3-3 あたしが三倍いるなら戦力も三倍ね!


 四人迷宮はとてもシンプルな、石造りの一本道だった。

 通路はひたすらまっすぐ続き、迷いようがない。

 しかも僕達には、心強い味方が三人もいる。


「深瀬さんが三人いると、安心感があるりますね」

「戦力三倍だもの。き、今日くらい、頼ってもいいんだからね……?」


 お言葉に甘えよう。

 分身が役に立つと、彼女も嬉しいだろうし。


 そうして進むと――早速”四人迷宮”らしい仕掛けが出迎えた。


 通路の左右に二つずつ配置されたスイッチだ。押すと、すぐに戻ってしまう。

 四人でタイミング良く押せ、という意図だろう。


「このスイッチ、全部同時に押さなきゃいけないみたいですね」

「小手調べね」

「じゃあ僕が右端を押しますので、深瀬さんが左二つ、右をひとつお願いしてもいいですか?」

「分かったわ。じゃあこっち――」


 と、深瀬さん×3人が、揃って左の壁に手をついた。


 ???


「深瀬さん。右のスイッチを一人押して貰えると……」

「……ち、ちょっと待ってね? ええと、こ、こう? あれ?」


 くるん、と全員で右を向く深瀬さん×3。

 あれ? あれ?

 と迷子みたいに、ふらふらし始める。


 ……よく考えたら(現実の)深瀬さんは一人しかいないし、ヘッドセットも一つしかない。

 どうやって三人ぶん動かしているんだろう?

 ここまでは一直線だから、問題なかったけど。


 と、眺めていると、深瀬さん(A)が、空中でカタカタ指先を動かし始めた。

 キーボードを打ち込む動作の後――深瀬さん(B)が回れ右をし、反対の壁に手をついた。


 ちなみに”友達クエスト”はVRヘッドセットでの操作以外にも、FPSゲームのようにキーボード操作にも対応しているし、スマホでも一応操作可能だ。


 って、もしや……これは……

 ヘッドセットで深瀬さん(A)を動かしながら、キーボードで深瀬さん(B)を操作してるのでは?

 と思ったら深瀬さん(C)が、カクカクと不自然に移動し、壁に激突した。


「深瀬さん? もしかしてヘッドセットしながらキーボード操作しつつスマホ使ってません?」

「ももも、問題ないわ。ちょっと足の指がつりそうなだけよ」

「問題しかないんですけど!?」

「手が足りないのはイマジネーションでなんとかするもん!」

「空想で人間の手足は増えませんよ!?」


 そこに、迷宮を切り裂く金切り声が響き渡った。


 通路の奥から巨大なコウモリ――

 ジャイアントバットが、羽根をはためかせこちらに突進してくる。


 やば、と僕はすかさず棍棒を構え、ジャイアントバットの頭部へ振り下ろした。

 頭部にある赤色の宝石にヒットし、コウモリが倒れ――けど、すぐに蘇る。


「再生!?」


 再び棍棒を構える前で、迷宮の奥からさらに三匹のコウモリが出現する。

 そのいずれも頭部に赤い宝石がついていて……そうか!


「モンスターも四匹同時に……深瀬さん、攻撃魔法!」

「わ、分かったわ! ファイアボール!」


 深瀬さん×3が振り向き、炎の基本魔法、ファイアボールを放った。

 炎は狙いすましたように、一直線に飛び――

 深瀬さん(C)の炎が、深瀬さん(B)の背中に直撃する。


 そのせいで深瀬さん(B)が吹っ飛び、さらに深瀬さん(B)の放った炎魔法が深瀬さん(A)の背中にヒット。

 玉突き事故のように、本体と分身が吹っ飛び、壁に向かって顔面から激突する。


「「ふぎゃあっ!」」

「深瀬さん!? え、ちょ、大丈夫!?」

「だいじょばない……けどだいじょうぶ……」

「どっち!?」

「いまのは手元が狂っただけよ、ええと、こうやって……! あ、ちょっ、目が、目が回っ……」



【チュートリアル:フレンドリーファイア】

【味方に攻撃しないためにフレンド登録を行いま――】

「邪魔よこのチュートリアル、イマジナリーフレンドまで登録するとか嫌がらせなの!?」



 深瀬さんの身体がぐるんぐるん回転し、余計なウィンドウまで出現する。

 そこにコウモリ×3が飛びかかり、三人そろって頭をがじがじ嚙まれ始める。


「やーっ!? ちょ、いや――っ!?」

「深瀬さん!? 落ち着いて、一旦分身解除!」

「分かってるわよ、ええと、てかごめん、無理……っ」


 僕がなんとか防御魔法と回復魔法をしつつ、コウモリを追い払ったところで――

 ふっ、と彼女の姿が消失した。


 足下に、コロン、と転がる待機状態の玉。

 って、ログアウトした!?


「深瀬さん大丈夫ですか? ……もしかして、3D酔いとかしてません?」


 ……。

 声をかけるも反応なし。

 やば。どうしよう。

 もしかして目を回して倒れてたり、部屋で酔ってたりしたら?




 どうしても気になった僕は、とりあえず自キャラに防御魔法を展開。

 この状態ならログアウトしても、多少時間を稼げるはずだ。


 それから一旦ヘッドセットを外して、ログアウト。

 ベランダ伝いに隣へ忍び込み、コンコン、と窓ガラスをノックする。


「あのぉ。深瀬さん大丈夫ですか?」

「……ごめん……ちょっと、酔った、わ……」


 窓ガラス越しに覗いてみると、深瀬さんはヘッドセットを被ったままうつ伏せに倒れていた。

 いつもの青い芋ジャージに、少々ずれた眼鏡を引っかけた姿勢のまま、へろへろしている。


 ああ、まあ一応。


「大丈夫そうで安心しました」

「大丈夫じゃないんだけど……」


 自身にツッコミを入れた深瀬さんは、そのまま申し訳なさそうに項垂れてしまうのだった。






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