第25話 粛清


 3階にある大きな広間にアーダルベルト伯爵邸に仕える全ての兵士が集まった。集まった兵士たちのほとんどはクロイツ、クローヴィスが地下牢に捕らえられたことを知っている。だが、二人が死んだ事までは誰もしらない。


 アーダルベルト伯爵は大広間にある壇上の中央にある大きな椅子に腰かけて無表情で座っている。


 兵士たちはその姿にかなり動揺をしている。それは、その椅子にはクローヴィスがいつも座っているからである。私とロリポップは大きな椅子の左右にある少し小さめの椅子に腰かけた。



 「みなさんに集まって頂いたのは理由があります。ご存じな方も多いと思いますが、クロイツに代わって新たな執事にアルカナ様が就任しました。そして、クロイツ並びにクローヴィスはご主人であるアーダルベルト伯爵に反旗を翻し新執事のアルカナ様の殺害を試みた為、その場で処刑されました。皆さんを統括していたクローヴィスは居なくなりましたので、次の兵士長を誰にするのか今検討中です。それでは、新執事に就任したアルカナ様から今後の屋敷のあり方について説明があります」



 ロリポップの説明に全ての兵士は動揺を隠せないが、反応は様々であった。笑みを浮かべる者もいれば、顔面蒼白になり今すぐに逃げだしそうな者もいる。だが、皆声を押し殺して感情を出さないように努めていた。



 「私はアルカナ・レイフォール、身分は騎士でございます。伯爵様の御厚意により新執事に任命されて、屋敷の改善を務めることになりました。私は今日屋敷に来たばかりなので、詳しい屋敷のしきたりなどは知りませんので、徐々に変化すべきだと考えています。しかし、家畜部屋に関しては即刻廃止し、それに伴い兵士の人員を削減しようと思います」



 兵士たちは私の話を聞いて明らかに憎悪に満ちていた。兵士にとって家畜部屋を管理する平民男女はおもちゃであるので、大事なおもちゃが無くなるので不満がこみあげている。



 「兵士の人員削減については、貴族出身の者で特に推薦枠でアーダルベルト伯爵に来られた方を首にするつもりです」


 「ふざけるな!」



 今まで黙って聞いていた兵士の1人が大声を上げた。



 「黙りなさい!アルカナ様の言葉は伯爵様の言葉と同じだと知っての暴言か!」



 ロリポップが怒鳴りつける。



 「・・・」



 兵士は俯いて黙りこむ。



 「あなたは私にふざけるなといいましたが、私の説明のどこがふざけているのでしょうか?」

 


 私は兵士に問いかける。


 

 「・・・」



 兵士は黙ったままなにも言わない。



 「アルカナ様の言葉は伯爵様の言葉と同じと言ったことが理解できていないのか!」



 ロリポップは壇上から降りて兵士に近づいた。兵士はすぐさまに剣を抜き取りロリポップに刃を向ける。



 「俺はイキリーゼ子爵家の息子だぞ!俺たち中級貴族様が下級貴族の意見など聞くことはできない。俺が新執事を殺して執事になってやる」


 「無礼者」



 ロリポップは拳を突き出して魔法弾を放つ。魔法弾によって剣が粉々に砕けた。兵士は剣の柄を握りしめたまま凍り付いたように固まっている。



 「うわぁぁぁぁぁぁぁ」



 兵士は刀身が砕け散ってパニックを起こして刀身がない剣を振り回す。ロリポップは、凛とした佇まいのまま、兵士の攻撃をあざ笑うかのように避ける。兵士は無我夢中で刀身のない剣を振りかざし、そのうち体力が消耗してその場に倒れてしまった。



 「ツクオラ副兵士長が何もできなかったぞ」

 「やはり、ロリポップメイド長が強いと言う噂は本当だったのだ」



 ロリポップの圧倒的な強さを目の前にした兵士たちの顔からは不満げな表情は消えて、絶対服従を誓うかのように跪いた。



 「アルカナ様の言葉に従いなさい」

 

 「はい」



 兵士たちは大声で返事をする。



 「それでは話を元に戻させてもらいます。兵士の首の件ですが、先ほども言いましたが、コネで来られた方は全て首にします。もし、不満のある方がいればこの場でおっしゃってください」


 「不満などございませんが、なぜ?私たちは首にならないといけないのでしょうか?」



 ロリポップの強さを目にした兵士たちは、丁寧な口調で私に質問をする。



 「まずは順を追って説明します。この屋敷にいる兵士の数は多すぎるのです。たしかにこの屋敷は大きくていろんな設備がありますので、人員はたくさん必要になります。しかし、設備を管理する人員は、家畜部屋の廃止によって穴埋めはできるのです。そして、余った人員をどうするか考えたのですが、コネで雇い入れた方には戻る場所があるので、自身の家に帰ってもらうことにしたのです。家畜部屋の方や正規ルートで採用された方は、戻る場所がない方も多いので、優先的に継続雇用をするつもりです」


 「しかし、平民よりも貴族を優先すべきではないのでしょうか?平民なら別の屋敷でも奴隷として重宝してもらえるはずです。なので、優秀である私達貴族を雇うほうが伯爵様のためになると思うのです」


 「私は今日来たばかりなので屋敷のことは詳しく知りませんが、コネでこの屋敷に来られた方は、全く仕事をせずに快楽に溺れている印象があります。仕事をしない者を雇う必要はないと思います」


 「執事様、それはおおきな誤解でございます。私たちは選ばれし貴族です。なので、下等な奴らを教育をしているのです。人間は言葉で教えるよりも体に叩き込む方が効果的なのです。痛みや苦痛による教育は、頭だけでなく精神にまで反映されます」



 兵士の顔は自信に満ち溢れていた。自分の考えには一点の曇りもなく最高の判断だと思い込んでいた。

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