第6話

 女の話しによると、冴島が殺された日、「チロちゃん」(犬の名前)は、血だらけになって外から帰って来たという。普段、室内にいるはずのチロちゃんに何があったのか、すぐに動物病院へ連れて行くと、出血は前足の爪からだけで、身体に着いていた血はチロちゃんのではなかった。獣医は通報すると言ったが、女は強く拒んだ。結局、女が帰った後、獣医が通報していたことは後で確認できた。


 女からチロを預かり、調べた結果、やはり、遺体に残された爪がチロのものであることが確定した。

「だが、あんな小さな犬では人は殺せない。他の犬種で分かっているのは、柴犬と秋田犬だな」

「秋田犬って、大きいですよね。人を殺した事例はありますかね?」

 須藤が言うと、

「あるわよ。性格が穏やかと言われる、ゴールデンレトリーバーでさえ、人を殺した事件があるくらいよ。何かのきっかけで、飼い犬も凶暴化することもあるわ」


 鑑識からの新たな情報で、他の犬種は土佐犬とビーグルだと分かった。


 刑事たちが次々と、犬を連れて帰って来ては、鑑識が調べている。

「これじゃ、ペットショップじゃないか」

 警察署は犬で溢れていた。関係がないと分かった犬は、すぐに飼い主のもとへと返された。

「残ったのはこいつらだけだな」

 そこには五匹の犬が残っていた。ポメラニアン、柴犬、秋田犬、土佐犬、ビーグル。

「犬には共通点はないな。飼い主も別だ。なぜ、こいつらが冴島を襲ったのか?」

 五十嵐はそう言いながら考えていた。

「犬は群れる習性があるわ。そこには順位があって、それを率いるリーダーがいる」

「そのリーダーが狼男だと?」

「野犬じゃなかったんですね」

 五十嵐と須藤は頭を悩ませていたが、蓮宮は確信したような顔をしている。


「それで、狼男はどこにいるんだね。優秀な記者さん?」

 五十嵐が蓮宮を挑発するように言ったが、

「あら、それはあなたも目星がついているんじゃないかしら? 冴島の部下の誰かよね?」

 蓮宮の洞察力も負けてはいなかった。

「狼男かどうかは別として、怪しい人物はいる」


 五十嵐が聞き込みした冴島の部下、岩田いわた定吉さだきち、二十二歳。出身は長野県佐久市。大学を卒業して上京、東海商事に入社。

「繋がったわね。狼男伝説に」

 蓮宮は不敵な笑みを浮かべた。


 長野県佐久市は、あの怪しい男性職員や、五十嵐たちのあとをつけて来た男がいるところだ。

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