第28話 改善計画


 「アルカナさん、アードリアンは兵士長の話を断ったのですか?」


 「はい。断ると思っていました」


 「そうですか。それなら誰を兵士長に任命するのでしょうか?」


 「それは、伯爵様が判断してください」


 「私が任命するのですか???」


 「はい。アードリアン以外の兵士は、クローヴィス達の暴力や虐待に耐え抜いてきた者たちですが、決して強者ではありません。彼らは心を閉ざし常に暴力に怯え、上の支持を待つだけの人形です。そう、以前の伯爵様のような存在です」


 「私と同じような存在・・・」


 「はい。兵士たち・・・いえ、ここの屋敷に残った者の大半は、クローヴィス達の暴力によって管理されていた生きた人形です。それは、伯爵様も同じであります。クローヴィス達の亡霊に心を支配されたままでは、今までと変わりありません。なので、伯爵様自身で改革に取り組んでいただきたいのです。もちろん、約束通り私も手助けをします」



 私がすべて道を用意してしまったら意味がない。できるだけアーダルベルト伯爵が考えて、これからの屋敷の在り方を変える事がアーダルベルト伯爵の感情を取り戻す手助けになると私は考えていた。もちろん、ある程度の道しるべは示している。それに、私の本来の目的はソルシエールの復讐であり、屋敷の改善ではない。私は、数日後に行われる【不滅の欲望】の会合についての準備をしないといけないのであった。


 アーダルベルト伯爵は私の発案した屋敷の改善計画を元に立て直しを図ることにした。本来ならば執事である私が先頭に立って手伝いをするのが妥当なのであるが、私には本来の目的があるので、ロリポップにメイド長と兼任で執事代行という地位を授けて、アーダルベルト伯爵の手伝いをしてもらうことにした。それによりロリポップの業務が増えるので、それを手助けするために私の専属のメイドであるカロリーヌをロリポップに付けることにした。私は1人で行動したいので、この判断は私にもメリットがあった。


 今この屋敷に居るのは、平民奴隷の男性が10名、女性が30名。平民の男性が15名、女性が5名。貴族の男性の兵士が4名。平民の男性兵士が8名。屋敷内の女性メイド(貴族)が10名、男性メイド(貴族)が5名である。


 私の計画案では、現在兵士として、屋敷の護衛任務を任されている12名はそのままの業務を引き継いでもらうことにしている。『称号』持ちの兵士が少ないので、屋敷の護衛レベルは急激に下がるのが難点である。そこで監視業務を強化することにした。平民奴隷の男女40名を24時間交代制で各場所に監視業務につかせて、耐えず賊の侵入に備えることにした。もちろん戦闘要員ではないので、異常があれば笛を鳴らして、危険を報告するだけである。


 領主の屋敷に潜入する賊などいないと私は思っているが、警備体制がしっかりしている事を客人や町民に見せつけるのに意義がある。


 屋敷内の業務は今まで通りにメイドに任せるとして、平民男女の20名の処遇が問題になる。アーダルベルト伯爵邸には、神判所と神判所に裁かれる予定の囚人を収容する地下牢付きの別館がある。地下牢には身分の高い貴族によって、支離滅裂な理由で収容されている者が多く、地下牢での処遇も酷いものである。地下牢は二種類あり、貴族専用とそれ以外が分けられている。


 この前クローヴィス達が収容されていたのは、貴族専用なので、トイレもあり掃除もしっかりとされていた。しかし、貴族以外を収容する地下牢はトイレもなく汚物が散乱していて悪臭を放つ劣悪な環境である。神判所は週に1回開催されるが、それまで地下牢で残飯が支給されるのみである。貴族であれば、身内がお金を支払えばまともな食事が出る。


 今後は神判所の訴状をしっかりと精査したうえで、地下牢に一時監禁が必要か判断することにした。そして、監禁が必要だと判断された場合には、最低限の食事を与える事にし、環境をよくすることにした。ちなみに地下牢のある別館は兵士(平民)の宿舎である。今後は貴族・平民関係なく別館を兵士の宿舎にしてもらうことにした。別館にはメイドの配置はなかったので、平民男女の8名を別館のメイドに任命し、残りの12名はアーダルベルト伯爵とロリポップに配属を任せることにした。


 これが私が発案した簡単な屋敷の改善案である。まだまだ着手する点はたくさんあるが、徐々に変えていくことが賢明である。そして、本題は【不滅の欲望】の会合に出席する件である。


 アードリアンは私を信用していないだろう。【不滅の欲望】の会合に出席することを許したのも、自分の安全圏で私を葬ることが得策だと判断しているかもしれない。そして、私がクローヴィス達を倒した件も【不滅の欲望】の隊員にすぐに伝わるか、既に伝わっているだろう。【不滅の欲望】のアジトに1人で乗り込むのは自殺行為であるが、一番の近道でもあった。

 


 


 

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