第5話 教会

 部屋に入ると青色、赤色、黄色の薔薇ばらの花びらが床一面に敷かれていました。

 たくさんの花びらが敷かれ、その上に異世界人たちが眠っています。その周りには祈りをささげている人たちが集まっていました。



 数世紀にわたり、異世界人は眠り続けていました。

 たくさんの人々が手を合わせ、ひざまずいて祈りをささげています。


 祈りをささげる人たちは、私が部屋に入ってきてもこちらに視線を向けることはありませんでした。

 

 

 部屋の壁を見ると、異世界人と魔族との物語が壁画として描かれていました。

 それは神話の出来事になっています。


 私は壁画を見つめていました。


 

 始まりの壁画。



 数世紀前の世界が描かれています。


 左半分は悪魔たちの世界。

 右半分は人間たちが住んでいる世界。

 絵の中心で、魔族の女性と異世界人の男性が手をつなごうとしています。



 その物語は、現代で2人の恋の物語として戯曲が書かれていました。

 魔族の王女と異世界人の勇者が恋をしたのでした。

 その時、世界を震撼しんかんさせたに違いありません。

 

 人間と魔族の恋は禁忌と呼ばれています。

 勇者と魔族の王女の恋は、世界のことわりを失いかねません。

 

 2人の恋は悲劇となってしまいました。

 

 


 逃走の壁画。



 部屋に閉じ込められた魔族の王女が描かれています。


 魔族の王の逆鱗げきりんに触れ、王女は部屋に閉じ込められました。

 彼女は自由を奪われ、もちろん、勇者に会うことができません。

 

 物語をモチーフにした芝居があり、戯曲には詳しい内容が書かれています。芝居の中で、王女は食事もとることができなくなり、勇者への愛の歌をうたいます。村に住んでいる頃、何度となく、その芝居が催されていました。

 

 ある日、王女は姿を消しました。

 

 彼女の逃走を手助けしたという話があります。王女がいなくなると、魔族たちは血眼になって彼女を探すことになりました。


 彼女は姿をくらますとき、魔族の宝である「闇の宝玉」を持っていたのです。

 



 混沌の壁画。



 慌てふためく魔族たち、魔族の城から逃走する王女の姿が描かれています。


 「闇の宝玉」は魔族の宝。特別な力を持っています。魔族たちは、その力が奪われることを恐れていました。それなのに幾ら探しても、王女は見つかりませんでした。

 何処にいたのか、誰も知ることはできませんでした。わかっていることは「闇の宝玉」は勇者の手に渡ったということです。

 



 平和の壁画。



 勇者が「闇の宝玉」を手にし、世界に平和が訪れる姿が描かれています。

 異世界人の勇者は、「闇の宝玉」を使用し、全ての魔族の力を封印しました。

 魔力を失った魔族たちは人間によって滅ぼされていきます。


 世界に平和が訪れたかと思われました。しかし、「闇の宝玉」にはのろいの力が籠もってました。「闇の宝玉」の力を使用した異世界人はのろいにより、永遠の深い眠りについてしまいました。




 全ての異世界人は眠りから目覚めることがありませんでした。

 今日こんにちまで、複数の教会の中で異世界人が眠っています。

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