5-7 友達クエストは友達を作るゲームらしい



「はぁ……」


 土日が明けた月曜日、朝から珍しく溜息をついてしまった。

 原因はもちろん、先日のサーバーエラーの件だ。


 結局あのあと再起動したら、拠点で目を覚ました。

 強制ログアウトされ魂魄状態になった所を、ボスに倒されたのだろう。

 アイテムはもちろん、全ロスト。敗北扱いである。


 深瀬さんは「何それ――――! いまの絶対勝ってたじゃない!」と激怒し、僕も正直……

 うん。苛立った。

 らしくないとは思うけど、久しぶりに心底から、それはないと思った。


 深瀬さんは運営に文句言ってやる、と公式HPを開いてクレーム文を書いてたけど、送る直前になって「い、いやでもそれで変な文句帰ってきたら怖いもの……」とびびり、布団を被って泣き寝入りしてしまった。


 ……タイミングが悪かったのかな、と思わなくもない。

 けど――それにしても――


「おぉ? どうしたどうした蒼井君? 元気ない顔してぇ」


 ぴょんと顔を覗かせたのは藤木さん。

 元気に出てくるその姿に癒されつつ、笑い話になるよう昨日のことを語る。


「いやちょっと、土曜に友クエの試験してたら、サーバーエラーで落ちちゃって……いいトコだったんだけどね」

「サーバーエラー? バグみたいなやつ?」

「そうそう。ゲームを運営してるシステムがダウンしちゃって、強制的にゲームを中断させられるやつ」


 まあ僕も詳しくないのだけど、サーバーエラーというならプレイヤー全員が中断させられたはず。

 ああ。

 そういえば自分以外にも、被害を受けた人がいるかもしれない――


「んーでもあたし、土曜の夕方遊んでたけど、バグんなかったよ?」


 あれ?


「クラスの情報でも、落ちたって報告なかったと思うけど? ねーねー!」


 藤木さんがクラス専用LIMEに質問を投げる。

 返答はいずれも、サーバーエラーなど起きなかった、というものだった。


「蒼井君のだけバグったんじゃない?」

「それは無いと思うけど……」


 深瀬さんも一緒にシャットダウンしたのだ。僕単体のエラーではない。

 というか政府公式のゲームなのに、試験中に落ちる、なんてことあって良いんだろうか?


(公式HPから問い合わせてみるか?)


 今後同様のバグが出たら、僕以外の生徒も被害に遭ってしまう可能性がある。

 成績に関わる試験だし、上手くいけば救済措置を貰えるかも――と計算を立てたところに、担任の先生がのんびり入ってきた。


 朝のHRが始まる。

 それが一段落した頃、先生にちょいちょいと手招きされた。


「蒼井、昼休みでいいんだが、進路指導室に来てくれないか?」


*


 そうして進路指導室に呼ばれた僕に渡されたのは、例のヘッドセットだった。


「どうしたんですか先生。これ、友クエのヘッドセットですけど」

「お前さんと、話をしたいって人がいてなぁ」

「ゲーム内で、ですか? 待ち合わせ場所は……僕いま、森の東側の拠点で寝てますけど」

「それは大丈夫だろう。相手はゲームマスターだからな」


 ゲームマスター?


 はて、と不思議に思いつつもヘッドセットを被ることにした。

 自動で僕のIDを認識し、ログイン。

 そして本来なら拠点で目を覚ますはずの僕は……




 気がつくと、高層マンションの一室に佇んでいた。


 シックなデザインで整えられた一室は、オフィスビルの最上階にある社長室のようだ。

 真正面には、横長の黒塗りのデスクがあって。

 奥に――黒服の男性が腰掛けている。


 黒のサングラスをかけた……昔ロードショーで見た映画マトリックスとか、メン・イン・ブラックとかに登場しそうな、スーツ姿の男性だ。

 有名な名探偵漫画に出る、黒の組織、といった方が分かりやすいかも。


「ようこそ蒼井空君。β版のテストプレイへのご協力、ありがとう。君のプレイングについて、非常に興味深く見させて貰っているよ」


 見させて貰っている……ということは、友クエの運営の人、だろうか。


 緊張しながらも、思考の片隅に閃きが走る。

 この人なら、先日のグリフォン戦バグについて、知ってるかもしれない。


 そんな予感は、けれどあっさりと覆された。


「まあ高校生の貴重な昼休みだ。前置きはなしでいこう。今日、君を呼んだ理由は他でもない。――本ゲームへの助言をお願いしたくてね」

「助言……?」

「単刀直入に言おう」


 と、彼は肘をついて、僕ににっこりと微笑んだ。


「本ゲームを、きちんと友達を作らないとクリア出来ない仕様にするには、どうすれば良いと思う?」


 僕は警告を思い出した。



【本ゲームは友達を作らずプレイすることを推奨していません】













――――――――――――――――――――

今年もよろしくお願いします。

一応、このお話はあと15話くらいで一段落する予定です。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る