4-1 あたしにいい考えがあるわ(2)
「湖底神殿!!! すごいっ」
四人迷宮を攻略した翌日、僕は後回しにしていた湖底神殿の情報をサーバーに記載した。
次の日登校したら、早速藤木さんにつつかれた。
が、その後有志が検証を行ったものの【湖底神殿】は発見されなかった。
そもそもクジラ(?)を釣りでヒットさせることが難題らしい。深瀬さんは業運の持ち主だったようだ。
「そういえばさ蒼井君、あたし達一緒に町作ったんだけど、まだ来てないよね? いまね、クラスのみんなで作業分担してやっててね?」
続く藤木さんの話によると、うちのクラスは大部分が合流し、役割分担をしながら進めているらしい。
素材を集める人。マップを探索する人。アイテムをクラフトする人。洞窟を攻略する人等など様々だ。
話を聞きつけた吉村君も、ひょっこりと顔を出す。
「アイテム集めも分けてやった方が効率よくてさ。ま、役割分担で微妙な空気になる時もあるけど……そういう時、蒼井が入ってくれると助かるんだけどなー」
「蒼井君いまどこでプレイしてるの?」
「みんなとは森を挟んだ反対側に拠点作っちゃったんだよね。だから合流しづらくて」
「そうなの? 前に話してた子と一緒? 仲良くなった? この前は不法侵入な関係って言ってたけど合法になった?」
ニコニコ聞いてくる藤木さん。
その顔には私興味津々、蒼井君の彼女に興味ありますっ、って書いてある。
彼女じゃないけど――
「まあ、仲良し、くらいには……たぶん」
「仲良し! ビミョーんなニュアンス!」
びみょーん、と可愛らしく口にする藤木さん。
「ねね、今度その子と一緒に攻略しよって誘ってもいい? そだ、クラスの街においでよ! お似合いの装備品とかあるかも!」
「じゃあ顔出しに行くし、本人にも聞いてみるよ」
これまでは深瀬さんとの二人プレイをメインに行っていたけど、クラスメイトの街に顔を出すのも悪くない。
教室上の人付き合いもあるし、ゲームのキャラクターを強化したい目的もある。
クラスメイトの街って、どんな感じだろう――と、すこし期待に胸を膨らませた。
*
「という訳で、向こうにできた町を見てこようと思うんですが。深瀬さん、良かったら一緒に――」
ひゅっ、と深瀬さんの姿が消えた。足下に玉が転がる。
ログアウトしてしまった。
まだ話の途中なんだけど……。
まあ自宅にバリケード展開して迎撃してる子が、誰かと遊びに行くはずないよね……。
「深瀬さん。深瀬さーん」
再ログインする気配がなかったので、僕もログアウトし、ベランダを乗り越えて窓ガラスをノックする。
深瀬さんがカーテンの隙間から覗き、じーっ、と黒縁眼鏡の奥から恨みがましく睨んでいた。
「知ってる? 吸血鬼って太陽の光を浴びると灰になるの。つまり、あたしは人前に出ると塵になるの……」
「すみません。無理には誘うつもりはないので」
「あたしみたいな魔女が街に行ったら魔女狩りされるに決まってるわ」
「そんな酷いことはないと思うけど……まあ一応、伝えたかっただけですので。じゃあ僕、今日はクラスの方に顔出してきますね」
もちろん強要する気はない。
僕自身、そもそも人付きあいを強要する、という発想自体が好きじゃないし。
ということでベランダから戻ろうとしたら、彼女が「ねえ」と、ベランダを開けて顔を覗かせてきた。
「……あの、さ」
「はい」
「……あの。……街って、やっぱり、大きいの?」
「みんなでプレイしてるので、この辺では一番大きな施設だと思いますよ」
実際、攻略情報サーバーでは様々な情報が飛び交っているし、アイテムの売買も盛んだ。
僕が眺めているだけでも知らないアイテムが結構ある。
……と教えると、彼女はゲーマーの血が騒いだのか、そわそわと身体を揺らして。
「その。……ひ、人と話はしたくないけど、街そのものは見て見たいわ。参考に。参考程度にね」
「なるほど」
「爆撃用ドローンとかないかしら……ストリートビューがあればいいのに、Go○gle先生も気が利かないわね」
何を爆撃する気だろう。
あとさすがのG○ogle先生でもゲームサーバー内マップまでビューするのは大変だろう。
「とにかく、あたしが一方的に相手を監視できて、かつ相手に気付かれない、一方的に有利になれる状況なら見てもいいわ。……そういえば蒼井君、クラス委員長なんでしょう? 委員長権限で平服させられたり……」
この子はクラス委員長を何だと思っているんだろう……。
と吹き出してしまいそうになるが、悪巧みに関しては彼女に一日の長があった。
「そうだわ、閃いた」
ぽん、と手を叩いて深瀬さんがにんまり笑った。
「あたしにいい考えがあるわ」
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