6-3 と、友達のためなんかじゃないんだからねっ


 強制ログアウトについては――対策に、心辺りがなくもなかった。


 ただ実は、それ以外の問題も山積していた。


 まず普通に、グリフォンを再度倒すのが難しい。


 前回は【爆炎石】×50が火を噴いたけど、今回はそのアイテムが存在しない。

 魔法防御に特化した装備品の再調達も必要だ。

 そして毒矢と回復アイテム類と、集めるものが結構ある。


 その辺、深瀬さんに相談しつつ、クラスメイトにもちょっとだけ手伝って貰えれば……と考えつつ帰宅し、いつも通りログインすると――





「て、敵襲―――!!!」


 悲鳴が響いた。


 二階建てログハウスで目を覚ました僕は、すかさず武器を装備。

 一階に降り、バリケード前で杖を構える彼女と合流すると……


「ああああああ蒼井君、ししし、知らない人が来てる! きっと襲撃に来たんだわ! ええ、このゲーム友達クエストって言いながらフレンド以外とならPvP出来るものね。ぼっち狩りが強い殺戮サバイバルゲームの正体現したわね! かか、かかって来るがいいわリア充ども、全部倒してやややるんだからぁ……!」

「おー、蒼井君! ハロー!」

「ああ藤木さん。それと獅子王さんも」


 来たのはクラスメイトだった。

 っていうかごめん、実は僕から、時間があったら手伝って欲しいと声をかけていた。

 気を利かせて僕の家まで迎えに来てくれたらしい。


 ――って説明したら深瀬さんが頬を引きつらせ、


「んなっ!? 裏切りもの―――っ!」

「どうしてもグリフォン退治にお手伝いが欲しくて」

「っ、ふ、フレンド登録はしないからっ……!」


 深瀬さんは涙目で叫び、二階に隠れてしまった。


「あー……しまった、事前に話しておけば良かったなぁ」

「蒼井君、さっきの子が蒼井君の話してた子?」

「ええ。とても良い子ですけど、ちょっと人見知りでして」


 深瀬さんには事前に説明しておくべきだった。


 ……まあ、とりあえず深瀬さんへの謝罪文をダイレクトメッセージで送信しつつ、藤木さん達に向き直る。


 改めて僕は、グリフォン討伐に苦戦してることを説明した。

 ついでに彼女達に、アイテムや装備品を一部貸して貰えないか、と相談したかったのだ。


「中間試験が終わったら利子つけて返すので、一旦借りれないかなぁと」

「いいよいいよ。貸すなんて言わないから。あげるよ蒼井君」

「え、でも」

「蒼井君にはいつもお世話になってるし、たまにはお礼を返させてよ! てか、さっきの子とはフレンドになれないの? 一緒に倒そうよ!」

「んー……まだ僕もフレンド登録してないんだからね。人見知りで。……けど、そのうち機会ができたらお願いね」


 了解、と笑う藤木さん。

 ここで「いいじゃんフレンド登録くらい軽くしちゃおうよ」と押しつけてこないのが、彼女の察しの良さだ。


「じゃあ、あたし達から渡せるアイテムはぁ、んー、【爆炎石】でいいんだよね?」

「はい。それと魔法防御の高い装備品をお借りできれば……獅子王さん、お願いできますか? あ、さっきはあげると聞きましたけど、きちんと利子付きでお返ししますので」

「律儀ね、蒼井君は」


 段取りを決め、アイテム交換を行った。

 まだ【爆炎石】の個数が足りないけど、獅子王さんがクラフト可能ということで素材さえ持っていけば良いらしい。

 中間試験までには間に合うだろう。


 という訳で一通り交渉を終えた頃、ふと、獅子王さんがログハウスの二階を見上げて呟いた。


「ねえ。さっきの子、蒼井君ともフレ登録してないのよね? ということは、まだこのゲームで誰ともフレンド登録をしてないってことかしら」

「ええ」

「だったら……」


 深瀬さんの性格から考えても、間違いないだろう。

 というより僕の知らない所で、他の人とフレンドになってたら……ちょっと残念かも、なんて思う。


 と、獅子王さんはその話にすこし唸って、僕にぴこんとダイレクトメッセージを送信した。


「気が向いたら、で良いのだけど。このメッセージを、その子に渡して貰えないかしら?」

「何ですか、これ」

「友達クエストは、友達を集めるクソゲ―だけど。もしかしたら、友達がいない人にも、少しだけ優しいかもしれないって話よ」


*


 その日の深夜。

 あたし――深瀬ひなたは、一人ひっそりとログインしていた。


「…………ほ、本当にあるんでしょうね……?」


 昼夜逆転に定評がありすぎるあたしだけれど、好き好んで夜中にインするほど暇じゃない。

 しかも、よりにもよって――夜中の森林フィールドの奥地に、一人で、なんて。


 手元の魔法ライトで地面を照らしつつ、がさがさと雑草を掻き分ける。

 時おり揺れる草木に「ひいっ」と悲鳴をあげつつ、前へ。


 っていうか、あたし何やってるんだろう本当……これ下手なホラーゲームより怖いじゃない……

 ……てか、何であたしがこんなとこに一人で、と……と、ぐすんぐすんと鼻をすすりながら、真っ暗な森をじりじり進む。





 発端は、蒼井君を経由して届いた、獅子王さんという人からのメッセージだった。


【深夜二時。リンゴの森に、ぼっちの幽霊が出るらしい。出現条件は、フレンド登録者数がゼロであること――】


 もちろん幽霊を見たくて森を探索してる訳じゃない。

 っていうか怖いの無理だし!


 ……けど、情報によると……

 その幽霊からは、とある超レアアイテムが貰えるらしい。


 ……まあ正直、騙されてるんじゃないの?

 と、思わなくもない。


 蒼井君はいい人だけど、友達の友達がじつはぼっち殺しのテロリストである可能性は十分ある。

 実はいまも密かにライブカメラが仕込まれていて、怖がりつつ騙されるあたしを餌に、ポテチとコーラをつまみながら爆笑してるかもしれない。

 そんで森の奥地にある墓について、泣きながら宝物を発見したら【うっそ~ぼっちカワイソウ☆】という残酷な悪戯メッセージとご対面……なんて可能性も十分ある。

 だって友達いないぼっちなんて格好の苛め対象だし!


 ……それでも、あたしは森を進む。

 VRのくせに生暖かさすら感じる夜風をくぐり、蜘蛛の巣に絡まれながら進んでいく。


 だって……。

 その蒼井君の友達とかいう女の情報が確かなら、そのアイテムは、次の戦闘の切り札になるかもしれないから……。


(んぐぐっ……!)


 オバケは怖い。人はもっと怖い。

 怖いけど、でも次の戦闘に万全を期さないのは、面白くない。

 ただでさえ強制ログアウト問題で蒼井君の中間試験には後がないのだ。彼はニコニコ笑って「大丈夫だよ」と言ってくれるけど、もし次のグリフォン戦で「あの時アイテムを取っておけばなぁ」なんて後悔はしたくない。

 何よりいくらあたしが堕落者で怠け者であっても、友達をそれに巻き込んだりするのは、どうしても――


(って、違うけど! 友達じゃないけど! っていうかこの森どこまで続くの、あたし迷子になってないわよね……?)


 ぶんぶんと首を振る。

 コウモリの羽ばたきに飛び上がり、フクロウの泣き声にびくっとし、もうおうち帰りたい無理むり限界っていうかなんでこのゲーム毎回クソ仕様なの運営ホント泣かすわよ――と鼻をすすりながら。



 ようやく、見つけた。

 森の奥深くにある、小さなお墓の上。

 深夜二時から三時の間にだけ出現するという、白い風船のようなもの――ぼっちの幽霊。


 あたしは恐る恐る、小さな墓の上にいる幽霊に近づく。

 白く丸っこい、デフォルメされた幽霊があたしに気付き、ふりふりと手を振る。


 イベントは一瞬で終了した。

 彼(?)は、あたしのフレンドを確認したのち、にこりと笑って姿を消し。

 一振りの剣に変化した。


「えぇ……? あたし魔法使いなんだけど……」


 確かにアイテムはあったけど、これあたしに使えなくない?

 と、武器をアイテム欄に収納しつつ、追加効果を確認して――


「って、何よこの仕様――! ぼ、ぼっち最強の武器って、う、嘘つき……っ!」


 密かに悲鳴をあげながら、あたしはアイテム袋に、それをこっそり仕舞う。


 使いたくない。

 とても使いたくない仕様だけど。


 でも、万が一の時は……絶対ないと思うけど、蒼井君がピンチになった時には、どうしてもって言うなら……

 使おう。

 まあ別に、とって喰われる訳じゃ無いんだから――と、ぶつぶついいながら拠点に戻り、ログアウトして布団を被りふて寝するのであった。



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