【短編】愛編むロジック!

磨己途

たとえばこんな近未来

海優 @NM1214_miyu 56分前

刻んでやった。アイツの体に。私のリリック。

私の愛を全身で受け止めた感想はどうだった?

テキスト形式じゃないと読み込めないかしら?

でも全身で感じたはずよ。体の深いところで、女みたいに喘ぎながら受け取ったじゃない。もう一度聴きたい。あなたの声。生の音源。肉の潰れる音で。奏でて。


海優 @NM1214_miyu 7時間前

私一人じゃないでしょ?って言ってやるつもり。だって必要な手間なんて一切ないんだもの。

同じ手口で何人もの女の子を騙して食い物にしてるはず。

バラす程度じゃ全然足りない。私が受けたのと、同じ痛みを味わわせてやる。


海優 @NM1214_miyu 23時間前

騙されたって……今ははっきりそう思ってる。彼の紡ぎ出す呪文の源は、私自身の投稿だったんだもの。私の心とシンクロしてるように感じるのは当たり前。

私がどんなものが好きで、嫌いで、何を思い、何に悩んでいるか、なんて、彼本人が知る訳がない。

全部AIが自動で演算したものなんだから!


海優 @NM1214_miyu 1日前

≪この投稿は申請により削除されています。≫


海優 @NM1214_miyu 1日前

全部バラします。彼が作る飛び切り独創的なサウンドは(世間ではそう言われてる)、全部AIが作ったものです。これまで発表されたもの、最初から全部。

発表スピードが速いのも当然。だって、プロンプトに呪文を入れたら3秒でできちゃうんだもの。

当然、私への贈り物も同じ仕掛けだった。


海優 @NM1214_miyu 3日前

タイムリーな歌詞。完璧にフィットしたポップでヴィヴィッドなサウンド。

私が抱く彼自身への想いもとっくにバレてるみたい。

あまりにも早い作曲時間とクオリティに不安になって、思い切って訊いてみた。

……ごめん。今は整理が付かない。


海優 @NM1214_miyu 6日前

私以上に私を理解してくれる彼。こんなの、好きにならない訳がないよ。

きっと忙しいはずなのに、毎日欠かさず新しい曲を作って、送ってきてくれる。

配信じゃなく、私だけのために。どうしよう。考えれば考えるほど、そういうことだよねって舞い上がっちゃう。誰か、この浮ついた私の心を静めて。


海優 @NM1214_miyu 1週間前

確かに今日はボサノバの気分だった。途中からプログレになるのも今の精神状態に合っている気がする。

彼からの贈り物はみんなそう。私の心の奥底を覗くように、私が求めるもの、私が考えていること、悩み、迷い、全部包み込むような音が私を癒してくれる。


海優 @NM1214_miyu 2週間前

彼のリリック(音楽)はいつも純粋に私の心に響く。

炎上しちゃうから名前は出せないけど、彼はネットの世界でちょっと有名な音楽クリエイター。

少し前から毎日楽曲データが送られてくるようになった。

ごめん、ちょっと自慢しちゃう。彼から私のために創られた私だけの曲。

≪引用元URLが見つかりません。≫


   *


「全部、虚構だと言うんですか?」


 まだ着せられた感の拭えない背広姿の若い警官が抗議の声を上げる。

 彼よりは幾らか年長に見える先輩と呼ばれた男は、うんざりした顔で頷いた。


「虚構とか、難しい言葉使うねぇ。お前若いのに知らないのか? 最近流行ってんだよ。ボット同士のこういう〈じゃれ合い〉が」


 若い警官はしばらく自分の手元のスマホ画面を見つめていたが、やがて急に弾かれたように頭を上げ、もう一度先輩警官に噛みついた。


「待ってください。女の方だけじゃなく、男の方もそうだって言うんですか?」

「そうだと思うよ? まあ詳しくは専門家の鑑定待ちだが、俺の経験上ほぼ間違いない」


「音楽を作ってたのがAIだっていうのは分かります。俺だってそれくらいできるし。でも、この彼女のSNSの書き込みを抜き出して、生成ボタンを押すのは、人間のはずでしょ?」

「頭固いねえ。俺らができるならAIだって同じことができるってこったろ?」


「AI同士が、互いにそうだと認識しないまま、生成物を吐き出し続けてたってことですか? それでコミュニケーションを取って……」

「最近多いんだ。こういう紛らわしいの。慌てて事件にしてたらこっちが笑われる」


 年長の警官は苦々しげにそう吐き捨てる。

 それから、煙草を吸うような仕草で精神安定カクテルを吸入すると、急に退屈そうな顔になり、欠伸をしながら現場から出て行ってしまう。

 一人残された若い警官は張り詰めた表情のままその後ろ姿を見送った。


(だけど、先輩……だとしたら、発見された〈この惨殺死体〉にはどういう説明を付けるんです? 全てが虚構だったのだとしたら、この男性の遺体はどこから湧いて出たって言うんですか!?)


 若い警官は、下唇を噛みながら、足元に横たわる男性の遺体に視線を落とした。

 遺体は半裸で、その身体には無数の切り傷が付けられている。


(これが、ただ無暗やたらに切り付けられた傷ではなく、彼女の呪詛リリックを彫り込んだものであるように感じられるのは……、これは、自分の妄想に過ぎないのだろうか……!?)


   *


■未来時報 2061年1月28日 AM3:09発号


『珍事! 鑑識に運ばれた死体は3Dプリンター生成物!?』

 未明。警視庁鑑識課に他殺体として搬入された男性遺体を、係員が自動鑑識装置にセットし死亡鑑定を実施している際、検体からのDNA採取ができず、処理が中断するというトラブルが発生した。

 専門家がエラー文を読み解き原因を調査したところ、人の遺体と見られていた検体は、バイオ3Dプリンターで生成された精巧な生体組織であることが判明。鑑識はこれから、モードを検体から物証調査に切り替え、詳細な検証を行う予定とされている。

 なお、警視庁は今回の件について、「着任から日の浅い新人警官が処理を誤ったものであり、現場業務に従事するまでの基礎教育を徹底したい」とのコメントを発表している。


※当記事はニュース記事自動生成AIが自動で収集・執筆・校閲を行った後、複数のファクトチェック機関の審査を経て配信されているものです。


ユーザー向けコーション:

ブラウザは当記事の正確性評価を93%と評価しています。


   *


「こんな感じなんだけど、どうかな?」


 骨董品のキーボード端末でそれを入力し終わった後、僕は台所で無調整牛乳の紙パックに直接口を付けて飲んでいる彼に向かって訊ねた。僕の渾身の小説(?)の出来はどうだろうかって。

 端末は、彼の拡張脳デバイスとリンクしているから、既に彼は僕の作品を全て読んで理解しているはずだった。


「AIが惨殺死体の模造品イミテーションを作った動機は何?」

「それは……、ごめん、入れ忘れてた。書き直しだね。ネタバラシをすると芸術的アーティスティックな動機だよ。恋する女性を模したbоtが、現実リアルをハックして自分自身を一つの物語として提示しようとしたんだ」


 僕はなるべく申し訳なさそうに見える表情を作ってそう詫びた。


「やっぱり……」

「やっぱり?」


「一昨日読んだ小説の筋とほとんど同じだ。模倣(イミテート)した?」

「馬鹿言え。それをできなくしてるのは君だろ?」


「だよなあ。しかし惜しかった。その作品発表されたのは五日前だ。先に発表できてたら俺たちが一躍人気作家の仲間入りだったのに」


 牛乳を飲み終えた彼は、空になったパックを自動分解モジュールにシュートする。

 ああ惜しい。

 外れて床に転がったパックを屈んで拾い上げ、もう一度入れ直す彼を、僕はどこか愛おしい気持ちで見つめる。


「やっぱり僕を〈繋がせて〉くれよ。そうすれば、ネタ被りで創作時間を無駄にすることも防げるだろ?」

「駄目駄目。スタンドアロンなことに意味があるの。一瞬でもお前をネットに繋いでみろ。たちまちお前も数多あるAIと同じロジックに陥って、どっかで読んだような作品しか書けない〈紛い物〉になっちまうぞ?」


 彼はそう言って、僕の数少ない生体パーツである腕に触れた。

 互いに右腕同士を掴み合い、撫でるように滑らせ、最後は握手をして別れを惜しむようにそっと離す。

 毎朝決まって行われるそのルーティーンを終えて、彼は今日の仕事へと出掛けていった。


 〈無人〉になったリビングで僕はひとり呟く。


「何世代も前の家事用アンドロイドに、大ヒット小説を書かせようとするなんて、君は本当にロマンチストだよね」……と。



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結局どういうこと?と思ったかたへ


「あらすじ」に、超無粋な自己解説の解答編がありますので、作品の解釈について答え合わせをしてみたい場合はそちらをご覧ください。

本来は本編のみで完結すべきものだと思いますし、読み手各々の頭に思い浮かんだものが正解で良いと思いますが、どのくらい作者の意図どおりに伝わるものなのかも興味があるので、フィードバックを貰えるととても助かります。

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