3-2 イマジナリーフレンドしか勝たんっ


 ひとつ気になる事があった。

 深瀬さんはどうして――”友達クエスト”を始める事になったのだろう?


*


 迎えた翌日の昼。


 “友達クエスト”は友達が必要な点を除けば、クラフト要素を組み込んだ一般的なRPGだ。

 ゲーム内には様々な職業があり、職業に対するレベルがあり、レベルが上がればスキルポイントを取得できる。そのスキルポイントを振り分け、新たな特技を習得できる仕組みだ。

 ちなみに【僧侶】を選んだ僕はごく平凡に、回復魔法や防御魔法、ステータス異常回復などに振っているけど……


「スキルの振り方は自由なの。だから中間の魔法を飛ばして、特殊な魔法を覚えることも出来るのよ」


 と、両手を広げた彼女は、僕にとっておきの魔法をお披露目した。


「分身魔法、ドッペルゲンガー!」


 詠唱ののち、彼女の影が地面より立ち上がるように伸びて――

 なんと僕の前で影が揺らいで実体化し、深瀬さんそっくりな二体の分身を出現させた。


「おお、すごい!」

「イマジナリーフレンドも、ぼっちにとってはリアルフレンド判定ね。開発者の慧眼に今だけは感謝したいわ」

「その台詞は残念な気もするけど、本当にすごいです。でも消費MPとか大丈夫ですか? 大技みたいですけど」

「……それなんだけど、なんでか消費MPゼロなのよ、この魔法」

「へ?」

「きっと友達居ない子専用の魔法ね!」


 その魔法”友達クエスト”の理念を破壊してません?

 或いはバグ魔法ではと思うけど黙っておこう。便利そうだし。




 それから僕らは”四人迷宮”へと向かった。

 平原フィールドにぽっかりと立てられた洞窟。扉には封印が施され、入口に十字架のマークが刻まれている。

 洞窟の手前には、人が乗ると起動する石のスイッチが四つ並んでいる。


 深瀬さんが分身して三人ぶん乗ると、入口がきしみをあげて開いた。

 感心する僕の隣で、深瀬さんがアイテムウィンドウを開いてみせる。

 中身はぎっしり詰まった、回復や攻撃用アイテムだ。


「あなたが居ない間に、アイテムも沢山集めておいたから……足りない戦力は、これを使ってしのぎましょう」

「え、いいの? こんなに使って」


 なんか逆に申し訳なさすら覚えるけど――と遠慮すると、彼女が黙ってしまった。


「…………」

「どうしたの?」

「いえ……その……あなたが学校に行ってる間に、こ、こんなにアイテム集めてるの、き、気持ち悪い、とか言われないかなって……」


 いきなり弱気になる深瀬さん。


 ……ああ。気持ちはわかる。

 僕もすこし覚えがあるけど、オタク魂を発揮して喋りすぎ、あとになって自分の行いを悔いてしまうあの感覚かもしれない。


 けど、僕としては全く心配しなくていい。


「僕、ぜんぜん気にしませんけど……むしろ沢山アイテム集めてくれて申し訳ないかなと」

「でも、分身魔法でいい気になってたけど、そもそもこのゲーム、普通は友達とクリアするものでしょう? 蒼井君なら、学校に友達もいるでしょうし」

「そうですけど、まあクリアすれば問題ないんじゃないでしょうか?」

「……で、でも”友達クエスト”よね? これ」

「うーん。カンニングさえしなければ、友達と一緒に勉強しても、一人で勉強しても、テストで90点取ったっていう結果は変わらないと思いますよ」


 確かに僕らの行いは”友達クエスト”の理念には反するだろう。

 けど、それも一つの手段だ。


 僕の理念としては、最終アウトプットが良ければ全て良し、だ。

 だから友達がいない、というハンデ――それ自体を、ハンデ、と呼ぶことに些か違和感を覚えるけれど――クリア出来て僕らが楽しければ、別にいいのではと思う。


「効率は落ちるかもしれませんけど、でもクリアできるなら、いいんじゃないでしょうか。仕事だって一人でやる仕事もあれば、みんなでやる仕事もありますし」

「まあ……」

「それに、今日のために頑張ってアイテムを集めてくれた深瀬さんに、気持ち悪いって言うのはすごく失礼なことだと思いません? そういうこと言う人いたら、僕逆に文句言いますよ」

「ぅ……」

「あと四人で攻略できるところを二人で攻略するのって、わくわくしません?」

「そ、そう、ね……」


 実は僕も結構なゲーマーなんですよと笑うと、彼女はその長い髪をさらりとかいて顔を逸らした。

 わざとらしく眼鏡を直す仕草を挟み、身体を不安定に揺らし、困っているのか戸惑っているか、あるいは恥ずかさも混じっているように、ん、んーと返事に詰まっていた。


「あなた、その。……都合のいい人、ってクラスで言われない?」

「面倒見がいいとは言われます。擬態が上手なだけですけど」

「はい?」

「とにかく頑張って進みましょうか」


 四人迷宮を二人で進む。彼女と一緒なら、出来るかも知れない。

 期待しながら、僕らは迷宮へと足を踏み入れていった。

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