最初はさ、バラバラにしてからトイレにでも流せばいけるかと思ったんだよ。昔さ、どこかで男が同じマンションに住んでる女を殺して、証拠を隠滅するために死体をミンチにしてトイレに流したっていう事件があったろ。聞いた当時は恐ろしい事件だな、俺にはこんな酷いこと出来ないなと思ったんだけどさ、ははは、あれ結局は監視カメラやら指紋やらで犯人を割り出したわけで、死体自体は全部処分されちまってたんだよな。だから参考になりそうだと思ったんだけど、でも俺ん家はいまいちトイレの流れが良くないんだよ。いざやってみて詰まっちまったら業者を呼ばなきゃならないじゃん?せっかく苦労して流したって、業者の目の前で逆流してきたら一発アウトだからさ、ははは……で、それは一旦保留にして、他の手段を考えることにした。次に思い浮かんだのは、溶かすことだった。だいぶ前に実録系の漫画で読んだからたぶん俺が産まれる前の話だと思うけど、ホストが殺された後に鍋で煮込まれて溶かされたって事件があったじゃん。でもあれはデカい鍋で薬剤か何かを使って煮込んでいるんだよな。俺はラーメン屋じゃないからそんなデカい鍋なんて持っていないしさ――ラーメンは好きだけどな、ははは――それに薬剤で煮たら凄い臭いが出そうじゃん?部屋の中にも変なガスが充満しそうだしさ。近所の人間に通報されて家の中に警察が入ってくるようなことがあったらやはり一発アウトだよ。だからこれも真似は難しいなと思った。

まあそんなこんなで考えていたんだけど、いずれにしてもバラバラにしなきゃいけないのは確定だからさ、とりあえず俺は近所のホームセンターに行って鋸と、それと大きいサイズのゴミ袋とビニールテープを買ってきた。DIYブームだから鋸を買う位は別にあやしくないだろうと思いつつ、でも変に疑われないかちょっと心配だったからカモフラージュのために必要のない工具箱とかも買ってきてさ、まったく余計な出費だったよ、ははは。帰り道にはコンビニに寄っておにぎりとお茶を買って、歩きながら飲み食いした。これから一運動だから、軽めに腹拵えしておこうと思ってね。

で、家に着いたらまずゴミ袋を切ってシート状にして、風呂場の床や壁にビニールテープで固定してさ、天井と排水溝の周り以外はゴミ袋で覆って、会場のセッティングとしては完璧って感じだったよ、ははは。それから部屋の電気を点けてカーテンを全部閉めて、女の死体を冷蔵庫から取り出して、またお姫様抱っこをして、セッティングしたばかりの会場に運んで、ゴミ袋のシートの敷かれた床に直に座らせた。俺は女の顔を、身体を、改めてまじまじと見つめた。死んでから何時間も経っているし、顔も鬱血が残ってはいたけれど、それでも相変わらずいい女だった。これがもうすぐ見る影もない姿になっちゃうのが、そのときだけは少しだけ惜しくなったよ、ははは。でも今更生き返るわけでもない。もう完全に死んでるんだ。女の背中にあった痣みたいなのは薄くなっていて、反対にケツの色は心做しか冷蔵庫に入れる前より濃くなっていた。足の裏も同じような色に変わっていた。俺はさっき買ってきた鋸を取りにリビングに戻って、作業に取り掛かる前に煙草を一本吸って・・・・・・そうそう、煙草を吸ってる間にさ、風呂場からガサッって音がして、俺は慌てて飛んでいったんだよ。だけど単に壁に貼ってあったゴミ袋が剥がれて落ちて、死体の上に被さっていただけだった。そのゴミ袋を恐る恐る持ち上げて死体を観察してみたけれど、もちろん何も変わったところはなかった。流石に生き返ってるかもしれないなんてことは思わなくてもさ、やっぱりびっくりするよな、ははは・・・・・でも逆にそれで気が抜けたというか、緊張が解れてさ、さっそく作業に取り掛かることにした――死体の、解体作業にね――俺は服が血で汚れないように、全裸になってから、風呂場に向かった。

最初に選んだのは頭だった。頭がある限りどうしても人間に・・・・・・人間だったものに見えちゃうし、それに顔を見ながら他の部位をバラしていくのは抵抗があったんだよ。そういう訳で頭から落とすことにしたんだけど、俺は臆病なんだろうな、その前に掌で女の瞼を閉じてさ、上からコンビニの透けないビニール袋を被せて輪ゴムで留めて、間違っても作業中に死体と目が合わないようにした。それから風呂椅子に胸を乗せる形でうつ伏せにさせて、鋸を首筋に当てて・・・・・・こう一気にゴリゴリやろうとしたんだけど、刃が上手く入らなくてさ。あんまりズタズタにしちゃうのもなんだか嫌だなと思って、色々考えてみてさ、先に包丁で切れ目を入れることにした。むかし元カノが買ってきてずっと使っていなかった、ちょっといい刺身包丁だよ。まさかあんなことに使うとは思わなかった、ははは。よく切れる包丁でさ、簡単に刃が入った。スーッと入れた切り口は自然に薄ら広がって、ジワッと血が滲んできて、その下に赤い肉が見えた。だいぶ前に付き合っていた女がドが付くほどのメンヘラでしょっちゅうリスカしてたんだけど、一度深く切り過ぎて救急車で運ばれたことがあってさ、切り口を見た瞬間にそのときの傷を思い出した。思い出しながら、俺って女運がないなぁって改めて思ったよ。ははは。

で、包丁で付けた切り口に鋸の刃を当てて、こう、ゴリゴリ切っていってさ・・・・・・あーいや、ゴリゴリっていうよりグズグズって表現のほうが合ってるかな、肉を切っているときはグズグズグズグズ、骨に当たるとゴリゴリゴリゴリ。そんな感じ。まあどうでもいいよな、ははは。大変だったよ、頭を落とすだけでけっこうな時間が掛かった。皮膚に鋸の刃が噛むというか、何度か引っ掛かっちゃってさ、そのときはまた包丁を使って切り口を付けた。血は始めのうちは思ったより出なかったんだけど、あるところを境に急にダラーッと溢れてきてさ、刃や床に貼ったゴミ袋のビニールが脂でベトベトになった。半分切れたところで風呂椅子が邪魔になってきたから、死体を床にうつ伏せに転がして続きをやることにしたんだけど、脂で滑ってやりにくいんだよな。頭に被せたビニール袋もヌルヌル滑って掴み辛くてさ。しょうがないから、自分の手足をよく洗ってから風呂場を離れて、台所から要らないタオルを二枚持ってきた。一度離れて戻ってくると充満した血の臭いが気になっちゃったものだから、ついでに換気扇も回し始めたよ。で、持ってきたタオルの一枚を床と頭の間に敷いて、一枚を頭に被せて、こう左手で頭を抑えながら右手でノコギリをゴリゴリゴリゴリ・・・・・・暫くそんな風にやっていたら、どうにか首が胴体から離れた。下にタオルを敷いたおかげで頭は転がったりすることもなく、最後まで繋がっていた皮を包丁で切ったら、プツンってね、いい感触を残して、そのまま綺麗に離れてくれた。

俺はその離れた頭と胴体の間にシャワーを当てて血を洗い流してから、予め被せてあったビニール袋の中に頭をすっぽり入れて口を結んで、そのままキッチンに持って行って冷凍庫の中に仕舞った。特に何か考えて冷凍したわけじゃなくて、ただこれ以上バラすのは難しいと思っただけなんだけど、後で考えてみるとあのときちゃんと処分しておくべきだったな・・・・・・とにかくそんな感じで頭を切り落として、ひと仕事終えた気分になっちゃったんだけどさ、ははは、これで今日の作業終わりってわけにもいかないから、続けて手足を切り落とすことにした。

腕は一旦肩の付け根から落として、そのあと肘、手首と関節毎に分けていった。太い骨は避けたけれど、軟骨とか筋とか固いところもあって、その辺は鋸でゴリゴリ切っていくしかなかった。まあ頭よりは体力的にも気分的にも楽だったよ。ちょっとずつ慣れがでてきて、作業効率も上がっていった。でも脚はちょっと大変だったかな。単純に、他の部位に比べて太いんだよね。骨もしっかりしている。まずは足首、次に膝、その次は付け根って順番で、足先から落としていったんだけど、太腿だけはこのまま閉まっておくにはちょっと大き過ぎるなと思って、真ん中の辺りで二つに切り分けた。腕も脚も、一つの部位を切り落とす度にそれをよく水で流してからビニール袋に入れて、冷蔵庫に仕舞っていった。かなり時間が掛かったよ。もうちょっとスリムな女ならもっとバラしやすかったのにな。ははは。とことんついていないよ、ははは。

そうして手足もひと通り切り落とし終えたら、安物のダッチワイフみたいなかたちになっちまってさ。ほら、胴体に穴が付いてるだけのやつがあるだろ、あれだよ、ははは――ああそうだ、一応言っておくけど、俺は死体にはなにもしてないよ。どうやら俺には屍姦の気は無かったらしくて、そんな欲求は少しも湧いてこなかった。ははは――で、その残った胴体が難しくてさ。どこから切り分けていいかもわからないし、かといってなにも考えずにざく切りにするのはちょっと大変だから、ちょっと困っちゃったんだよ。それでどうしようか考えていて、俺の頭に浮かんだのは、屠殺場でぶら下がっている牛や豚の肉だった。写真でしか見たことないけどさ、たぶん最初に内臓を取り出してから皮を剥いで、ああいう状態になってるんだろうと、そんな風に想像した。実際はどうか知らないよ?でも魚を捌くときだってワタから出すし、きっと間違いではないじゃん?まあとにかく俺はその手順で解体すると決めたんだ。

で、仰向けに寝かせた胴体のみぞおちの上の辺りに包丁を深く突き刺して、下っ腹まで縦にスーッと切れ目を入れて手でそれを開いたら、綺麗なピンク色をした腸がデロッと溢れてきた。B級ホラーで見るよりもっと表面がテラテラ光っていて、なんていうか、綺麗だったよ、ははは。その長い長い腸を手で引っ張り出してって、適当なところで包丁で切り分けてさ、これも水洗いしてからビニール袋に移していった。他の内臓はどれがどれだか俺にはよくわからかったんだけどさ、ははは、とりあえず開いた腹の中に手を突っ込んでこねくり回して、それっぽいものを鷲掴みにして引っ張って、くっついている筋とか管とかを包丁で切り剥がして、それをよく洗ってビニールに入れて――ひたすらその作業の繰り返しだよ。ビニール袋の中にどんどん溜まっていってさ、最終的には三袋も使った。袋が一杯になる度に、それを冷蔵庫に閉まった。毎回手足を洗うのが面倒だったから、途中から足の下にタオルを敷いてそれを踏みながら滑るように移動してたよ、ははは。作業してるうちに開いた腹の中に血が溜まってきて邪魔になったから、腹の中に直接シャワーの水を入れて、血を流していってさ。それで中を覗いてみて、それっぽいものが大体取れたかなって思ったところで、もうワタの処理は終了だよ。我ながらいい加減な仕事だなと思った。フグなんか絶対捌けないよな、ははは。

とりあえずそんな感じで内臓は取り出したから、次に皮を剥ぎ始めた。やり始める前は、開いている腹の辺りからビーッと引っ張っていけば簡単に剥せるかなと思ってたんだけど、なんか引っ掛かるというか、あんまり上手くいかなかったからさ、それは諦めて胴体をひっくり返して、背骨に沿って縦に真っ直ぐ切れ目を入れた。で、首の切れ目のところから皮と肉のあいだに包丁を入れて、ちょっとずつ丁寧に剥がしてみたら、さっきより簡単にできちゃってね。背中を剥がし終えて正面の作業に戻ったときわかったんだけど、腹には膜みたいなものがあるんだよね、どうやら皮をそれと一緒に剥がそうとしたからダメだったみたいでさ。でも皮だけを丁寧に剥がしたら、今度は上手くいった。他の部位はそんなに手こずることはなかった。するするとまでは言わないけど、楽に剥がすことができた。でもアソコの部分やケツの穴の周りは上手く剥がれなくてさ、剥製を作るときみたいな綺麗な一枚皮にはできなかったよ――ちょっと狙ってたんだけどな、ははは――まあ何枚かには分かれちゃったけど、出来上がりは悪くなかったかな。残ったのは俺がイメージした、屠殺場の肉そのものだったよ。

でもさ、本当はそんなに丁寧に皮を剥ぐ必要なんてなかったんだ。肉ごとごっそり剥がした方がずっと楽だったのに、深く考えずに作業してたらそんな風に綺麗に肉を残した状態に仕上げちまってさ、それじゃまるで食用肉の処理なんだよな。皮を剥がし終えて一息ついているときに、俺はそう気付いて思わず一人で笑っちゃったんだけど・・・・・そのとき、“もう、いっそ本当に食っちまおうか?”ってね、そんな考えが頭に浮かんできた。

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