第27話 取引


 「はっきりと言わせていただきます。【不滅の欲望】に関わるな!」



 執事室に入るとバチストの穏やかな目は豹変して、蛇のような冷たい目つきに変わった。



 「あなたがアードリアンなのですね」


 「そうだ。まさか、クローヴィスが負けるとは驚きだ。お前はいったい何者なのだ」


 「あなたこそ何者なのでしょうか?」


 「俺は【不滅の欲望】強欲支部の隊員だ。お前がクローヴィスの代わりに俺の配下になるなら、屋敷の管理は自由にさせてやる」


 「もし、お断りすればどうなるのでしょうか」


 「死ぬだけだ」


 「死ぬのは嫌です。でも、無条件で従う事は出来ません」


 「条件だと!クローヴィス達を倒したからといって調子に乗るなよ。【不滅の欲望】を敵に回すとどうなるかわかっているのか」


 「アードリアンさん、あなたは少し勘違いをしているようですね。私は【不滅の欲望】と敵対するつもりはありません。むしろ、私は【不滅の欲望】に入隊したいと思っているのです」


 「なんだと!お前は【不滅の欲望】に敵対する組織の一員ではないのか?」


 「なぜ?そのように感じたのでしょうか?」


 「クローヴィス、クロイツ、シェラルトを殺したのはお前だろ?それが一番の理由だ」


 「邪魔な人間を排除しただけです。私の本来の目的は【不滅の欲望】に入会する事です。そのためにアーダルベルト伯爵のメイドの募集に来たのです。まさか、伯爵様に気に入られて執事に任命されるとは思ってもいませんでした」


 「信用できない」


 「それなら、あなたを拘束し拷問をしながら【不滅の欲望】のアジトを教えてもらいます」


 「本当に【不滅の欲望】に入隊したいのか?」


 「はい。私は亜人には興味はありませんが、フリーデン公爵に興味があるのです」


 「おまえの狙いはボスに会う事なのか?」


 「はい。私はエールデアース帝国の覇者になるのはフリーデン公爵だと思っています。なので、すこしでもお近づきになっていれば、勝ち組になると考えています」


 「そう言う事か・・・お前を信じたわけではないが、今度の会合に連れていってやる。隊員として採用されるかは支部長が判断するだろう」


 「ありがとうございます」


 「お礼は採用されてから言え」


 「わかりました。それでは話は変わりますが兵士長の件はお任せしてもよろしいでしょうか」


 「それは断らせてもらう。俺は表舞台には立つことはできない。今後はお前がアーダルベルト伯爵を上手く利用して、【不滅の欲望】の利益になる事をすればいい。細かい指示は俺がだしてやる。それ以外の事はお前の自由にすればいい」


 「わかりました」



アードリアンは私を信用したわけではないだろう。もしかしたら、この場を穏便に済まして【不滅の欲望】の会合で決着をつける気かもしれない。それならそれで私も望むところである。


 アードリアンが私の事を見てソルシエールの事に触れなかったのは、ソルシエールを殺した犯人ではないと私は判断した。そして、アードリアンと争うよりも【不滅の欲望】の会合に参加する事がソルシエールへの復讐への一番の近道であると思った。


 アードリアンは執事室からは出て行き、入れ替わりにアーダルベルト伯爵が入って来た。



 「アルカナさん、彼がアードリアンだったのですね」


 「はい。伯爵様からお聞きした情報と合致していましたし、彼だけが私の話しに顔色を変化させずに冷静に聞いていました。貴族の兵士が首になるのを想定していたのだと思いました」


 「屋敷の情報を把握していたということですね」


 「はい。おそらくもう1人くらい仲間がいると思いますが、既に逃げていたのでしょう」


 「そうですか。屋敷の兵士の入れ替わりは激しいですし、外部からの応援もよく来ていたみたいですので、兵士が変わっても誰も気に留めませんからね」


 「そのようですね。今後はしっかりと屋敷の状況を把握していきたいと思いますのご協力をお願いします」


 「はい。あなたの考える屋敷の在り方に協力するつもりです。そして、それが私の感情を取り戻すきっかけになるとも思っているのです」


 「お願いします。でも、無理をしないでくださいね」


 「わかりました。手始めに家畜小屋の改築を命令しました。業者に頼むのが適切だと思ったのですが、アルカナさんが平民と平民奴隷の体を元の健康な状態に戻してくれたので、平民と平民奴隷たちに協力して改築させることにしました。彼らの中には建築職人の方が数名いましたので、その方を中心に改築してもらいます」


 「適切な判断です」


 「いえいえ、これもアルカナさんの指示通りでございます」



 家畜小屋の家畜と呼ばれる男女は平民奴隷と呼ばれる地位である。国が管理している家畜の中で優秀であると判断されて平民奴隷に格上げされた人々である。平民奴隷は家畜の管理や農業、土木建築業などの過酷な業務をさせられているので、改築作業をさせるには適任でもあった。


 そして、家畜の世話をしていたのは平民である。平民は平民奴隷よりも地位は上なので、平民奴隷を雇う立場にあるので農業、土木建築業などには詳しい。なので、平民、平民奴隷が協力すれば改築がスムーズになると私は判断したのであった。



 

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