第11話

 事件から日が経てば、何事もなかったような日常が流れる。警察署では、日々、大なり小なりの事件に忙しくしていた。


 蓮宮はすみやが担当する、オカルト雑誌の表紙には『摩天楼の狼男』の文字と、狼男のイラストが描かれている。もちろん、須藤すとうは真っ先にこれを購入したことは言うまでもない。


 狼男の岩田は、新たな上司の元で、営業の仕事を続けていた。会社は、冴島さえじまの行き過ぎた指導を認知し、社会保険労務士の指導により、就業規則の変更と、社員へのコンプライアンス教育を実施した。これにより、劇的に職場環境は良くなったと、岩田は蓮宮に話した。


 大神おおがみ村の人々に引き取られた五匹の犬は、繋がれることもなく、首輪もゲージも使わず、野を駆け回る自由を得た。その動画を岩田は笑みを浮かべながら見ている。

「見てくださいよ。こんなに喜んでいる」

 隣には蓮宮がいて、スマホの画面を見せた。二人はいつものようにビルの屋上で、夜風に吹かれていた。

「ほんと、良かったわね」

 動画には、市役所の男性職員の沢田と、蓮宮たちのあとをつけ回っていた男の川田も映っていた。彼らも、岩田の同胞だった。


 大神村に暮らす人々には、住民票はなく、誰にも知られずにひっそりと生活しているが、岩田たちのように村を出て、町や都会で暮らす者もいる。そのため、沢田のように、役所で彼らの戸籍を作る者が必要なのだという。



 『摩天楼の狼男』その特集の内容には、岩田たちの個人的な情報は書かれてはいない。

 最後のページには、あまり認知されない、マイノリティの人たちがいても、彼らの存在を否定したり、生きる場を奪う事など、あってはならないと締めていた。



 蓮宮は、新たな都市伝説『麗しのフランケンシュタイン』について取材を始めていた。

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摩天楼の狼男 白兎 @hakuto-i

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