”友達クエスト”の少数派 ―フレンド数=強さのVRMMOで芋ぼっち美少女の世話をしたら「と、友達なんかじゃないもん……」とデレてきたので一緒に攻略しようと誘ってみた―
3-8 やればできるんだからね!……みんなのお陰だけど
3-8 やればできるんだからね!……みんなのお陰だけど
集中力を研ぎ澄ませ、ライフルを構えるように狙いを定める深瀬さん。
その集中を妨げないよう防御魔法を展開し、ガーゴイルの口から降り注ぐビームを塞ぐ。
ガーゴイルは首長の巨体になったせいか、動きが些か鈍重になっていた。
翼があるのに飛び回れず、どしんどしん、と石の足でにぶく動くのみ。
そして深瀬さんは、鈍い相手に狙いを定められないほど弱くない。
「……ここ!」
狩人のように、炎を放った。
すかさず僕も飛び出し、御両親と一緒に攻撃へと転じつつ頭上を見る。
ガーゴイルの顔に炎が迫る。
誰がどう見ても当たる。直撃間違いなし、と僕らは確信し――
ガーゴイルの首が、ぐにょん、とたわんだ。
石のくせに、ろくろ首が曲がるように、ぐにゃりとゴムがたわむみたいに首がしなり背中側に反らしたのだ。
「ええええ!? ちょ、せこい! あいつゴム人間か何かなの!?」
「何がなんでもあそこだけは守るっていう意思を感じるなぁ」
敵のAIがやたら賢い、というか、ずるい。
四カ所のうち一個だけでも攻撃を避けきれば勝ちだよね? という底意地の悪さを感じる。
「ていうかこれ、友達同士で戦ったらリアルファイトになるんじゃないの……? お前早くあれやっつけろよ、何やってんだよって怒られそうじゃないアレ……」
「それも含めて、友達の絆を試してるんでしょうか」
「確実に苛められる奴だわ、これ……バレーボールの六人コートで一人だけ下手な人が入って、敵がそこにばっかりサーブ打ってきて全然拾えなくて『お前マジでさぁ』ってムカつかれてああ自分ダメなんだごめんなさい、ってなるアレよ……」
あああ、と震える深瀬さん。まあ気持ちは分かる。
僕だって野球で逆転満塁のチャンスを背負ったバッターボックスには立ちたくない。
人は期待を背負うと、失敗が怖くなる。友達関係だってそうだ。
僕自身、上手くいかなかったらどうしよう、みんなにどう思われるんだろう、って考えるときもある。
けど……そういう時に大事なのは、一人で背負わないことだ。
「じゃあ、他の方法考えてみましょうか」
「他って……?」
「ここで無責任にがんばれ、って言ってもプレッシャーだと思いますし。野球で一人すごく下手な人がいたなら、一緒に練習すればいいでしょう?」
「あたしスポーツと名の付くもの一切したくないけど……」
「だったらスポーツの分野以外で協力しましょう。野球に必要なのは、選手だけじゃないですよね。監督やマネージャー、掃除係や応援団だって必要でしょう? それに、こういう時のために、深瀬さんが沢山アイテム集めてくれてましたし。……お借りしてもいいですか?」
幸い敵ボスから距離を取れば、レーザーの狙いは甘い。余裕をもってアイテム確認を行える。
深瀬さんの御両親も戻ってきたところで、僕らは再度アイテムチェックを行う。
「攻撃アイテムに、回復、一時的なステータスアップに……これは?」
「リモコン爆弾……みたいなものね。壁とか地面にくっつけて、こっちの合図で爆発させるの。同時撃破が必要な迷宮だから、タイミングを合わせるのに役立つかも、って」
そのとき僕の脳裏に、ある計画が閃いた。
うん。これなら行けるかも。
「深瀬さん。僕達がまず先に、これを敵に設置します。対応する色に置いておけばいつでもダメージを与えられますので、深瀬さんの攻撃タイミングが自由になります」
「けどあの、ぐにょーんって曲がる頭を狙える気がしないわ……」
「遠距離ではまず難しいと思います。けど、至近距離なら手があるかなと」
僕はひそひそと、深瀬さん一家に作戦を耳打ちした。
手品はタネさえ分かれば、対策ができるもの。
「そんなこと出来るの?」
「まあ外しても、僕が回復魔法を使ってまた立て直せばいいだけですので」
「ひなた、何事もやってみてのお楽しみよ。ね?」
「……ぅ。ま、まあ、やってみるわ」
深瀬母様がぽんぽんと彼女の背中を叩き、そうして僕らの作戦が始まった。
手順はシンプル。
まず深瀬さんを除く全員で、敵の宝石に対応するリモコン爆弾を設置する。
念のためひとつ起爆し、ダメージが入ることを確認。
「準備完了。じゃあ、いきましょう」
それから全員で集合し、敵のビーム攻撃に対して防御魔法を展開。
ガーゴイルの口から放たれる白ビームは、あまり威力がなく狙いも雑なので大したことはない。
その展開の遅さに、敵が焦れたのか。
ガーゴイルがこちらに狙いを定め、鈍重になった足をこちらに踏み出した。
口を開いてビーム射出モーションに入り――よし。いいタイミング!
「今です! お願いします! プロテクション!」
号令をかけつつ、僕は全力で皆に防御魔法を展開。
直後、深瀬さんのお父さんが杖を構え、すかさずファイアボールを放つ――
深瀬さん&御母様の、足下へ。
出現した爆炎が二人の足下にヒットし、爆発エフェクトが発生。
爆風の反動により――空中に飛ばされる、深瀬母様と深瀬さん。
味方への攻撃でキャラクターが吹っ飛んでいく様は、深瀬さんが”四人迷宮”初攻略時に自爆したとき確認済みだ。
あのときは盛大に壁に激突したけど、反動を使えば空中戦だってできるはず。
「わわ、わわわっ!?」
「楽しいわねこれ、ジェットコースターみたい!」
御母様がきゃっきゃと笑いながら、さらに飛んだ深瀬さんの背中めがけてファイアボールを放つ。
今度は、直撃。
HPゲージが火花を散らし、深瀬さんがあわあわしながら、より空高く放り投げられていく――首長ガーゴイルの頭上へ。
「っ、ちょ、これバランス! バランス無理無理!」
「深瀬さん、今です!」
「ぐぬぬっ、こ、根性~っ!」
空中でばたばた泳ぎつつ、根性で杖を構える深瀬さん。
その姿を目の当たりにしたガーゴイルは、またも意地悪く首をたわませ、炎を避けようとして――
「深瀬さん、スニーク!」
「っ! スニークファイア!」
深瀬さんの魔法が発動した。
スニークファイア。かつて僕の顔を燃やした攻撃魔法。
その効果は、最も近くの対象一体へと自動追尾する、必中の魔法――
現われた炎がぐりんと蛇の尾を回しながら、敵の額へと迫る。
着弾。
爆発とともにボスの身体がぐらつき、ついに――煙を上げて、動きを止める。
両爪の宝石が光を失い、ぶぅん……と、重い音とともに機能を停止。
魔法核を失った影響か、首と胴体のバランスが保てなくなり――ガーゴイルの巨体がぐらつき、後方へと崩れていく。
「やった! あ、わっ」
「おっと」
そして落ちてきた深瀬さんを、僕が飛び込んでキャッチ。
図らずもお姫様抱っこみたいな格好になり、僕の両腕に軽い衝撃がかかるものの、彼女をぶじ捕まえることに成功した。
「やりましたね、深瀬さん。さすがです」
安堵しながら、彼女に笑いかける。
……やっぱりこの子、やる時はやるなぁと思う。
深瀬さんはよく自己否定するけど、僕から見たら彼女は勇敢で頼もしくて、得意分野だととっさの判断力も行動力も高い。
と、ニコニコ見下ろしていると、彼女は今になって青ざめ始めた。
「深瀬さん?」
「……こ、ここ、怖かったぁ……! なんか、ゲームなのにリアルな浮遊感すごかったんだけど!? え、この半没入システムどうなってんの!? てか本当に空飛んだみたいな感じになって、す、すっごい怖かったんだけど!」
今になって緊張がぶり返したのか、はぁはぁと息をつく深瀬さん。
確かにこの半システム、没入感があるよなぁと思いつつ、彼女をお姫様抱っこから解放。
そのまま、まだ震えている彼女の手をそっと掴む。
ゲーム越しなので体温を直接感じる訳ではないけれど、それでも、人は手を握られると安心する。
手を添えて励ましつつ、ほんとに凄かったです、と素直に賞賛した。
「すごかったですよ、深瀬さん」
「……ほ、ホント?」
「ええ。お陰でボスを倒すことができました。深瀬さん、やれば出来る人ですよ。思ってるほど弱くないですって」
「そう? で、でも、マ……お母さんやお父さんや、蒼井君の協力があったから、できただけで」
「みんな、というのは深瀬さんも入ってるじゃないですか。それに最後の一撃こそ、深瀬さんの実力ですよ」
「うぅ……」
事実を語ると、深瀬さんはまだ恥ずかしそうに後ろ髪を搔いた。
照れを隠すようにそっぽを向き、目を閉じてぷいっとしてしまうけれど、うっすら赤味を増した頬はゲームであっても隠しようがない程にはっきりだ。
で、深瀬さんは誤魔化すように、ふん、と鼻を鳴らして。
「ま、まあととと、当然でしょ? あたしが本気出せば、今の十倍くらいはすごいんだから……!」
成程これがツンデレという概念か、と、僕はいたく感心しつつ、深瀬さんはそのまま御両親にからかわれるよう笑われていたのだった。
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