第30話 間引き


 私が朝目を覚めると窓の向こうには赤い炎が揺らめいていた。ゾンダークの町は戦火により混乱をきわめていた。



 「まさかこんなに早く起きるとは・・・」



 私は小さく呟きながら拳を握りしめていた。


 私は近い将来ゾンダークの町がモンストル共和国に攻め入られる事は想定していた。屋敷の体制の建て直し計画が終われば次はモンストル共和国との戦争の準備に取り掛かる予定であった。


 エールデアース帝国の南にあるモンストル共和国が、隣国の小国を圧倒的な戦力で掌握していき、エールデアース帝国の南部の町に進行しているのは周知の事実であった。南部を領地にしているのは皇帝陛下の弟であるガゾン・エルドラゴン大公である。ガゾンは破滅主義者の過激派だ。皇帝陛下の命令を無視して南部地域をザンクトゥアーリム国と名乗り独立を宣言していた。しかし、これは非公式な宣言であり世論的には認められていない。



 「ガゾンと手を結んだのね」



 ガゾン・エルドラゴンに敬称は必要ないというのがエールデアース帝国の考えである。勝手に独立を宣言して国王陛下の土地を盗んだ罪人に誰も尊敬の念はない。ガゾンはすぐにでも捕らえらると思われていたが、4大公爵家が不協和音のため、1年間放置されたままであった。


 エールデアース帝国とモンストル共和国の国境を付近にあるザンクトゥアーリム国は大事な戦争拠点の要、この地を1年間放置したことが、ゾンダークの町が悲劇の大地となる要因になった。



 「伯爵様は私の指示どおりに逃げているかしら?【人工称号】を作り出したモンストル共和国の兵士は圧倒的な強さを誇っている。【レア称号】もしくは【変異種】を有する者を集めないと太刀打ちは不可能だわ」



 戦力=称号である。所詮戦争を決定ずけるのは称号。おそらくモンストル共和国の連隊は【レア称号】が1人、【称号】が50人、【人工称号】が700人で残りが称号なしであろう。軍隊で称号持ちの割合は高くても4割程度である。しかし、モンストル共和国の軍隊は7割超が称号を持っているので最強国家と呼べるだろう。しかし【称号】、【人工称号】持ちが何人束になっても敵わない【レア称号】持ちが居れば話は変わる。三ツ星クラスの【レア称号】持ちが居れば1人で10万の兵すら倒すことが可能である。



 「今日は【不滅の欲望】の会合の日・・・。ソルママの仇を討つチャンスだったのに・・・」



 不幸は重なるものである。自分の運のなさを実感しながら森に通じる地下道を使って逃げることにした。この地下道を使って森に出て一日ほど歩けばアーダルベルト伯爵達に逃げた村に辿り着ける。


 ゾンダークの町はモンストル共和国の連隊によって焼け野原となった。アーダルベルト伯爵達を含めて数名は逃げ延びる事ができたが、町にいた住人はすべて殺された。モンストル共和国の意図は、ゾンダークの町を徹底的に破壊して1人残らず虐殺することである。モンストル共和国はエールデアース帝国民に恐怖を見せつける事で戦意を失わせようとしている。


 モンストル共和国はこの徹底した非道なやり方で国を大きくしていった。そして、このようなやり方に賞賛を上げたのがガゾンである。


 ガゾンは資源として人間を家畜として勢力を広げるエールデアース帝国のやり方に苛立ちを感じていた。力のない者、称号のない者の尊厳や自由を奪い、劣悪な環境下で、力のある者、称号を持っている者たちの道具になっているのが我慢できないのである。


 ガゾンは、このような世界は滅ぶべきだと考えている。そして、世界を亡ぼすためにはどのような手段も択ばない。なので、モンストル共和国の徹底した非道な殺戮行為に賞賛をあげていた。


 モンストル共和国は、老若男女身分を問わず人間は全て殺害する徹底ぶりで、モンストル共和国の軍隊が通った後には何も残らないと。モンストル共和国の目的は領土拡大と間引きである。


 モンストル共和国の掲げる理念は、『人間の間引き』であり、人間の数が増えすぎたので争いが起こると主張している。



 「この土地はモンストル共和国の領地になった」



 モンストル共和国の連隊を率いていた連隊長ミカエルが双頭の龍の旗をゾンダークの町に突き刺した。



 ※ミカエル・スリールショー (30歳男性) 身長175㎝ 銀髪のセンター分けのロングヘアー(肩が隠れるくらい) 切れ長の青い瞳をしている。



 兵士たちは両手を空に伸ばして歓喜の叫びを空に放つ。



 「連隊長!生存者は一人もいません。粛清は完了しました」


 「アーダルベルト伯爵は殺したのか?」


 「おそらく逃げたのだと思います」


 「アーダルベルト伯爵は粛清すべき人物だ。次は絶対に逃がすな」


 「はい!」


 「すぐに逃げ出すとはただのうつけものではなかったのだな。まぁよい。次の機会に殺してやろう」



 ミカエルは不敵な笑みを浮かべた。

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