忍と初デート

13 忍の彼女

 翌朝、ベッドには彼女の姿も、脱いだ後きちんと畳んでいたドエロい忍者装束もなく、いつも通りの自室だった。


 曰く、カメラ満載らしいけどな。

 ……え?てことは昨日のアレコレもしっかり録画中継されていたってことか?


 それを気にしていない茜部のメンタル怖っ……まぁそこは忍者ってことだろう。理解できない範疇は「忍者だから」ってことで一旦別口に受け止めることにした。




 と、痕跡はきれいさっぱり残っていないが、布団を揚げるとかすかに彼女の香りが漂った気がする。



 あぁ、俺本当に茜部と婚約したんだなぁ……


 これからは非日常と日々折り合いをつけて生きていくことになる。

 何せ告白からこれまでの流れで、想像の範疇で収まった事例が一つたりともない。


 まぁ何とかなるだろう。何とかなるだろうと踏んで茜部も告白に踏み切っただろうから、あの変な鍵のやつばりに俺も柔軟に生きていくとしよう。




 「おはよー」


 「おはよーじゃないわよあんた、こんな可愛い彼女さん待たせて!」


 「お兄ちゃんいつまでクソダサ芋ジャージパジャマにしてんのよ。寝ぐせもヤバ!あり得ないんだけど!みっともないから早く身支度してきて!!」


 「は??」



 リビングに降りると、まぁ母と妹の小言はいつも通りだが小言の内容が不可解だ。

 見るとテーブルの丁度いつも空いている席に茜部が我が物顔で座って朝食を食べているじゃないか。



 は???



 「……ゴクン。優生君、おはよう」


 「おお……おはよう??」



 頬張っていたご飯をじっくり咀嚼してしっかり呑み込んだあと、茜部はこちらを見遣った。いや何やってんだこいつ。


 

 「あんた今日デートなんでしょ?茜部さん楽しみで早く来すぎちゃったって、朝ご飯も食べてないっていうから……」


 

 朝飯抜いてまで早く来すぎるほど楽しみそうな顔は全然していないけどな。忍者の鉄仮面で表情隠してるのか?



 「お兄ちゃんサイテー。彼女からのメッセージは寝てても返信しろ!」


 「寝てたら無理では?」



 と、さすがに惚けて突っ立っているのが許される雰囲気でもなかったので、さっさと身支度に向かう。



 「お前、いつの間に彼女できたんだ?ていうか来るなら言ってくれ父さんにも準備があるから」



 洗面所では父が熱心に髭を剃っていた。

 あの場は居心地悪いよな、自分の家のはずなのに。申し訳ない。




 食卓に戻り、「聞いてないけどな」と言うのも憚れる空気なので視線を送ると、茜部は真顔で忍者の印のようなポーズを作って手を二度上下した。……「ニンニン」ってか?……どういう意味?忍者語はまだ履修していないが?



 「ったく彼女が出来たなら言いなさいよ。こっちも準備ってものがあるんだから」



 夫婦で同じこと言ってるじゃん。仲良しか。



 「あぁ、うん……何か、できてた」



 本来は説明しなければいけないことが山ほどあるんだが、如何せん寝起きに奇襲でこんがらがった頭ではまとまらず、生返事に留まる。そもそも家族にどこまで明かしていいのか分からないし、聞いていないけどこれからデートらしいので茜部に訊いてみることにしよう。

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