第10話 ゲームのルールと罪の告白
▼▼▼
――そう、例えば……
サイコパスでストーキングを趣味とするヤンデレ女殺人鬼が、大好きな恋人へその重すぎる『愛』を伝えようと、インクに自らの血を混ぜペンの代わりにマチ針で刻むように書いたラブレター。
……みたいな。
そんな清々しいほどに禍々しい文面で、改めて今俺の置かれた状況が異常でイカレたモノなのだなぁと、しみじみ感じさせてくれる、これはそういった説明書きなのだった。
長いうえにカタカナ漢字書きでとても読みにくいが、狂気の雰囲気を少しでも感じて貰うため、要約せず全文を載せておく。
以下、狂気と共に記されたゲームルールの詳細。
▼▼▼
~『幸セヲ取リ戻ス ゲーム』ニツイテ~
ハァイ。コンニチハ!
コノ『ゲーム』ノ主催者デス。
ゲンキ?
ソッカ、ヨカッタネ。
ソレニヒキカエ私ノ方ハ……ア、ダイジョブダカラキニシナイデ。
ゴメンネ? イキナリ。困ルヨネ?
エヘヘ。
アッ、アッ、サッサト本題ニ入ルネ。
ゴメンネ、ホントゴメン。
嫌イニナラナイデ……。
ミキトクン、サクラチャンニ、コノゲームノコト、ヨォク知ッテ貰イタイカラ、イッパイイッパイ説明スルネ!
モウ分ッテルト思フケド、2人ガ幸セヲ取リ戻スマデ、コノ部屋カラハ出ラレマセン!
絶対ゼッタイ、出ラレマセン!
脱出ヲ試みミテクレテモイイケド、正直ムダデス。
チャァーント、ムダナヨウニシテアリマスカラ。
フフ。
ソレデモ、自分タチデ確認シテミルマデハキット納得デキナイヨネ?
ダカラ、ドウゾ。
ヤッテミテ。
デモ、クレグレモケガシナイヨウニダケハシテネ?
時間ハ無制限!
1週間デモ1年デモ!
2人ガ幸セヲ取リ戻スマデ、モシクハ、ソレ以上ハゲームノ【続行不可能】ダト判断スルマデズット続クノデス。
ダカラガンバッテ!
愛シ合ッテイタ幸セダッタアノ頃ヲ取リ戻シテ!
キット2人ナラデキルト信ジテイマス・・・・・・。
幸セヲ取リ戻セタカドウカハ、私ヲ含メタ【11人ノ審査員】ガ判定シマス。
ズットミンナデ見テルカラ。
2人ノコト、ズットズーーーーーーーーーーット見テルカラ。
ドウヤッテ見テルカッテ?
フフフ。
ソレハネ、実ハ部屋ニハ監視カメラ&集音マイクガイッパイ仕掛ケテアルノデス。
全部デ108コ。
スゴイデショ?
ガンバッテ仕掛ケテモラッタンダヨ。
ミキトクントサクラチャンノ、アンナコトヤコンナトコロマデ全部見ルタメニ。
タノシミィイイイイイイイイッ!!
ゲームニサンカシテイル間ノ、仕事先トカ家族ヘノ連絡ハゴシンパイナク!
万事抜カリナイヨウニ仕込ンデアリマスカラ♪
少ナクテモ、ムコウ数ヶ月ハ誰モ不審ニ思ワナイヨウニシテアル!
モチロン、2人ガココデ生活スルタメノ基本的ナ食料品ヤ日用品ハ定期的ニ補充スルカラ!゙
ダカラ安心シテ、ゲームニ集中シテネ!
デモタダヤミクモニ幸セヲ取リ戻セーッテ言ウダケジャ、2人モドウシテイイカ分カラナイダロウシ、ナカナカハカドラナイダロウカラ、私タチモオ手伝イスルネ!
毎朝7時&毎晩19時、12時間ゴトニ、コチラカラ【オ題】ヲ出シマス。
イマコノオ手紙ヲ読ンデクレテルッテコトハ、テレビ画面ニチョウド1ツ目ノ【オ題】ガ映ッテルト思イマス。1ツ目ノオ題ハ・・・・・・
互イノ『罪』ヲ告白セヨ。
ニ、ナッテルヨネ?
フフ、素敵デショ?
私ガ考エタノ。2人ガオ互イノコトニ向キ合エルヨウニッテ。
他ニモイーッパイ考エタカラ、楽シミニシテテネ!
ソレデネ、コノ12時間ゴトノ【オ題】ヲ見事クリアーデキタラ、ソノタビゴトニチョットシタ報酬ヲ出シマス。
報酬ハ・・・・・・ソウダナァ・・・・・・何カ欲シイモノガアッタラ言ッテクレテイイシ、特ニ欲シイモノガナイノナラ、私タチノコトヲ話シテアゲテモイイ。
キット、質問シタイコト、イッパイアルヨネ?
フフ。
ソレジャ、ガンバッテネ。
イッパイ、イーッパイ応援シテル!
ミキトクントサクラチャンガ、ハヤク幸セ取リ戻セマスヨーニ♡
カシコ
▼▼▼
・・・・・・以上である。
少しでもいま俺が感じている、ヤバみ、憤り、やるせなさ、怒り通り越しての呆れ、からの開き直り、等々の感情に共感して頂けただろうか?
頂けたなら不幸中の幸いである。
しかしながら共感どころか、そもそも上記の半角カタカナあたおか文を読むのすら七面倒だ! という非常にワガママな御仁もおられることだろう。
ことだろうから要点を書き出しておくと……
・幸せを取り戻すまでは部屋から絶対に出られない。
・11人の審査員(?)がいる。
・常に監視カメラでモニタリングしてる。
・周辺や知己に不審がられない対策は万全!
・食料、日用品は配給。
・7時、19時に【お題】を出される。
・【お題】をクリアーすると報酬が出る。
・報酬で種明かしもしてやる・・・・・・かも?
といった感じだ。
改めて整理してみると、本当に、誰が何のために、一体全体どこの誰得な理由のために、こんな事を俺たち2人に仕掛けているか、さっっっぱり分からない。
分からないが、これは現実であって、現実の生活において、自分にはその理由が「さっぱり分からない!」ことなどは、ままあるものなのだ。
例えば……晴れた日に散歩をしていると、唐突に歩道のど真ん中に濡れた靴下が片方だけ落ちているのを発見する。辺りには人気も洗濯物が飛んできそうなベランダもない。
……なぜだかはさっぱり分からない。
通販で「コレだ!」と一目惚れしてポチったTシャツ。届いたのでさっそく着て鏡の前に立ったら、あのスマホ画面越しに輝いて見えていたモノとは、まるで同じモノだと思えない。
……なぜだかはさっぱり分からない。
カップ麺を食べようと電気ポットから湯を注いだら、まだ全然水だった。
……なぜだかはさっぱり分からない。
大切なのは、こういった理由のさっぱり分からない物事に対して、その理由を解き明かしてやろうなどと意気込むのではなく、とりあえずはどうすれば、この状況をこなせるか? それを考えることである。
似合わないTシャツは即メルカリで転売すれば良いし、カップ麺の水はポットに戻して沸かし直せば良いし、歩道の濡れた靴下などはちょっと道の端に寄って見なかったことにすれば良い。
だいたいそんな感じで現実は回っているのである。
つまり、いまこの俺たちが置かれた状況においても、それがどういう理由だとか、何の目的があってこんな事を……と考えるよりも、どうすればサッサと終えられるのか、それを考えるべきなのだ。
・・・・・・と、6本目の缶ビールをジュルジュル言わせながら、ボチボチアルコールでボヤけてきた脳ミソでもって、俺はこの状況を雑にではあるものの、それなりにポジティブにも受け止め始めていた。
そうとなれば、差しあたっては【お題】である。
『課題1 お互いの「罪」を告白せよ ~19時まで』
この紙にも書いてあるし、さっきから相変わらず消すこともチャンネルを変えることも出来ないテレビ画面にも浮き出たままのソレ。
「互いの罪、ねぇ……何かあったかなぁ?」
・・・・・・いや、まぁ。
あったかなぁ? どころじゃない。
数え始めりゃキリがないでしょ、フザケンナってハナシだ。
むしろこの1年、2人の間にゃ罪しかない、と言ってもあながち過言じゃないだろう。別れる別れないで揉めに揉めたこの1年、心穏やかでいられた日など1日たりとも無かった。
・・・・・・ところで今更だが。
俺とサクラが別れることになったのは、サクラの『浮気』が原因である。
もうなんとなく察しておられる方もいようが、そしてまたも唐突だが、ここでひとつハッキリさせておこう。
そうなのだ!
別れることなったのは、サクラの『浮気』でが原因である!
大切な事なので2度言いました。
なんなら、この1文だけフォントを大きく赤文字で強調しても良いくらいだ。
浮気。
これを罪と呼ばず、何を罪と呼ぼう?
大罪、そう言っても差し支えあるまい。
「大罪は言い過ぎじゃない?」
そう思う者も居るかも知れない。
「かばう訳じゃないけど、男女仲にはよくあることでしょ?」
相対化で矮小化を口にする輩も居ることだろう。
「ってかさ、浮気サレタ側にも原因あったんじゃない?」
極めつけはサレ側に責任転嫁してくる悪逆の徒だ。
即刻、銃殺刑である。
上記のストレオタイプな差し出口をしてくる者に生きる資格などない。
フザケルンジャナイッ!
コノ、バカヤロウドモガッ!!
もしも俺が皇帝で、貴様らがその帝国の住民であったなら、即刻一族郎党銃殺刑の上で晒し首してやるところだっ!
貴様らっ!
今ここがっ!
俺が支配する帝国でなかったことに感謝しろっ!
「「「バッカじゃないのwww」」」
バカじゃなぁああああああああああああああいっ!!
浮気。
浮気。
うわき。
たかが浮気。
されど浮気。
しかして浮気。
ああ、浮気。
浮気浮気浮気。
いっそ祭りだ。
浮気の祭りだホーイノホイ。
太鼓叩いて神輿を担いで浮気を奉ろうワッショイショイ。
射殺である。
そんな邪教の祭に与する者は機銃掃射で皆殺しだ。
ついでに神輿も断崖絶壁から放り落してやる。
・・・・・・あああ、もう。
我ながら言ってる意味が分からない。
朝から急速に脳内に送り込んだアルコールのせいもあろうが、サクラの浮気について考え出すと、俺はいつも冷静でいられなくなる。考えに何一つ脈絡がなくなってしまう。
ええと、なんだ?
何を考えていたんだ?
罪の告白。
そう告白だ。
お題には『告白』とあっのだ。
大罪たるサクラの浮気。しかし告白しろってことは、【現在進行形】でまだ【秘密】にしてる罪を言えってことではなかろうか?
ううむ。
秘密。
しかも「互い」に。
・・・・・・まぁ、俺は身に覚えがある。
無論当然、サクラにも有ることだろう。
って言うか、あるに決まってる。
絶っっっ対、ある。
確信的に、ある。
サクラは秘密をまだまだ隠している。
と、言うのも、だ。
俺の秘密はサクラの秘密に対抗して作ったようなものだからだ。
サクラが先に俺に対して秘密を持ったから、その仕返し・・・・・・というとアレだが、俺も対抗して秘密を作った。言ってみればバランスを取るため。そうしないと俺の心が壊れそうだったからだ。
その秘密を、ここで告白する。
・・・・・・よかろう。
してやるさ。
しかし、俺だけが告白したのでは仕方がない。
ここはしっかりとサクラにも告白して貰わねば。
お題的にもハッキリ『互いの罪』と明記してある。
そして何より、俺が、サクラの秘密を、罪を、その詳細を知りたいのだ。
いや知らねばならない。
サクラと【あの男】との間にあった全てを。
これまでサクラにはのらりくらりと誤魔化したり事実を隠す形で真相をあやふやにされてきたが……。
今日という今日はトコトンまで告白して貰おうじゃないか。
「サクラ」
俺は6本目の缶ビールをグイッと飲み干してから彼女の名を呼んだ。
「先に俺の罪から告白するわ。俺さ、お前と昨日別れるって決める前に、もう他の娘と懇ろになってたんだわ」
それから俺は、未だ意識が半分トンだままのサクラにサックリと己が秘密を告白し始めた。
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