第31話 アルドリックの思惑


 「アルドリック様緊急事態です」



 ※アルドリック・ベン・エーデルメタル(男性 21歳) 4大公爵家の1人バトルクワイ・ヴェルヘルム・エーデルメタル公爵の長男である。真っ青な長髪に、優しい緑の瞳、背は高く細身のイケメン。


 「アードリアン、朝早くから何を騒いでいるのだ」



 ここはゾンダークの町から数キロ離れた場所にある地下施設である。



 「モンストル共和国がゾンダークの町に攻め込んで来ました」


 「それは本当なのか!」


 「はい。1000名の兵を引き連れてゾンダークの町を襲撃しています」


 「その状況下でお前は逃げて来たのか!」


 「申し訳ありません。モンストル共和国の兵の大半は【人工称号】によって強化された兵でございます。イキリーゼ子爵が派遣されている衛兵では太刀打ち不可能です」


 「それはおかしいだろ。イキリーゼ子爵からは【称号】持ちの衛兵を1000名【称号なし】の兵士を500名で合計1500名の兵をゾンタークの町に配備してあると聞いているぞ」


「それは・・・」



 アードリアンの額からは多量の汗が流れ落ちて来た。



 イキリーゼ子爵は、衛兵の人員を水増しして報告し差額分の人権費を騙し取っていた。



 「きちんと説明しろ」



 アルドリックは声を張り上げて怒鳴る。



 「申し訳ありません。虚偽の報告をしていました。しかし、すべてアーダルベルト伯爵の指示でございます」


 「伯爵はお前たちの操り人形ではなかったのか?」


 「それは・・・」


 「詳しい事はクロイツとクローヴィスに確認する。2人は逃げ出して来なかったのか?」


 「報告が遅れましたが、2人はアーダルベルト伯爵が雇った新しい執事に殺されました」


 

 アードリアンは経緯を説明した。



 「本当にその小娘が2人を殺したのか?」


 「私はハーレクィン様に聞いただけなので詳しくは知りません」



 ※ハーレクィン (33歳 女性 称号はランクBの道化師) 「終焉の姫と聖女の姫」に登場した人物。【八咫烏】という暗部組織の一員。エールデアース帝国に10年前より活動拠点を移していた。



 「それならハーレクインをすぐに呼んで来い」


 「申し訳ありません。ハーレクイン様は次の準備があると言って強欲支部から別の支部に転属しました」


 「・・・」


 「なぜこのような事態になってしまったのでしょうか?2,3日前までは楽園のような生活でした。あの新執事か来てからすべてがおかしくなりました」


 「今日の会合はどうなるのだ」


 「私はすぐに危険を察知して何も持たずに逃げ出しましたが、私財を馬車に積み込んで逃げようとした者たちは、モンストル共和国の兵士に殺されたと思います」



 【不滅の欲望】の強欲支部のメンバーは、ゾンダークの町でクローヴィス兵士長達と一緒にいろんな利権を掌握していた有力貴族である。彼らはアルドリックと違って財産を出来るだけ運んで逃げようとして時間がかかり、モンストル共和国の兵士たちによって私財も命も奪われた。



 「命よりも欲を優先した者の末路だな」


 「はい」


 「アルドリック、もう一度確認する。お前が話した新執事だが、金髪のツインテールの女の子で、名をアルカナと言うのだな」


 「はい。間違いありません」


 「そうか・・・あの治癒院の娘がアーダルベルト伯爵の執事になっていたとは驚きだ」


 「アルドリック様はあの女をしっているのでしょうか」


 「ああ・・・とても愛嬌があってかわいらしい女の子だ。たしか、亜人種の奴隷を飼っていた。いや、そのようにみせかけていたのかもしれないな」


 「アルドリック様、何を言っているのでしょうか」


 「お前には関係ない」


 「もうしわけありません。アルドリック様、ここにはもう誰も来ませんので、エーデルメタル領まで一緒に逃げましょう」


 「それは出来ない」


 「え!どうしてでしょうか」


 

 アードリアンは困惑した表情でアルドリックを見た。



 「とんだ無駄足だった」


 「え!」


 「まだわからないのか?以前お前たちに見せた本部からの紹介状は偽物だ!俺はゾンダークの町の実態を探る為に単独で【不滅の欲望】に潜入したのだ。アーダルベルト伯爵がお前らの操り人形だったことは理解した。今後どのように対処すべきか考えていたが、まさか、こんな結末になるとは思わなかった」



 残念そうにアルドリックは俯いた。




 「アルドリック様、フリーデン公爵の理想に共感したとは嘘だったのですか・・・」


 「当たり前だ!エールデメタル家はフリーデン公爵の野望を打ち砕く為にこの10年間力を蓄えていたのだ。しかし、今はモンストル共和国の進行を阻止しなければいかなくなった」



 アルドリックは迷っていた。



 「あの娘を助けに行くべきか・・・いや、コイツの話しだと今から助けに行っても手遅れかもしれない。それに、俺1人で何が出来ると言うのか・・・」



 アルドリックは唇をかみしめてエーデルメタル領に戻りことにした。



 「私を置いていかないでください」



 アルドリックに助けてもらうつもりだったアードリアンは、行き場を失い地下施設で絶望の渦に飲み込まれてしまった。


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