3-1 あたしにいい考えがあるわ(1)
「なあ蒼井ー、久しぶりにカラオケ行かね? メンバー集めてくれよー」
友クエ配信から一週間が過ぎた頃、クラスメイトの吉村君に声をかけられた。
政府公式ゲームという新課題にはまだ慣れないけど、高校生である僕らには他にもやることがある。
「了解。じゃあ声かけてみるよ」
「頼むぜ。そうそう、藤木も呼んでくれーって西岡が言ってたぜ」
西岡君はサッカー部の男子で、藤木さんに気がある。けど藤木さんがまったく気付いてくれないので、僕に時々声がかかる。
という訳で放課後、十人程のクラスメイトと共にカラオケを訪れていた。
藤木さんが「はいはーい!」と初手ラブソングを歌い、続けて僕が定番のボカロ曲に手をつける。委員長コンビだ。
まあ僕は流行の歌は興味がない――本当はカラオケ自体に興味がないのだけど、場を盛り下げる必要もない。
マイクを吉村君に譲りつつ、さりげなくトイレに出るふりをして西岡君と席を交代。彼が藤木さんの傍になるよう誘導しつつ、お手洗いから戻ってメンバーを見渡す。
手が空いてそうな人は……と、ソファの端にちょこんと座ってスマホを弄る女子に気付く。
「珍しいね。獅子王さんがカラオケに来るなんて」
「藤木に誘われたの」
面白くなさそうにスマホを弄るのは藤木さんの連れ、獅子王ミコさん。
一度聞いたら忘れない名字に反して物静かな女子だけど――実は気が強く、クラスでは恐れられている方だ。
まあ彼女は他人と積極的に絡むタイプではないけど、一声かけておこう。
「獅子王さんは、友クエは進めてる? どの辺まで行ったのかな」
「……私ゲーム好きじゃないから、適当な設定にして服作りさせてるわ。赤点取らなきゃいいだけよ」
「へえ。あ、そういえば獅子王さん、絵を描くのが上手だったよね。友クエ、画像データをゲーム内に読み込めるから、自作イラストを販売したり装備品につけたら売れたりしないかな」
そうなの? と興味を持った彼女に、西村君から「つぎ獅子王!」とマイクを差し出された。
僕はさりげなく間に入り「歌う?」と彼女に声をかけ、ふるりと首を振ったのを見て一曲僕が代わりにマイクを取った。
獅子王さんが困ったように頬を掻いた。
「蒼井くん、面倒見がいいとは聞くけど、そういうの疲れない?」
「んー。まあ宇宙人の礼儀みたいなものだし。慣れれば大丈夫だよ」
「宇宙人?」
「みんなと感覚を合わせておかないと、色々困るって意味かなぁ」
雑談してる僕らの元に、藤木さんがタックル気味に「ねえねえ!」と飛び込んできた。
西村君、残念。
「蒼井君、友クエ進めた? 先生がね、そろそろ課題出すぞぉ~って言ってたよ?」
「へえ。どんなやつ?」
「んと、聞いた話だと”四人迷宮”? 四人じゃなきゃ絶対クリアできない迷宮だって! それでチュートリアル完了だってさ。てか蒼井くん今どこでプレイしてるの? うちのクラスの街に来なよ! 蒼井君いると嬉しい子もいると思うし」
「あー……実はいま先生に別件で頼まれ事してて、別の子とプレイしてるんだよ」
「別の子!!! うちのクラスの子? 他の学校? ……もしかして彼女!?」
藤木さんの大声に、ぴくっ、と聡いクラスメイト達が耳を立てたのを感じた。
うーん、どう説明するか。隠し立てし過ぎるのも怪しまれる。というより、そもそも彼女と僕の関係性は……
「まあ、不法侵入な関係かな」
「ぷっは! 何それ!」
「いやらしい関係なの……?」
藤木さんが吹き出し、獅子王さんが頬を引きつらせる。獅子王さんこんな顔するんだ。
いや違うんです。けどまあ、ウケたなら良いかな……?
「蒼井君、その子紹介してよ。ね?」
「了解。本人に聞いてみるよ」
*
カラオケ帰りに、考えた。
――四人迷宮。
深瀬さんに、どう話を持ちかけよう?
必ず四人で攻略しなきゃいけないらしいので、僕の友達に声をかけてもいいですか……?
というのは、クリアのために人間関係を強要しているようで気が引ける。
”友達クエスト”は友達を作るゲームではあるし、藤木さん達は悪い子ではないので、仲良くできるとは思うけど。
まあ、まずは何事も相談かな、と今日のログインをすると――
自宅前で、鋼鉄の大剣を背負った深瀬さんが地面に突っ伏していた。
なんか潰れたカエルみたいな格好してますけど!?
【警告:装備品重量オーバー 装備を外してください】
懲りないなぁ、この子……
「大丈夫ですか?」
「なんでもないわ。ちょっと地面に突っ伏して、大いなる大地と愛の抱擁を交わしていただけだもの」
「その愛は絶対に届かないと思いますけど……」
彼女の装備品を引っぺがして収納すると、ぷはっ、と深瀬さんが身体を起こした。
ぜーぜーと汗だくになり荒く息をついている。
「どうして魔法使いなのに大剣の作成を?」
「次の攻略先を見つけたの。……けど、あたし達どっちも後衛だから、すこしくらい前衛武器を使えないと、と思ったのよ。けどあたしみたいな超天才頭脳派が、脳筋体育会系共の武器を使おうと思ったのがそもそもの間違いだったわ」
「へえ、次の迷宮を発見されたんですか?」
頭脳派の定義が気になりつつ話を促すと、彼女がにやっと笑った。
それはもう自信に満ちた笑みであった。
「四人迷宮――そこが次の課題だって、あたしの元にも連絡が来たわ。……話に聞くと、四人で攻略しなきゃいけないらしいの。けど、あたしの創意工夫があればきっとクリアできると思うのよ。でしょ?」
「その迷宮、四人揃わないと入口が開かないらしいですよ」
「詰んだわ!」
完。
早かったなぁ……と思う僕であったが、しかし彼女は諦めていなかった。
どうしても人と関わりたくないらしい彼女は、じっと一点を見つめるように空を睨み付けた後、自分の魔法一覧を眺めて「あ」と呟いた。
「蒼井君。あたしにいい考えがあるわ」
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