”友達クエスト”の少数派 ―フレンド数=強さのVRMMOで芋ぼっち美少女の世話をしたら「と、友達なんかじゃないもん……」とデレてきたので一緒に攻略しようと誘ってみた―
4-2 か、可愛い猫がいるだけですよ!?
4-2 か、可愛い猫がいるだけですよ!?
本ゲーム”友達クエスト”には三つの操作方法がある。
専用ヘッドセットを用いた半没入システム。キーボードを用いたFPS操作。スマホを用いた簡易操作の三つだ。
そしてヘッドセット使用時、プレイヤー自身は”友達クエスト”内のメタバース空間にてプレイするのだけど――その間でも、接続したパソコン画面には僕の視野とほぼ同じフィールドが表示されている。
つまり、横からのぞき見ることが可能だ。
「だから蒼井君のプレイを観察すれば、相手に気付かれることはない。いい作戦でしょ?」
という訳で僕は当然のように、深瀬家に誘われた。
彼女の根城であるパソコンチェアに座らされ、ヘッドセットを進められる。
まあ……作戦自体は良いと思う。
他人のプレイ画面を覗いて、相手に知られることなく情報収集する目的は果たせるだろう。
ただ、本人が意識してるかはさておき、別の問題が。
(――深瀬さんとの距離が、リアルに近い)
今までも接触はあったが、あくまでゲーム内の出来事か、室内でのアクシデントだ。
しかし今日は彼女が横からモニターをダイレクトに覗き込む姿勢になってるせいで、僕の肘のあたりに彼女の柔らかなものがさりげなく押しつけられるように触れている。
間違いなく無意識だろうけど、わりと凹凸のはっきしりた感触を完全に無視できるかと言えば、嘘になる。
なんか、いい香りもするし……。
邪な気持ちを悟られないよう、ゲームを起動しヘッドセットをつけてログイン。
ゲームと感覚を同期し、自分が広大なフィールドに降り立っている――けど、相変わらず左肘にはふにょっとした柔らかさがあって、どうも、動作が――
「蒼井君。なんか挙動が不自然だけど」
「すみません、人様の家でのプレイには慣れてなくて」
「気にしなくていいわよ。……まあ、みんなの街なんて言っても、あたしの拠点の二階建てバリケード付きには勝てないわよね」
彼女はなぜかクラスメイトにマウントを取ろうと奮起していた。僕の気も知らずに。
そうして訪れたクラスメイトの拠点は――“街”と呼ぶに相応しい建造物の集大成だった。
きれいに舗装された街道を中心に、左右に様々なお店が並んでいる。
武器防具や消耗品を陳列したショップはもちろん、釣り具屋や電気屋(?)、さらに誰かの趣味なのかスポーツ用品まで売られている。
ゲーム的なオブジェクトに深い意味はないが、大変に華やかだ。
ほえー、とつい感心して見上げてしまう。
上京したばかりの田舎者はこんな顔になるのかもしれない。
「……な、なかなかやるじゃない……今日は、ひ、引き分けってところね。これで勝ったと思わないことね」
隣を見ると、むすぅ、という擬音が似合いそうな膨れ面した深瀬さん。
と、そこにログインした藤木さんが走ってきた。
「どう、蒼井くん! すごいでしょー。まーうちの男子が張り切ってるだけだけど」
「すごい。よく素材集めたね」
「”素材フレンドボーナス”があるからねぇ。フレ登録した人が素材集めると、あたし達にもボーナスで素材が勝手に入ってくるから結構たくさんだよ?」
ちなみに、フレンド素材ボーナスは結構な量が貰えるらしい。仮に友クエを殆どプレイしていなくても、リアルの友人が十人協力してくれれば授業上の問題はほぼ発生しないという。
「……ずっるぅ……そりゃあゲームって複数人の方が強いけど、露骨すぎない……?」
「ん? いま何か聞こえたような――」
「ゲームの効果音じゃないですか?」
「そうなの? そうだ、装備買ってく?」
藤木さんに案内してもらう。
『太陽吉村』と書かれたその武器屋は、看板に爽やかな青空と太陽が描かれ、その下で爽やかな青年が剣を持っている絵が描かれている。
見た目からして爽やかそうだ、と思っていると、リアルで肩を引かれ耳打ちされた。
「そこは嫌。陽キャの気配がするわ……きっとサッカー部ね。暑苦しい戦士系装備は不要よ」
「わ、分かった、分かったから揺らさないで……」
彼女のせいで、色々なものに挟まれながら揺れる僕。
「どうしたの蒼井君!? さっきから揺れてるけど」
「ああ大丈夫です、ちょっと猫が……それより、魔法使い向けの装備はないかな藤木さん」
「魔法使い? 蒼井君、僧侶だけど……んー、あっちにあるよ?」
「人気のないお店がいいわ。裏路地にあるいつ潰れてもおかしくなさそうな場末の喫茶店で、不味いコーヒーしか出さないけどどこか居心地よくて『ああ、この小さな空間だけが自分の居場所なんだ』って静かに文庫本を開けるようなお店よ」
「深瀬さんそれ魔法使い関係ないですよね? あ、あと耳元で囁かれるとくすぐったいので控えて貰えると」
「蒼井君どうしたのー? てゆーか何で魔法使い? あ、そっか! 例の彼女にプレゼント! もうっ、蒼井君ったら隅に置けな――」
「誰が彼女よーっ!」
深瀬さんが怒った。音声が室内に反響し、ばっちりヘッドセットに吸い込まれた。
ゲーム内の藤木さんも飛び上がった。
「今の声なに!? 誰かいるの蒼井君?」
「すみません、今日自宅に猫がいて、先程から柔らかいものを押しつけてきてて困ってて」
「猫はフツー喋らないよ?」
「うちのネザーランドドワーフ賢いんですよ。ハムスターみたいな顔して、攻撃的なんですけど可愛くて」
「蒼井君ネザーランドドワーフっててウサギの種類だよね!?」
「ねえ蒼井君。あの女子と仲がいいの? ふーん………………ていうか、あの子には完全にため口なんだ……」
なんか会話がごちゃごちゃしてきた。
そして何故か唇を尖らせて黙り込む深瀬さん。
どこに地雷があったか分からないけど、藤木さんの明るすぎる態度が苦手なのかも知れない。とりあえず僕は謝罪をする。
「なんか、すみません」
「べつに怒ってないけど。べつに」
「まあその、藤木さんはお調子者に見えますけど、すごく気遣いもできる人です。深瀬さんの嫌う、無遠慮な人とはだいぶタイプが違うので安心して下さい」
「だから安心できないんだけど……っていうか蒼井君、あたしにも完全ため口で、別にいいわよ?」
それから僕はゲーム内で藤木さんに案内されつつ、リアルで深瀬さんに二の腕をつねられるという謎の二正面作戦にぶつかってしまう。
結局、深瀬さんが何に悪態をついたのかはよく分からなかった。
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