5-5 当たらなければどうということはない(ピンチにならないとは言ってない)


 地上戦に移行したグリフォンの攻撃は、突進とファイアボール、翼をはためかせての飛びかかり、雷撃キックの四種類。

 【ゼクスサンダー】や【スカイダイブ】は使用しない。


 そのうち雷撃キックは回避が困難だが、敵の後ろに立たなければ問題無い。

 突進攻撃は一直線だし、飛びかかりも後方にバックステップすれば回避は余裕。

 ファイアボールは当たっても微ダメージだ。


 僕等の装備品は魔法防御重視のため、物理技を喰らったら一撃でHPが7割以上吹っ飛ぶが――


「当たらなければどうということはないわ! 人生で一度は言ってみたかったセリフね!」


 深瀬さんがノリノリでサイドステップし、敵の突進を回避した。

 アイテム袋に手を伸ばし、敵目掛けて紅色の宝石を投擲。


 直後――大爆発とともに、グリフォンのHPゲージが1%近く消失した。


 ――【爆炎弾】

 【火炎弾】の上位アイテムではあるが、投擲距離が短い、近すぎると爆風に巻き込まれる、おまけに高価という癖のあるアイテムだが、威力は折り紙付きだ。

 ただし【爆炎弾】の作成には高レベルのクラフトスキルが必要なはずだが――彼女はそれを調達した。五十発も。


 深瀬さんがどうやって集めたのかは、わからない。

 けど、この高火力なら戦闘時間の大幅な短縮が見込める。


 グリフォンが僕に焦点を合わせた。

 口から放たれるファイアボールは魔法攻撃のため、ダメージは大したことない。


 炎を払いのけつつ、直後の飛びかかり攻撃をきっちり見極め、後方にバックステップ。

 おっとっと、と下がりながら僕も【爆炎弾】を投下。HPゲージを削り、さらに、


「ファイアボール!」


 深瀬さんが隙をみて追撃。僕も距離がある時は通常の【火炎弾】をばらまいていく。

 空中時には当てにくかった攻撃も、地上戦なら通りやすい。


「落ち着いて、落ち着いて、と……」


 推測だが、グリフォンの行動パターンはかなり弱い。

 僕と深瀬さんはゲームに対する慣れがあるけど、一般生徒にはオンラインゲームやRPG自体に馴染みがない人も多い。その人達が倒しやすいよう、行動パターンを分かりやすく組んでいるのではと思う。


 なら、少人数でも丁寧に立ち回れば、負けはない。


 避ける。反撃。敵の行動を観察。

 避ける。反撃。敵の攻撃を観察。


 淡々とテスト問題を解くように解決する、それが僕らの戦い方だ。

 クラスメイト同士でわーわー騒ぐもの良いけど、これも正しい解答だ。


 ――残り、20%。


「いけそうだね、深瀬さん」

「ええ。このまま押し切りましょう!」


 ――残り15%。


 13%。

 12%。

 11%……10%。


 この調子でいけば、あと三十分でカタがつく。

 そう目算を立てた時――グリフォンが、くえええ、と喉を鳴らして雄叫びをあげた


「「へ?」」


 一転、空中に舞い上がったグリフォンは、急上昇からがくんと姿勢を下ろし、地面にダイブ。

 爪を立てながら急速に大地へと迫る、あの動きは――


「やっば、ドッペルゲンガー!」


 深瀬さんが慌てて分身をばらまいた。

 50体の深瀬さんがフィールドに散らばった直後、グリフォンの着地と同時に白い煙がぶわっと広がる。

 【スカイダイブ】の波動だ。


 予定になかった行動変化。

 けど間一髪、深瀬さんの回避が間に合った。


 良かった、と安堵したその時――


「やばっ!?」


 深瀬さんの悲鳴が、フィールドに響いた。

 【スカイダイブ】の波動による煙が晴れた瞬間、僕が見たのは――


 よろめいた深瀬さんの上半身へと飛びかかる、グリフォンの巨大なかぎ爪だった。


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