冒険者登録、しました!

「へぇ………様になってるじゃないか、カエデ」

「えへへ、だといいんですけど………」



 私が照れながら頬を掻いたのは、あれからおよそ一時間後、冒険者ギルドと提携している装備屋さんでのことだった。


 今の私は、いつものセーラー服と、胴体、前腕に革製の鎧。それから、腰には買ってもらったばかりのレイピアがある。



「それにしても、良かったんですか?職業ジョブ、《戦士ウォーリア》にしてしまって」



 そう。

 私は職業ジョブを、メアリさんやクレアちゃんに提案された《剣術士フェルシサー》ではなく、《戦士ウォーリア》にしていた。



「はい。ローザさんも最初は《冒険者ノリヴィス》だったなら、私も特別扱いはよくないかなって」



 答えながら、ちらりとローザさんを盗み見る。

 彼女の胸で輝くブローチの宝石は、真っ赤な紅玉ルビー。上級冒険者の証だ。


 昨日、冒険者ギルドでローザさんがあんなに人気だったのは、多分みんながローザさんの頑張りを知っているからなんだろう。

 そう考えたら、私もズルはよくない気がしてきた。


 (…………変に目のかたきにされたら嫌だし、というのが本音だけどネ☆)



「すみません、メアリさん。せっかく私のために頑張ってくださったのに………」



 でもメアリさんやクレアちゃんへの罪悪感はある。(そこは一応ある)


 ぺこりと頭を下げると、以外にもメアリさんの穏やかな声が返ってきた。



「いえいえ、気にしないでください。カエデさんのため、とは言っても、私が勝手にやったことですし…………それに私、感動しました」

「へ?」

「目の前に、『手っ取り早く出世できる道』と『地道に努力しないといけない道』がある。大抵の人は前者を選ぶのに、カエデさんは………………本当に、素晴らしいです!」

「えっ」

「あえていばらの道を選ぶ………その心意気に、私、これでも本当に感動しているんですよ、カエデさん!どうかギルド登録後の担当者には私を選んでくださいね!カエデさんの冒険者ライフを全っっっ力でサポートしますので!!」



 訂正。全然穏やかじゃなかった。



「あ、そうでした!カエデさん、冒険者登録後のことなんですが」

「あっ、はい」



 仕事モードへの切り替え早っ。



「カエデさんの現在の職業は初級職なので、一般的にはパーティーに加入する場合が多いです。どうなされますか?」

「えっと……加入しない、っていうのは出来るんですか?」

「出来ないこともありませんが、初心者がソロで受けられる依頼はかなり限られますよ?正直、あまりオススメは出来ません」

「そうですか………」



 う〜ん。仕事がない、ってことはお金も稼げないし、出世?っていうかランクが上がるのも遅くなるよね。

 どうしよ、これはクレアちゃんに相談かなぁ……?


 と、考えていた時。



「ねぇ、それなんだけど」



 不意に、それまで黙っていたローザさんが口を開いた。



「カエデさ、うちのパーティーに入らない?」


「え?」



 ローザさんの、パーティーって………あっ!


『あたしはローザ。一応、冒険者パーティーのリーダーをしてるよ』


 昨日の自己紹介が耳によみがえる。

 そう言えば、そんなこと言ってたっけ………!



「まぁ!それはいい案ですね、ローザさん!でも、今までどんなに頼まれてもメンバーを増やさなかったのに、なぜカエデさんを?」

「ん?ちょうどあたし以外にも前衛が欲しかったって、それだけですよ」

「またまた〜」



 にんまあ、とからかうような表情で、メアリさんが言う。



「でも、楽しみです!うちのギルドでも一、二を争うパーティーに、期待の新メンバーですか……!ふふっ、良かったですね、カエデさん!」

「そうなん、ですね?えっと、ありがとうございます?」



 えっ今なんて………一、二を争うって言った?マジで?いや薄々察してはいたけどローザさんってそんなすごい人なの?


 混乱する私をよそに、ローザさんはまるで某少女歌劇団の男役スターみたいな、うっとりするほどの笑顔で言った。



「じゃ、さっそくこれから会いに行こうか」

「だ……誰にですか?」



 予想はつくけど。でも私コミュ症とまでは行かずとも対人陰キャの部類だから出来ることなら外れてk―――――――――



「もちろん、パーティーメンバーに、だよ」



 ―――――ノォォォォオォォォォォーーーーッッッ!

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