”友達クエスト”の少数派 ―フレンド数=強さのVRMMOで芋ぼっち美少女の世話をしたら「と、友達なんかじゃないもん……」とデレてきたので一緒に攻略しようと誘ってみた―
5-4 ト○レは我慢するものではなく放つもの
5-4 ト○レは我慢するものではなく放つもの
迎えたレイド戦当日、僕らはボス部屋へと繋がる石柱前に集合した。
昼食よし、トイレよし。
クリアすべき課題は、波動攻撃、HP50%以降の近接戦、そして膨大なHPを削りきる火力だ。
「いくわよ蒼井君。だ、大丈夫、作戦はばっちりだから」
「あんまり緊張しないでね、深瀬さん」
と言いつつ、僕もちょっと緊張する。
ボス部屋に入ると、全滅後のアイテム回収が出来ない。
正確に言えばアイテム回収は可能だけど、ボス戦から逃げられないためアイテムを持って拠点に戻る術がない――そういう時こそフレンドに手伝いを頼むのだろうけど、僕らは一発勝負だ。
よし、とワープゾーンへと突入。
動画で見た通り、コロシアムのように広がる円形のフィールドだ。ギミックはなく、純粋にバトルを行う場所。
その中央をうろつく巨体、グリフォンがこちらに気づいた。
翼を開き、威嚇の咆哮をあげるとともに、深瀬さんが毒矢をつがえた。
「先制不意打ち上等!」
すかさず矢を放つ。魔法使いのため物理ダメージは出ないけど、毒付与自体は有効だ。
毒矢の成分は、以前迷った地下洞窟のキノコで補填した。
僕も習って弓を構え、空飛ぶ敵に追撃。
グリフォンの頭上に紫の泡エフェクトが現われ、敵が毒状態に陥る。
毒は一定時間で解除されてしまうけど、再度、毒にすることは可能だ。
そこに敵の雄叫びが響き、空中にちいさな雷球が発生した。
ちかっと眩く光ると共に、空気を切り裂いた六連続雷撃【ゼクスサンダー】が僕に直撃。
――けど、ダメージは一桁台。
HPゲージに変化なく痛みもない。事前に魔法防御を固めたお陰だ。
続いてグリフォンの炎ブレス。深瀬さんにあたるが、これも微ダメージ。
「やっぱり威力が六連続や全体攻撃になってるぶん、防御をがっちり固めたら威力は分散するね」
「計算通り!」
そうイキった深瀬さんに見せつけるかのように、グリフォンが急下降を始めた。
来た。
回避、防御ともに不可能。プレイヤーが二人なら即死確定の大技、波動攻撃【スカイダイブ】――けど、
「深瀬さん、お願い」
「ドッペルゲンガー!」
彼女が音声認識で魔術を発動。
と同時に、彼女の分身がふわりと――50体、現われた。
ドッペルゲンガーはもともと、本ゲームを持ってない友達に遊んで貰うためのお裾分け魔法だ。
友達を気軽に誘いやすいようにするためか、消費MPはゼロ。
かつ、他プレイヤーがログイン出来なくても存在させること自体は可能だ。
よって分身を50体出すだけなら容易く――分身がプレイヤーの頭数に入ることは、四人迷宮で証明済み。
グリフォンが着地し、フィールド全体が白い霧に包まれる。
視界全体が白く染まり、けれど予想通り――ダメージは50人のイマジナリーフレンドにより無効化。
「見たかしら。これが”友情”の力よ!」
「違うと思うけどチャンスだね」
大技の後隙により硬直したグリフォン目掛け、僕等は用意した毒ポーションをぶちまける。
深瀬さんも分身を解除し、同じく毒ポーションをばらまいた。
防御特化&毒パーティの始まりだ。
「じゃあ予定通り、HPが半分切るまではこの調子で。本番は後半だから、あんまり集中しすぎないでのんびりやろう」
「毒みがまも大作戦!」
深瀬さんの発言はよく分からなかったけど、僕らはちまちまと、ひたすら毒を盛って盛って盛りまくった。
盛り上がりに欠ける展開であったが、そもそも勉強だって地道な努力の積み重ねだ。
そうして一時間半――
「深瀬さん、休憩する?」
「ええ。お願いできる?」
【スカイダイブ】回避直後、彼女が一旦ログアウトした。
丸い玉となり待機状態になった彼女を抱え、僕はせっせと逃げ回る。
これが僕らの尊厳を守る策――交代でトイレ休憩タイム、である。
次のスカイダイブが放たれるまでの十分間なら、一人でも対応できるのだ。
「さすが蒼井君ね。防御をかっちり固めれば、トイレ休憩も余裕で挟める……逆転の発想ね。トイレは我慢するものではなく、遠慮なく放つもの……!」
「ごめん深瀬さん、その発言、女の子に言われるとちょっと」
人の尊厳と膀胱炎は防げそうだけど、恥ずかしい気持ちになるのは避けられなかった。
そうして僕らは交代で休憩し、やがて――
敵のHPが、50%を下回った。
グリフォンが地上に降り立ち、体当たりのために姿勢を屈める。
「ここからは、休憩なしです。頑張っていきましょう」
「ええ!」
深瀬さんのかけ声とともに、第二ラウンドが始まった。
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