痛みとやさしさと再生の物語

 レビューを書くに当たって、かなり迷った。自分はこの作品のどこに魅力を感じているのだろうかと。

 巧みな構成というのはあるし、キャラの魅力もある。痛みを抱える登場人物が織りなす物語は、精緻な構成と清冽な文章で読み手を惹きつける。読んでいけば、自然と先が気になってしまう。

 でも、そこがすべてではない。この物語は、人生の終焉としての死を扱っていて、その大きさが正面から描かれる。ある人にとっては大事な、また、別の人にとっては心に引っ掛かる存在を失ったからこそ、それを受け止めきれずにいる。口では何も言わずとも、どうしていいのかわからない姿を透かし見ることもできる。

 その死に、一つの意味を与え、先へとやさしく押し出す、その行為。哀しいことではあるが、それを心のうちに秘めて、次の舞台へと踏み出すための、ほんの少しの手助け。それをナイーブすぎると思われるほど心やさしい主人公が、傷つきながらも逃げずに成し遂げていくところにこそ魅力を感じたように思える。

 登場人物たちは、灰慈によって、何かを得て、前に進むことができた。その姿に
人の美しさと力強さがあり、読んでいて素直に感動した。素敵な物語であった。

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