12 忍者と棒

 「事がひと段落したから聞いておきたいんだけど、どうやって家に忍びこんだんだ?」


 「実際どうやっても忍びこめるけどね」



 言いながら茜部はどこからか黒い鉄の棒のようなものを取り出すと、柄の部分のボタンをいくつか押した。



 「流動合金っていう特殊素材で……」


 「りゅうど……何て?」



 最初、15cmくらいのただの鉄の棒だったそれは、某ターミ○ーターの敵の奴みたいにウヨウヨと形を変え、



 「しゃきーん」


 「え、うちの鍵じゃん」


 「触ってみ?」


 「え、鉄じゃん」



円柱状から我が家の鍵の形になった。触った感触はまんまいつも使っている鍵と同じだ。



 「本物の鍵くらいの固さはあるから、場面によっては武器としても使える」


 「ヤベぇよ~~~~……」


 「水原、忍具を見るとバカになるね?」


 

 いやいやこれを見てバカにならない男子はいないだろ。バカになっていない風を装ってる奴も全員脳内は絶対バカになっているぞ。



 「ドアも窓もこれ一本。しのび的には鉛筆くらいポピュラーな忍具」


 「これが鉛筆はお買い得すぎん?」


 「結構いいお値段するけどね」


 「するよねそりゃね」



 何だよ流動合金って聞いたことない素材をさも当然のように。

 てか忍者、ピッキングし放題じゃん。そりゃ忍者だからし放題か。概念的には不自然じゃないけど。

 しかしこれが鉛筆クラスとなると、上にはどれだけハイテクなツールが控えてるのか~とか、こんなヤバいものが鉛筆並みに普及しているとなると忍者やりたい放題なんじゃないか~とか、忍者の深淵を覗いた気がして怖い。



 「一応これ、生体認証で動くタイプなんだけど、最新テクノロジーの一端だから紛失は厳罰」


 「やべ~~」


 「ねぇずっとバカじゃん」



 茜部は語彙力を喪失した俺がツボなようでぷすすと小さく笑う。


 いや、マジでSFが過ぎる。俺何かの拍子に世界線超えたか?その方が状況が腑に落ちる。


 

 「あ、あと手裏剣で見せた通り、分からないと思うけどこの部屋の至る所にカメラも設置済みだから」


 「結構前から俺のプライベートって抹消されてたんだな」



 本来「○○を見られた!」という羞恥が来るところだが、恐らく見られていないものがない状態なので、一周回ってもはや恥ずかしくない。



 「マジでそんな……俺の何もかも見てる状態で本当に俺でいいって思ってくれてるんだな」



 そう思うと、「ほどほど」と思っている自己評価と、そんな俺に本意気の好意を寄せてくれている幸福感とのギャップで余計にこんがらがる。茜部の何をどう受け止めていいか依然さっぱり分からない。



 「よく分かってないうちに落とすのが忍の手口」

 

 「この藪から棒の連続も戦略のうちってことか」



 だとするとまんまとハメられたな。まぁ端から一貫してまんざらでもないんだが。



 「で、これからは茜部も俺には何もかも見せてくれる、と」


 「……今日はそのつもりで来たから」



 気持ち意趣返しも込めて改めて詰めてみると、茜部は後ろ手にファスナーを下ろし、ドエロい忍者装束を脱いで真っ赤な顔とは対照的に白く綺麗な肌を露わにした。

 


 ……脱いだな。



 は?

 脱いだ?

 


 「……房中術は、実技はやってないけど座学は履修したから」


 「ちょ……え?茜部さん?」



 既に情報量に対し容量がパンク気味だった脳内は眼前の光景一色で雑に塗り替えられた。


 結局、茜部の要望ですぐに電気を消したので何もかも見たわけじゃないし、色々あって最後の最後までは行き着かなかったが、急に冷えた十二月上旬、人肌の温もりと甘酸っぱい匂いに包まれて、よく分かっていないうちに身も心もしっかりと落とされたのだけは確かだ。

 




※ ※ ※



【流動合金錣(シコロ)】

片手の掌に収まるサイズの柄と15cmほどの流動合金棒

棒状部が任意の形に変形する。

変形時の形態はい・ろ・は・に・ほ・へ・との7バンクに各7パッチ、計49種記憶可能。

フレキシブルモードでは錠などに挿し込むと自動で最適な鍵の形を解析して変形する。

最新バージョンでは解析から変形まで2秒。

生体認証とGPSが仕込まれており、登録者しか使用できない他、登録者の体内に埋め込まれたチップと一定距離離れると管制にアラートが鳴るようになっている。

全忍に無料で配布されている。市場流通していないので末端価格はないが、故障した場合、一本丸々交換の費用は114000円。



※ ※ ※



第一章ご愛読ありがとうございました!

カクヨムコン選考突破を目指し続きも頑張って書いていきますので

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