第6話 最初の拠点

 つーわけで、早速アイテムボックスの中身を……そうだな、まずは色々と使えそうなナイフを出してみよう。


 ……おお、結構デケえな! これなら伐採に使えるし、武器にもなりそうだ!


 さっそくその切れ味を試しちゃれと、クロベエを連れて森に入って草やら小枝やらをバッサバッサ切ってみる。


 おーこりゃいいな。思いのほかスパスパ切れて気持ちが良いぞ。


 もしかすると俺には【斬撃】とか【剣豪】って感じのスキルがあったりジョブ欄に【勇者】って書いてあったりするのかもしれん。俺の異世界チートストーリーがここに始まってしまったな。


 いやまあ、そういうゲーム的な仕組みがある世界なのかは知らないけれどね……つーかなさそうだな……あの女神だしな……無いな。普通にナイフの切れ味がいいだけだわこれ。ステータスオープンとか叫ばなくてよかったわ……ぜってえ笑われるもん、あの女神に。


 つーかこのナイフめちゃ切れるな! 草も枝もザックザックバッサバッサ切れておもしれえわ。これ地球に持って帰れねえかな? 裏山の草刈りにめっちゃ使いてえ。


 ◆◇


「……ふう。つい夢中になって切りまくってしまった。うっかり結構な量の草やら小枝やらを入手できてしまったが、アイテムボックスのおかげで無駄にせず済んだぜ! さあて、他に良さげな素材は……」


 キョロキョロしながら少し散策してみると、大木に絡まるツルを見つけた。これこれ、こういうのが欲しかったんです。良いですよね、蔓。そのままでもロープ代わりに使えるし、クラフト面で様々な素材になるし。


 あれば何かと便利だから拾えるだけ拾っておこう。


 大木の周りをうろちょろしながら蔓を集めていると、ぶっとい枝を発見した。長さ3m程度の頑丈そうな枝だ。


 いやこれマジ助かるわ。これから作ろうと思ってたやつ、小枝だけだとちょっと無理があったからなあ。これがあれば作るのが楽になるぜ。ありがたやありがたや。パンちゃんに感謝――!


 拾った素材達にスマホの画面をコツンコツンと当てまくって一通り収納完了。クソデカ木材もにゅるんとスマホに消えていく。らくちんらくちん。丸太を武器に出来るタイプの人間じゃないからマジ助かるわ。力仕事無理ですもん。


 ◇◆


 泉に戻った我々は早速新たな作業に取り掛かった。


 まず必要なのは深さ1m程度の穴だ。ここは適役に頼もうと、クロベエに穴を掘るようにお願いする……こいつ聞こえないフリをしてやがるな。


 ほら、クロベエ、穴を掘れ! クロベー、頼むから掘れよ! クーローベーエー!


 ……暫くの間狸寝入りを続けていたけれど、根気よくしつこくお願いしていたらため息と共にのそりと立ち上がりこちらを見た。


「はぁ……あのさあ、おれ 犬じゃないんだけどなあ。ふつう 猫に 穴掘りたのまないでしょ」


 渋い顔でそんな事を言っているけど、俺は知っているんだ。こいつはトイレの時に必要以上に穴を掘ってるってな。散歩に連れてったときもそう。用を足すわけでもないのに、無駄に穴を掘って顔を突っ込んでフゴフゴしてっからな。 


 コイツは間違いなく穴掘りが嫌いではない。寧ろ大好きだ!


 ヘイクロベエ! 妙なプライドなんて捨てちまえよ! YOU! 掘っちゃいなYO!


 ヘイヘイヘーイと、クロベエの周りを踊りながら回っていると、それがウザかったのか『しかたないなあ』と穴を掘り始めてくれた。


 最初は『しかたないゆうだなあ』なんてぼやきながら掘っていたが、だんだんと楽しくなってきたのかその速度が上がっていく。


 楽しいんだろうな、尻尾をブンブンと振って、めちゃごきげんにどんどん掘り進めていく。


「うーし、クロベエもういいぞ! おい、もういいってば! こら、掘り過ぎだって! おいいい! うわ! 顔に土が! ぺっぺ! うおお! もうやめてくれええええ!」


……


「ふう……! べつに穴掘りすきじゃないからなー!」

「……はいはい、ごくろうさん」


 想定していた以上にごっつい穴を掘られたが……まあいいさ、気にせず俺の仕事を始めよう。


 穴の底を太めの枝でドシンドシンと突いて固めていく……中々しんどいが……頑張ろう。ドッシンドシン、パイルをバンカーしてやるぜ!


 ……ふう。こんくらい固まればいいかな? さあ、次だ……今度は小石をざらざらと入れて……どすん、どすん……やべ、マジでしんどい……テンション下がってきた……。


 はぁはぁ……こんだけ締固めりゃいいだろ。


 今度は森で拾ったごん太大枝を真ん中に残した穴に刺してぇ……ぜえ……クロベエ、ここちょっと抑えてて、うん、ありがと……根本を大きめの石で固定してぇ……ふう、しんどいしんどい……少し土をかけて締め固めて……またその上に土をかけてついて……締固めて……。


「うおおお! 柱の完成じゃい!」


 見てください、この地面からまっすぐ伸びる謎の木材を。へへ、これはね『柱』っていうんだぜ! ……流石にそんくらいの概念がある世界だと思いたい。

 

 父親が庭に杭を立てているのを思い出しながら、かなり適当にやってみたけど、なんとか頑丈そうな柱が立てられたわ。体力は相当持ってかれちまったが大満足。もしかして俺は柱作りの加護を貰っているのかも知れねえな! 


 ……微妙な加護だな!


 さぁて、すっかり終わった感漂ってしまったが、これで終わりじゃないんだよなあ。今度は柱に一本ずつ枝を立てかけ蔓で縛り固定していく作業が待っている……まあ、力使わねーから楽だけどさ。


 ぐるりと等間隔に柱を囲むように枝を配置して、ちまちまギュッギュとツルで縛り付けていく。萎めた傘みたいな感じにね。多少雑だけどこれで骨組みが完成だ。


 あとはそれに重ねるように、泉に生えていたアシのような植物をはめこんで隙間を埋めていく……と……これ地味に疲れるな……ふうふう……。


……


 ジャジャジャーン! ユウは【竪穴式住居っぽい何か】をクラフトした! なんつってな。


 どうだいどうだい。見た目は悪いがそれなりに雨風をしのげそうな小屋が出来たぞ! どっかの国の半裸サバイバル配信者さんサンキュー! まさかあの動画が役に立つ日が来るとは思わなかったぜ! めっちゃ疲れたけどやればできんじゃんな、俺も!


 幸いなことに暖かい季節のようだからな。こんなんでも暫くは何とかしのげるだろうさ。


 野性味あふれるこの小屋を拠点としてさっさとまともな住処をどうにかするってのが当面の目標だな。この小屋じゃあ流石に頼りなさすぎる。


 ちょっとした雨風なら凌げるだろうけど、嵐なんて来ちゃったら秒で吹き飛んじゃうだろうし、本格的に寒い時期になったら毎日震えて過ごす羽目になりそうだからなー。あくまでも『それなり』だから、隙間風ピュウピュウ雨漏りポタポタだろうし。


 まあ、アイテムボックスにコツコツ素材を溜め込みつつ、コツコツ作業を進めてけばそのうちまともな小屋も建てられるだろ……建築スキルなんて便利なもんはねえけど、誰かの建築動画でも見ながらコツコツやればきっと……うん、未来の俺頑張れ!

 

 取り敢えず面倒なことは先送りすることにして、さっそく『草の小屋』に入る。いやあ、男の子だね、俺も。こういう秘密基地的なスペースはワクワクするし、すげー安らぐぜ。


 っと、これじゃまだ真の完成とは言えねーんだった。


 スマホから大きめの石を取り出して小さな竈を作った。暖を取るためや煮炊きすんのにも勿論必要なんだけど、なんとここで火を焚いて燻すことにより、壁材に使った草木の防虫効果が多少は期待できるのだよ。当然これも動画によって得た知識だけどな!


 ファイヤースターターというチートアイテムを貰ったので火起こしには苦労しない。あの原始的な火を起こすテクニックあるだろ? あれはだめだ手が擦り剝けるだけで時間だけ経っていくんだ。弓みたいな物? あれもだめだ。慣れていない限りは火がつくのが先か、日が沈むのが先かって感じだぞ。知ってるんだから! 何回か挑んでその度に時間と手のひらの皮を失ったもの! アレばっかりはスマホあっても無理ですわ。翌朝ヒンヤリコース待ったなし!


 ファイヤースターターもこれはこれで難しいんだけど、使ったことがあるからセーフだぜ。動画見て感化されて買ったんだよなあ……良いものくれてサンキューな。


『エンチャントファイア』


 ……へへ、ついたついたっと。あんまり派手に燃やすと火事になるからな……あんま派手に燃えないようにしねえと。


 キャンプの醍醐味だぜーと、暫くの間ぼんやりと焚火を楽しもうと思ったけれど、クロベエが『はらへった』とボヤいていたのを思い出す。乗り物にしたり穴掘りさせたりしたからな……ちゃんとご飯あげないとめっちゃキレられそうだ。つか、あのガタイでキレられると控えめに言ってもヤバそうだわ。


 慌ててログボの食糧セットの袋を開けてみると、カロリーを取れますよって感じのボソボソしたチーズ味とフルーツ味のアレが6箱、ドライフルーツがいくつか、そして何故かデカい生肉を真空パックしたものが2枚だけ入っていた。


 いやいや途中まではなんとなく理解できますよ。サバイバルというか、山歩きの行動食として有能な携帯食料ですものね。ただ肉て。普通この組み合わせならフリーズドライのスープとかじゃないんですかね。


 ポコン!


『初日の夜を肉無しで過ごすのはモチベーションの低下につながるかなあって。スープは正直失念してました。あースープなー、なるほどなーって思ってます。シェラカップのおまけにつけても良かったですね。ごめんなさい』


 よくわからん内容の何かぶっちゃけてるメッセが来たが、そういう事ならまあ従っておくか。俺も正直携帯食より肉のが嬉しいし。


 というわけで早速ですが肉を焼きます!


 塩も胡椒もねえから自然の味ってのが悲しいけれど肉を焼きます! 詰めがあめーんだよあのクソ女神めって思ってません! おにくありがとうございます、クソ女神!


 弱めの焚き火でジワジワ炙っていく。暫くして肉に火が通り始めると、脂が溶け出し、それがじゅわっと火に落ちて。


 たちまちぶんわっと暴力的な香りが小屋の中に充満したからたまらない。


 辛抱たまらなくなったクロベエがよだれをダラダラと垂らしながら尻尾をブンブンと振っているんだけど、このサイズだよ? 風圧と尻尾によるダイレクトアタックで小屋が壊れそうになっている。


 ブンブン ブンブン


「おい! やめろ!」


「ほんのうには 逆らえないよ……」


 ブンブン ブンブンブン


「あーこら! 分かった! ほら!焼けたから! 食え! 食ってそれを沈めろ!」


 嬉しそうに肉を食べるたび尻尾が左右に揺れ小屋の屋根――草が少しずつ削れていく……。食わせたところで喜んで尻尾を振るのは変わらなかった……ッ!


「せめて柱には当てるなよ……」


 ふさふさとしているが当たったら結構なダメージが行きそうだ。つか、俺にも当てないで欲しい。地味に痛えんだよ。


 野性味溢れる夕食を食べ、だらだらと焚火を眺めたり、スマホを弄ったりしているとやがて日が落ちてきた。


 スマホの時計を見ると19時。こっちの世界も24時間周期なのかはわからんが、感覚的にあってるような気がするからそれでいいのだ。


 小屋から抜け出し、ごろりと横になって見慣れぬ星座を眺めながら改めて考える。


 文化を発達させるために刺激をねえ……つうか、よその人に頼む事じゃ無いよねー。


 ましてや異世界の一般人の仕事じゃねーよねー。攫うならもっと賢い指導者とかにしろよなー。


 そもそもさあ、こう言うのって普通神がやるよねー。自分の世界に責任をもてよなあ。


「……もしかしてできねえのかな? やっぱあいつ、ダ女神ってやつかな?」

 

 思わず口に出すとスマホが鳴る。


 ポコン!


『だってさ、あの子達ってさ、神託の適正が無いのか聞く気が無いのかわかんないけどさ、いくら呼びかけても反応する子あんまりいないし……わたしダメじゃないし……がんばってるもん……これでもがんばってるんだもん……』


「聞いてやがったな、地獄耳め! 『声』って、念話みたいなやつで伝えようとしたの?」


 ポコン!


『うん。その考え方であってる。今はメッセでやりとりしてるけど、君なら念話もいけると思うってか、日本で呼びかけた時に反応してたわね。あんな感じよ』


「多分だけど、届いてなかったんだろうな。どんな感じでやったの?」

『誰でもいいから聞いてくれーって感じでさ、全体放送? みたいな』

「それが悪かったんじゃねえかなあ……? 誰かこう、巫女的な人を選んでさ、そこに集中すればいけたんじゃね……?」

『うっ……た、確かに。範囲を広げると出力が下がっちゃうから、よっぽど感度が高い子じゃないと……届かない……わね』


「つーかさ、神託が届かないってんなら、もう直接下界に降臨しちゃってさあ、それっぽく浮いたまま後光発したりしてさあ『我が愛しき子たちよ』とかやれば人も集まるだろうし、言葉も聞き入れて貰えたんじゃないのかな? そこまで干渉すんのだめだったりするならアレだけどさあ」


 思わずそう訪ねると……


 ポコン!


『あっ その手が……』


 それっきり返信は無かった。やっぱこいつポンコツ女神だわ……。


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