第26話 標的
「あなたの意見は正しいのかもしれません」
「それならば考えを改めてくれるのでしょうか?」
兵士が嬉しそうな顔で答えたその時、ロリポップが魔法弾を兵士の腹部に数発放った。
「ぐわぁぁぁ~痛い痛い痛いよぉ~」
兵士は転びながら悲鳴を上げる。
「あなたの意見を採用してみました」
私はアイコンタクトでロリポップに合図をした。ロリポップも私の意思を瞬時に汲み取ってくれた。
「ひどい・・・ひどい。こんなやり方間違っている」
兵士は多量の涙を流しながら私の方を見ていた。
「口で言うよりも体に叩き込む方が良いとあなたが教えてくれたのです」
「違う。違う。俺にじゃない。体に教え込むのは平民たちだ。貴族の俺には必要はないのだ」
「私にとっては平民であろうが貴族であろうが同じ配下の兵士です。区別などしません。ロリポップさん、まだこの兵士さんには教育が足りないようですので、理解するまで彼が望む教育方針で改善してあげてください」
「わかりました。アルカナ様」
「待て、待ってくれ。俺には教育など必要ない。俺は学院でしっかりと学び教養もマナーも箔もある。教育が必要なのは俺ではない!」
「アルカナ様のお言葉は伯爵様のお言葉。それが理解できないってことは、教育が必用ってことだ!」
兵士はロリポップにボコボコにされて意識を失った。
「まだ教育が必要な方はおられますか?」
私の問いかけに誰も答えない。答えないということは理解したと言っているのと同じである。
「それではコネで入られた方は首にしますので名前を呼びあげます」
私は事前にアーダルベルト伯爵から、コネで採用された人物を教えてもらっていたので、ある人物を除いてすべてこの場で解雇を言い渡した。
「今名前を呼ばれ方は今すぐに屋敷から出て行ってください。反論がある方は申し出てください」
ロリポップが兵士を威圧するように、にらみつけているので誰も意見をいう者はいなかった。
大広間に残った兵士は12名だけである。3名は貴族であるが面接で採用された人物。8名は家畜小屋で働いていた平民男性であり、地獄のような虐待から生存できた不屈の体の持ち主である。しかし、体に叩き込まれた苦痛は大きな傷となり無数の傷跡が体に残っていて、中には鼻がない者。片目がない者もいる。しかも、装備もボロボロの皮で作られた地味な防具を身にまとっていた。
そして、1人だけ綺麗な革で出来たレザーアーマーを身にまとっている者が居た。その人物こそ私がアードリアンだと判断した人物である。
「私はコネによって屋敷に来ました。なぜ、私だけが残されたのでしょうか?」
「あなただけ残したのは意味があるのです。それは、すべてのコネ採用の貴族を首にしてしまっては、残念ながら現状を維持するのは大変なのです。私やロリポップが指導するわけにはいきませんので、暴力的で利己的でない冷静で物静かな人物に指導を頼みたいと思っていました。私は壇上ですべての兵士さんの態度を観察し次の兵士長になりえる人物を探していたのです」
「それが私なのでしょうか?」
「はい。バチストさん」
今言ったことは全て出鱈目でもである。適当に理由をつけただけである。
「私には兵士長という重大な任務を承るほどの器ではありません。辞退させてもらっても良いでしょうか?」
「私は無理強いをするつもりはありませんが、あなたを説得するチャンスを貰えませんか?」
「どういうことでしょうか?」
「後で執事室に来てもらえませんか。執事室にて私の考えを聞いてください。それを聞いても兵士長になるのが嫌であれば、この話を断ってもらってもかまいません」
「わかりました」
バチストは素直に私の言葉を聞き入れてくれた。それは、これ以上の討論は無駄だと瞬時に悟ったからである。
私は今後の兵士の在り方を簡単に説明し、後はロリポップに全ての任せることにした。ロリポップには私の考えを全て説明している。私はバチストと一緒に執事室に向かった。アーダルベルト伯爵はその様子を無表情のまま見ているだけであった。
「カロリーヌさんは隣の部屋で待機しておいてください」
「わかりました」
「バチストさんは中へどうぞ」
「はい」
バチストは緊張するでもなく敵意を見せるでもなく淡々と返事をした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます