第七話 【キーカの実力】

 暗がりの路地に現れた小さなシルエット。

 カステルたちの行く手を阻むように立っていたのは、キーカの姿であった。


「おい! そこのガキ! 邪魔だぞ、どけよ!」


 カステルの取り巻きである男がそう言って脅す。

 相手が小さいガキであったため、それでさっさと逃げていくと思ったのだろう。

 しかし、彼女は全く動じなかった。


「私はガキじゃないわ! アンタ達こそ、その袋に入ったアイテムを置いていきなさい!」

「あぁ! このガキ誰に向かって口聞いてんだ!」


 取り巻きの男が声を荒げて、キーカに向かっていく。

 「危ない!」と叫ぼうとするが、うまく声が出ない。

 動こうとしても体中に激痛が走り、手指の一本も動かすことができなかった。

 

「このガキ! 死ねやぁ!」

 

 あっという間にキーカは間合いを詰められ、男は持っている短剣を大きく振りかざした。

 セレスは思わず目を瞑る。

 もうダメだ!


「鬱陶しい」


 そう一言漏らすと、キーカの腕が眩い光に包まれた。

 瞬間、巻き起こった突風――――。

 地面に倒れているセレスでも、体が宙に飛ばされそうになるのを必死に堪えなければならないほどであった。

 風は周りの物を巻き込み、ゴウゴウと凄い音を立てながら吹いている。

 その猛烈な風は三十秒ほど続き、次第に止んでいった。


 一体何だったんだ……?

 地面に向けていた頭を上げると、そこには信じられない光景が広がっていた。

 そこら中に突風で巻き上げられたと思われる物が散乱しており、壁側に並んでいた木の樽などはバラバラに壊れている。

 その中で立っている人物は二人だけであった。

 キーカに襲い掛かった男は壁に激突し、気絶しており、他の取り巻き達も地面に倒れていた。

 

「クソがっ!」

 

 Cランク冒険者であるカステルは、なんとかあの暴風を耐え抜いたようだった。

 しかし、体は多数の傷が見える。

 暴風によって巻き上げられた物の破片で、かなりダメージを負ったようであった。


「これに懲りたら、二度と大きい顔で冒険者を騙るんじゃないわよ! アンタみたいなやつが冒険者だと、ギルドが腐るわ」

「このガキっ! ぶっ殺……」


「なんだ、今の音は――」

「こっちの方から聞こえて来たぞ――」


 先程の音に人々が気づいたのか、大通りから騒々しい声が聞こえてくる。

 この様子であると、近くにいる衛兵も集まってくるだろう。


「チッ! 次会ったら、ぶっ殺してやる!」


 カステルは恨みのこもった眼差しでキーカを睨みつけると、体の傷を庇いながら路地の奥へと去っていった。


「フン! 何回来ても返り討ちにしてやるから」


 そう言うと、キーカはゆっくりと僕に歩み寄ってくる。

 立ち上がろうとしても体は言うことを聞かない。

 僕は体中に走る痛みで、しばらく手も足も動きそうになかった。


「ごめん、キーカ……。少し肩を貸してくれる……?」


 キーカが近づいたのがわかると、力を振り絞って声を出した。

 こんな情けない姿は見せたくないが、仕方がない。


「いい気味ね」


 キーカは僕にそう吐き捨て、落ちているアイテム袋を抱えると、僕に背を向け去っていった。


 えぇ……。

 助けてくれる場面でしょ、ここは……。

 そういった願いもむなしく、僕とカステルの取り巻き達は、ボロボロの姿のまま路地に放置されたのだった……。

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