第3話 アブダクション

 近付いてくるUFOが怖くなった俺は必死にその場から離脱した。無我夢中で走っていると、俺の身体がふわりと浮かぶ。足元の地面の感覚がなくなり、俺は焦った。


「うわああっ! な、何だこれ!」


 焦りながらも頭上を見上げると、案の定UFOが直上にある。つまり、俺はUFOに回収されているのだ。俗に言うトラクタービームと言うやつで吸い上げられているのだろう。異星間誘拐ってやつだ。ヤバい、ヤバいけど何も出来ない。

 と言う訳で、俺は為す術もなくUFO船内に取り込まれてしまった。その中は外で見た印象と違ってとても広く、そして真っ白で何もない部屋――と言うか、もはや空間だった。一体これからどうなってしまうんだ。


「あ、これ帰れないやつだ……」


 心の中を絶望が支配していく。こう言う状況で地球人が助けてくれる展開は想像出来なかった。アメリカとかそう言う大国は宇宙人と協力して地球製UFOを作ってるなんて話もあるけど、そう言う組織が救ってくれるとしたらもっと価値のある人間だろう。俺はただの一般高校生でしかない。

 もしかしたら、俺はUFOがさらうくらい価値のある人間なのかも知れないけど。


 しばらくこの白い部屋に1人で放置されたままにされたので、ポケットからスマホを取り出した。もしかしたら使えるかもしれないと思ったからだ。

 そして、その画面を確認してため息を吐き出した。


「やっぱ使えねーか」


 電波は圏外。通話も通信も不可能。予想通りとは言え、ショックはでかい。俺はその場に膝を抱えて座り込むと顔を埋める。この状況に考えを整理しないといけなかったものの、何も考えられなかった。

 それからどれくらいの時間が経ったのか、突然他人の声が聞こえてきた。


「やあ、お待たせ」


 顔を上げると、そこには宇宙人がいた。と言っても見た目は俺と同じ人間の姿で、UFOの乗組員だから宇宙人だと判断したと言うだけだ。もしかしたらこの船は地球製で、目の前に現れた人物は地球人なのかも知れない。


「君が塞ぎ込むのも分かるよ。もう帰れないからね」

「帰れない?」

「君はこれから私達の星に行くんだ。大丈夫、衣食住は保証するよ」


 この人はこのUFOの乗組員の1人で、アブルと言うらしい。彼の話によると、俺は地球人のサンプルとしてモニターされるのだとか。やはり目の前の人物は宇宙人だった。宇宙人って地球人とそっくりな見た目なんだなぁ。UFOは既に地球を離れており、後数時間で彼の母星『ルルデュア』に到着するらしい。

 他にも色々説明されたけど、俺は最初に言われた一言が引っかかっていた。


「帰れないって、一生その星で暮らすって事?」

「そうだよ」

「でも何で俺?」

「この船に気付いただろ? それが理由さ」


 アブルいわく、UFOは普通の人には見えない処理がなされていたらしい。それを見破る地球人が今回の採取対象だったと。理由が分かったところで、俺はUFOを無視しなかった事を改めて後悔した。

 もう毎週追っているアニメも漫画も続きを楽しむ事が出来ない。こんなに悲しい事はない。両親も悲しむだろうし、友達も心配するだろう。でも何も出来ない。


「帰してくれよっ! 別に俺じゃなくてもいいだろ!」

「それは出来ないんだな。納得出来ないなら強制するしかないけど、あんまりこれはしたくないんだ。モニターをするのにノイズになるからね」


 彼は俺に銃的な何かを向ける。話の流れから言って多分洗脳装置なのだろう。こっちには手持ちの武器もないし、暴れても無意味な事はもう分かっていたので、俺はただがっくりと項垂れた。


「洗脳なんて必要ない。どうしようもないんだろ?」

「そうだよ。あ、もうすぐ着くからね」


 運命を受け入れた俺は、そのままUFOから実験室に降ろされた。これからはここで暮らす事になる。常に監視されているらしいけど、それ以外での干渉はまったくなかった。実験室は地球の都市を再現していて、快適な暮らしが保証されている。

 地球人は俺1人だったものの、淋しくないように数人の人が一緒に暮らしていた。彼らはホログラムだったりロボットだったりしているらしい。外見を人間に偽装しているので、人間にしか見えないけど。


 実験動物としての生活にはあっさりと順応してしまった。それはこの環境が地球と同じだったからだ。モニターから流れるニュースも娯楽もそれっぽく流してくれる。驚いた事にアニメも作られていた。地球にいた頃の作品は見られないけれど、似たような感じの作品が毎日放送されている。しかも結構面白いから困る。

 この実験室で使われる文字は日本語だし、会話も日本語だ。再現度が半端ない。宇宙人、しっかり地球をリサーチしているなあ。


「確か、こう言う内容の映画があったっけ……」


 衣食住が保証されていると言う言葉も本当で、食事も提供されるし買い物に行けばどれもタダで手に入る。ここにいれば勉強をする必要もない。当然仕事もする必要がない。ニート万歳と言う訳だ。

 こう言う環境だった事もあって、俺は次第に自堕落になっていった。



 でも逃げる

 https://kakuyomu.jp/works/16817330648988682894/episodes/16817330648990545158

 この生活に馴染んじゃった

 https://kakuyomu.jp/works/16817330648988682894/episodes/16817330648990605458

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