3-1 モデルの世界へ

 俺達が入店すると、待っていたのはスーツを着たイカした男女2人組だった。



「「いらっしゃいませ!」」



 キッチリとした所作、整った顔立ちに服装。店内はまるで夜空の様な装飾で、店員を輝かせている。


 俺の様な安っぽいスーツを着て来たおじさんには合っていない。

 今日頑張って整えた俺でも、敵いっこないその2人の店員……いや隣の奴も含めた3人の容姿。目が潰れそうだ。



「いつもご苦労様です」



 俺が卑屈に目を逸らしてる内にも、七原はその2人に手を挙げて応えると、ドンドンと奥へと進み、女性服のコーナーへと着くとやっと俺の腕を離した。



「此処まで来れば見られないですかね…?」

「見られない? 何がだ?」

「え! あ、いや、何でもないです! 気にしないで下さい!!」



 七原は焦ったかの様に、首を高速で横に振った。


 その様子を見て、俺はピンと来た。



 七原が自殺しようと思ったのは、自分のいかがわしい動画をSNSに上げられてしまったから。周りの人に、あの動画の人だと認識されるのが怖い。


 そう思っているのだろう。


 だからあの厳重とも言える服装。俺がもし七原と同じ立場だったら同じ事をするかもしれない。



「七原はどういう服装が好きなんだ?」



 そう判断した俺は、自然と手近にあった服を手に取りながら話を切り出した。



「あ…わ、私は基本的に可愛いヤツが好きなんですけど、偶にこういうカッコいいやつを着たりすると心身が引き締まると言うか……」



 戸惑う様にして七原がそれに応える。


 心身が引き締まるか…確かに。此処にあるヤツはどれを着ても引き締まりそうだ。


 周りにある服は青を基調とした服ばかり。綺麗で、カッコよく、大人の女性の雰囲気がプンプンと匂ってくる。


 値段を見れば俺の目が零れ落ちる様な値段ばかり。俺が着たらある意味気が引き締まる、そんな服がいっぱいだ。



 はははははは。



「九条さんはどのような物が好きなんですか?」



 俺が顔を引き攣らせていると、七原が聞いてくる。



「あー……まぁ楽そうな服が良いよな。学生時代の時よりぷっくりはしてきてるから」



 元カノにも言われたんだ。高校の写真よりも太ってるねって。そりゃ、そうだ。

 学生の時とは違って、今は何1つ運動していないからな。腹や尻には肉が付いて身長よりも少し大きめのサイズを買わないといけない。


 ……情けな過ぎる。


 そんな俺の心情を知ってか、知らずか七原が言う。



「九条さん、違います。私が聞きたいのは九条さんがどのような物を彼女に着て貰いたいのかです」

「は、はぁ? そんなの聞いてどうするんだよ?」

「え、いや、た、唯の世間話ですよ?」



 ……何故そんな目を泳がす?

 いや、世間話と言われたらそうかもしれないが…まぁいいか。



「ハッキリ言うが、俺はファッションセンス皆無だぞ」

「はい! 構いません!」



 元気な返事が返ってくる。俺は諦め、周りを見渡した。



「そうだな……これなんかどうだ? 七原はスタイルが良いからな。こういう体型がハッキリ分かる奴の方が魅力とかが上がるんじゃないか? 今の季節はこれを羽織ったりとかか?」



 相手のスタイル、骨格を見て服装を決め、そしてそこから、季節に合わせた色、雰囲気を決めていく。


 これが"俺流服装決め"である。



 ふん! これで俺のファッションセンスが無いことが分かっただろ?


 そんな事を思いながら七原を見ると、七原は何故か真剣そうに俺が選んだ服を凝視していた。



「なるほど…確かにそういう考えも……今度マネージャーに……九条さんの好きな物を知りたかっただけなのに予想外の収穫です…」

「何だ? マネージャー?」

「あ! いえ、何でもありません! それよりももっと他に私に似合いそうな服とかありませんか? ほら、これとか、それとか…」



 七原が考えている事はよく分からない……が、お前なら何でも似合うと思うぞ。



 俺は七原の背中へと、静かに親指を立てるのだった。

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