拳を握る。

 ずっと怒りを感じていたのだろう。

 父親の剣を手に、調子に乗っている木っ端悪魔に。


「ぬしのような三下が持つべき剣ではないのじゃ!」


 怒りと共に、ペンダントの効果を発動させる。

 大人になったリリスを見て、リーベは驚愕する。


「な、成長した? そんなのありか!」

「返してもらうぞ!」

「く、くそっ!」


 前進するリリス。

 ビビりながらリーベは魔剣を振るう。

 放たれる黒い斬撃。

 濃縮された魔力の斬撃は、地面を切り裂いてリリスに迫る。

 魔剣の一撃は強力だ。

 ただし、使用者の力量に大きく左右される。


「ぬるい!」


 リリスは軽く素手で弾く。


「なっ!」

「お父様の魔剣はこんなものじゃない!」


 怒りのままに前進する。

 さぁ、見せてやれ。

 その魔剣を持つ資格があるのは誰なのか。

 木っ端悪魔に思い知らせろ。


「返せこの馬鹿者が!」

「ぐえぇ!」


 思いっきり殴り飛ばした。

 グーで頬を。

 もろにくらったリーベは吹き飛び、壁に激突する。

 衝撃で魔剣を手放し、リリスの前に落ちる。


「っと、はぁ……お父様」


 リーベが気絶したことで魔獣は消えた。

 俺とサラはリリスの元へ近寄る。


「取り戻せたな」

「……うん」


 リリスは魔剣を抱きしめ、涙目で笑う。


「ありがとう、なのじゃ」


  ◇◇◇


 数時間後。

 気を失っていたリーベが目覚める。


「くっ……いたた」

「目が覚めたようだな」

「あ、お前! 何してたんだよ役立たず! お前らがノロマだから勇者が責めてきたんだぞ!」

「それは災難だったな」

「まったくだ! ったく、役立たずだから俺の魔剣……あ……」


 今さら気づく。

 すでに魔剣が自分の手元にないことに。

 魔剣がなければ戦えない。

 彼はただの、木っ端悪魔だから。


「あ、えっと……」


 いつの間にか多くの悪魔たちが彼を取り囲む。

 誰一人笑っていない。

 見下ろし、怒りに満ちている。


「……覚悟しろよ」

「い、いやああああああああああああああああああああああああ」


 その悲鳴は、新たな時代の幕開けか。

 それとも過去への回帰か。

 魔剣の魔王は倒され、新たな魔王が……否、古き魔王が復活したのだった。


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

これにて『大魔王の遺産』編は完結です!


速く読みたいと言う方は、ぜひ『小説家になろう』版をご利用ください。

URLは以下になります。


https://ncode.syosetu.com/n2294hx/


よろしくお願いいたします!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る