第十三話 復活の儀式

 アルバート様と一緒に亀を採取しに行ってから数日後、私は例の地下室へと向かって歩いていた。その隣には、お義母様の姿もある。


「ねえフェリーチェ。一体ここは何なの? 急に来てくれと言われて来たけど、ちょっと予想外だわ」

「大丈夫です。私を信じてください」


 妹さんが眠るあの部屋へと続く階段を降りる中、事情を知らないお義母様は少し不安そうな雰囲気を醸し出していた。


 ついて来てと言われてきたら、こんなよくわからない不気味な階段に連れて来られたら、誰だって警戒するに決まっているわ。


「着きましたよ」

「ここは……随分と広い部屋ね……しかも、こんな大きな魔方陣……え、アルバート?」

「お待ちしてました、母上。ようやく完成したので、ぜひ母上にも同席していただきたくて」


 アルバート様は、お義様と一緒に部屋の中心に向かう。そこには、今日も静かに眠る妹さんの姿があった。


「え……め、メア……!? どうしてここにメアが!?」

「驚くのも無理はありません。僕が順番に説明をします」


 動揺を隠せないお義母様に、アルバート様は今までの研究をしていた内容や、自分の気持ち、妹さん……いや、メアさんがどうしてここにいるのかといった、全ての事を説明をした。


 最初は驚いていたお義母様だったけれど、話を聞いていくうちに少しずつ冷静さを取り戻してくれたわ。


「そ、そうだったの……いまだに状況を飲み込めないのだけれど……」

「心配をかけて申し訳ない。僕は妹を……メアとまた一緒に……」

「本当にあなたは優しい子ね。って……もしかして、フェリーチェもこの件を知っていたの?」

「はい。事故でこの部屋の事を知ってからは、微力ながらお手伝いをしてました」

「そうだったの……急に図書館に通いだしたり、二人で遠出したのも、これが関わってるのかしら」

「仰る通りです、お義母様」

「アルバートの為に、そして私のお願いを聞いてくれて、本当にありがとう」


 お義母様は少し涙声になりながら、私の事をそっと抱きしめてくれた。その抱擁は、とても安心できるもので……これが母親の愛情なんだと思った。


「フェリーチェ、屋敷の使用人達には声をかけてくれたかな?」

「はい。仕事でどうしても抜けれない人達以外は、来てくれるそうです」

「そうか。彼らにも沢山迷惑をかけたし、妹を大切にしてくれた人も多い。だから、事情説明と再会の場にいてほしかったが……」

「もう少し待っていましょう」


 私がそう言うと、二人は頷いてから、メアさんの事を優しく撫で始めた。その行動だけでも、とても愛していたんだなというのがわかるわ。


「またあなたに触れられるなんてね……本当に綺麗な顔で……私ね、まだあなたが亡くなったのが信じられないのよ」

「大丈夫です、母上。僕が必ず……」

「頑張ってって言いたいけど、無理だけはしないで。自分の身を滅ぼしてでも復活させたところで、メアは喜ばないわよ」

「肝に銘じておきます」


 そんな事をしている間に、来れる使用人達が全員部屋に集まった。そこで、お義母様と同じような説明をしてから、アルバート様はスッと右手を上げた。


「では……これより儀式を執り行う!」


 アルバート様が指をパチンっと鳴らすと、魔方陣が内側から外側に向かって、徐々に光りだし始めた。


 上手く行くと良いんだけど……結果を見るまで、不安感を拭う事は出来なさそうね。


「ここから一気にやるから、みんな気を付けていてくれ!」


 忠告をしてから、アルバート様は液体が入った瓶を取り出すと、その液体を地面に垂らした。すると、さっきまでとは比べ物にならないくらいの強い光と、凄まじい風が吹き荒れ始めた。


 こ、これは本当に気を付けていて正解だわ! 目を開けているのもやっとだし、風で吹き飛ばされてしまいそう!


「くっ……外部から魔力を補っているのに、こんなに一気に消耗するだなんてね……だが!!」


 光の向こうから、アルバート様の声が聞こえてくる。きっと魔法を完璧に発動させる為に頑張っているんだろう。


 こんな時ですら、私には見守る事しか出来ないの……? 私にも何か出来る事は……!


「アルバート! あまり無茶をしては……!」

「大丈夫ですよ母上! この程度……メアを失った時の痛みに比べれば、可愛いものです!」

「っ……! あなたって子は……私にも手伝わせなさい! 母親として、息子が頑張っているのを見ているだけなんて出来ないわ!」

「母上……ありがとうございます! では、僕の隣で一緒に魔法陣に魔力を送ってください!」

「アルバート様、我々にもお手伝いをさせてください!!」


 お義母様を皮切りに、集まってくれた使用人達も続々とアルバート様の元へと集まり、限界まで魔力の供給を行う。


 私には大それた魔力も無いし、使える魔法も弱くて話にならないけど、これならきっとアルバート様の力になれるわ!


「フェリーチェ……!」

「私も、最後まで……いえ、今も昔も、そしてこれからも! あなたを隣で支えさせてください!」


 私はアルバート様の手を取りながら、まるで愛の誓いをするかのような言葉を伝えると、アルバート様は力強く頷いた。


 ずっと不幸だった私を救ってくれたアルバート様やお義母様……そして使用人の人達に恩返しをする為に、後先の事なんて考えずに魔力を渡すんだ!


「くっ……はぁぁぁぁぁぁ!!」


 アルバート様の雄たけびと共に、今までで一番の光が辺り一面を覆いつくした。それはあまりにも眩しくて、目を開けているのは困難を極める程だった。


 魔法は成功したのか? それとも失敗したのか? そんな事を考えていると、光はいつの間にか収まっていた。


「凄い光だったわね……みんな、怪我はないかしら?」

「私は大丈夫です、お義母様」

「僕もなんとか……魔力を消費しすぎて倒れそうですが……それよりも、メアは!?」


 みんなの注目が集まる中、メアさんの体に光が吸い込まれるように消えていき……彼女はゆっくりと目を開けた。

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