14 忍の目

 「昨晩のあれ、全部観られてたのか?」


 「あ、まずそっちから?」



 結局、茜部がハイテンションな母と妹をお得意のフラットフェイスで捌く傍ら、気まずい俺と父は時勢に沿って黙々と朝食を平らげた。

 母も妹も、ついでに父も何やら茜部と話したいことがまだあったようだが、茜部が我が家に居座って家族と団欒しているのも何だか落ち着かないので、早々に連れ出すことにした。



 「カメラは暗視機能付きだからばっちり見られてるはず」


 「っふぅ~~~~~~……」



 暗視機能だってよ。そりゃあるよなあの手裏剣のと同等のカメラなら。

 しかし忍者とやらは引き出しが多すぎる。こまめにガス抜きしないとすぐにパンクしそうだ。



 「茜部は見られて平気なのか?」


 「誰が見てるか分かってるから別に……」


 「いや……」



 違うな、思ったからにはハッキリ言っておこう。



 「茜部のその……裸とかまで……知らないに監視されたりするのは嫌だ」


 「な……るほどぉ」



 ここにきてようやく茜部は顔を赤らめた。



 「カメラはまずAIを通してから不審なものだけ監視員に送られるんだけど、あの部屋の管轄は女性だからそこは一先ず安心して。私も適当な男に見られるのは嫌だし、その辺は配慮されてる」


 

 安心した。監視員の話も、茜部がまだ常識的な貞操観念を持っているらしいことも。

 ただまぁ、初っ端からナチュラルに俺への配慮が微塵もないことについて文句の一つくらい言ってもいい気はするよな。



 「あ~……独占欲……向けられると存外嬉しいなぁ」



 茜部は赤面した流れで変なニヤけ方で照れだした。



 「私も水原以外の男には見せたくないと思ってるよ」


 「おぉ……」



 今度はこっちが照れ死にそうだ。見えないが自分で赤面しているのが分かる。



 「ヘタレが一丁前に妬きくさって」



 と、一般的なカップルにはない感じの照れに耽っていたところで背後から聞き覚えのある声がする。

 振り返るとそこには塀に佇むカラスがいるだけだ。


 

 「隊長、おはようございます」



 茜部が躊躇どころか流れるような自然な所作でカラスに敬礼するので思わずぎょっとする。


 

 「おはよう。彩もやっぱり房中実技は履修しておいた方がよかったんじゃないか?」


 「水原は脳が破壊されるタイプっぽいので取らなくて良かったと思ってます」



 朝から何て会話してるんだ。

 ていうか、このカラスが例の上忍!?



 「おいヘタレの水原君、早速彩に恥をかかせたな?」


 「すげー筒抜けじゃないですか」



 つまり、昨日の一連の流れがAIに不審がられてこの上司さんに送られたってことか。

 悪かったなヘタレで。こちとら常人には受け入れ難い情報量と極度の緊張で調子が悪かったんだよ!!



 と、威勢よく言うわけにもいかず。

 ていうか、目の前のカラスがまた情報量の圧がすごくて既にそちらに意識が向いてしまっている。



 「御覧のように【目】はどこにでもあるからな。羽目を外すなよと言いたいところだが、お前はもう少し羽目を外せ」


 「あれ、余計なお世話ですって言っていい?」


 「それくらいなら言っていい」


 「余計なお世話です」


 「ははは、ヘタレが言ってくれる」



 カラスはご機嫌そうにひとしきり笑ってから颯爽と飛び立って行った。

 

 

 「ていうか、親みたいに思ってる人に見られても平気ってのも結構変だと思うぞ」


 「まぁ一般常識から外れてるのは自覚してる」



 忍者だからね。仕方ないか。仕方ないってことにしておこう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る