第3話 俺が言いたいのはそんな生易しい言葉じゃねぇ!!

「あなた達それは本当なの!?」

「「は、はい⋯⋯」」

先程アルに助けられた二人組は顔を俯けながら目の前のある冒険者に事情を告げる。彼女は二人組が必死に逃げている道中にてみつけたのである。


「だとしたらその男の子が危ない」

「え、でもあの人は冒険者⋯⋯」

「いいえ違うの、今回の試験は冒険者バッチに模したバッチを集めること、おそらくその男の子はそれを拾ってつけていたんだと思う、だって今協会にいる冒険者は私を含めて12人しかいないの、そして私は今その12人全員と視覚を共有している、だけどそのどれにもガーゴイルは映ってない」


そう汗を垂らしながら喋るのは冒険者の最高峰と呼ばれるギルド”スタークスン”に所属している冒険者、二つ名氷風、名をカイ・ドナトルト、最強を冠する人間のうちの一人である。


「急がないと、その子が危ない、君たちはここにいるんだ、分かったね?」

「「は、はい」」

カイの目には焦りが見えた。まだ若く希望ある冒険者の芽をこんな所で摘ませてたまるかと躍起になっているのだ。


だからこそ他の冒険者に連絡するという選択をとることが出来なかった。まだ同じく新人同様の目の前の二人をほっぽりだし駆け出してしまったのだ。


まだ彼女も未熟な少女、史上最年少で最強の名を手にしてしまったがためにその責任が彼女の視野を狭くしてしまっていたのだ。


(急がないと、急がないと·····!)


彼女は二人に教えてもらった方向へとただ走る、走って走って走った。もしかしたらもう間に合わないかもしれない、相手はあのガーゴイルだ、まだ冒険者にもなっていない人間がどう足掻いても倒せない存在、けどそれでも、彼女は歩みを止めることが出来なかった。ほんの少しでも希望があるのならそれを掴み取りに行きたかったのだ。


だが現実は彼女の想像のはるか上を行っていた。


「はぁ!はぁ!はぁ!」

「ごいつ!しつこい!」

ガーゴイルに立ちはだかるはボロボロの青年、ガーゴイルに対して青年はあらゆる所に傷が付いていて立つのもやっとといった感じだった。それは子供が駄々をこねっているようなひどい戦いであった。


どれだけ少年が腕を振り回しても足を振り上げても当たり前のように届かない、だがそれでも、どれだけ醜い戦いであろうとも少年の目は諦めていなかった。ガーゴイルを見据える目は熱く燃え続けていた。


「来いよ!早くよぉ!」

「なぜお前はそこまで………」

「待ってんだよォ勝機ってやつォ!」


(っ!この子はまだ勝つ気でいる!)


少年の拳を握る力がまだ力強いものであることを感じ取ったカイは助けようと伸ばした腕を下ろした。


(私はこれを見届けるべきなのだろうか?新しい英雄の誕生を)

カイは葛藤する、自分自身歩いてきた道のりは決して楽なものではなく、正しく茨の道と言っていいものだ、彼女の後ろには彼女の血が色濃く残っている。


だがそれでもその果てで手に入れた称号は血みどろの努力に見合うもの、そう今ここで彼を見届けることが将来の彼にとってもいいことなのかもしれない。


それでも彼女は手を差し伸べてあげたかった、まだ年端も行かない選択など若い彼女には出来なかった。


「いい加減死ねよォ!」

ガーゴイルの鋭い爪が少年の首元に襲いかかる。

「いけない!」

「まだかよぉぉぉぉぉぉ!!!」


急に声を荒げた少年につい体をびくつかせガーゴイルは攻撃の手を緩めた。


「え?」

カイに動揺が走る、彼は今何を待っているのかがまるで分らなかったのだ。勇敢に立ち向かうその姿で一体何を………


「まだ来ねぇのかよぉぉぉ!!」

「っつ!!!」

少年の再び放たれた声によりカイは少年の目的に気づいた。


(そうかそういうことだったのか、彼が待っていたのはガーゴイルの攻撃だったんだ、あの言葉はガーゴイルに対する煽り、圧倒的優位に自分が立っているんだぞという威嚇に似た言葉だったんだ)


「でもそれは流石にまずいんじゃ」

「………てめぇ!!煽ってんのかぁぁぁぁぁ!?」

カイの予感は当たり、当然ガーゴイルも彼の言葉の意図に気付き、先ほどの空中攻撃の倍は早いであろうスピードで襲い掛かるガーゴイル、それを少年は動こうともせずに正面から受け止めてしまった。


体の深部の内臓が握りつぶりされたような生々しい音とともに少年の体は数メートルほど吹き飛んでいった。吹き飛んだ先の土煙によって少年の状態はわからなかったが、あの攻撃を喰らえば重態な怪我を負っているのはすぐに分かった。


「君ぃ!!」

耐え切れなくなったカイは思わずその神聖な戦いに足を踏み込んでしまった、少年をかばうようにガーゴイルと少年の間に立ったとき、彼女はその場に立ったことを後悔した。


(圧?なんだこの、獣にでも睨まれているようなおそろしい………)


カイは震える手を抑えながらおそるおそる、後ろを振り返る。


震える左手、異常な方向に曲がってしまっている右手、内臓ごとつぶされているのではないかと思うほどへこんでしまっている体、そんなボロボロの体で少年はカイのことを睨んでいた。


まるでサーカスで肉を与えられなかったライオンのように獲物に飢えたその瞳、そんな瞳に睨まれては動けなくなるのも必至だろう。


「………ふざけんなよ、これは俺の戦いなんだ、邪魔すんじゃねぇ」

「っ!!すまない、君の戦いの邪魔をするつもりはなかったんだ、けどとても危険な状態だったから………」


(この少年は強くなる、きっとこの私よりも………決めた、この少年を立派な英雄に育てて見せるんだ、そしたらにも勝てるようになるはずだから………)


「だからごめん、今はそこで眠っててね」

「あ、」

重篤な状態であった少年の意識はすぐに途切れてしまった。


だが彼の物語はここから始まるのだ、勘違いから始まる不幸で最弱な英雄の物語が………。



「はぁ、はぁ、はぁ」

「ごいつしつこい!!」


やべぇよ、まじでやべぇよ。


何がやばいってこの体、戦うときはちゃんということ聞いてくれるのに逃げようとするととんでもなく足が重くなるんだよな。


けどまぁさっきから攻撃をギリギリでよけられてるのもその不思議な力のおかげなんだけどね。


「来いよぉ早くよぉ!」

「なぜお前はそこまで」

「待ってんだよ、勝機ってやつをよぉ!」


俺の勝機、それは助けに来てくれる冒険者だけだ、まぁ来るのかすらわからんけどな!!!


ってあそこにいる美女はもしかして助けに来てくれた冒険者か!?


よし、勝ったな風呂食ってくるか!!


「いい加減死ねよぉ!」

あれね?結構ぎりぎりで助けに来るパターンね、うんいいよいいよ、そっちの方がかっこいいもんね、うんけどねそろそろ来てほしいかな、この鳥の爪が俺の喉に突き刺さりそうなんだけど、ねぇちょっとまだ?


ふと女冒険者の方を見ると、心配そうな顔をしているだけだった。


「まだかよぉぉぉぉぉ!!」


流石に我慢の限界だぞこれは、何後方彼氏面して観察してんだ、お前は前に出るべきだろぉぉぉ!!!


と思っていてもこの体はそれを声に出させてくれない、なんて不便な体なんだ。


「まだ来ないのかよぉぉぉぉぉぉ!!!」


なぜかこの言葉だけは出てくるんだよなぁぁ。


「………てめぇ!!煽ってんのかぁぁぁぁぁ!?」

え、なんで!?全然煽ってないんだけど!?


え、やばなんかさっきよりも早く………。


声も出せなかった、それくらい早かった………そして重かった。


多分一瞬意識が飛んだんだと思う、体が飛んだ記憶がないのに俺がさっきいた場所より数メートル離れたところにいた。


そして土煙の向こう側に誰かがいた、徐々に煙は晴れていきその姿が鮮明になってきた、そこにいたのは助けに来たであろう無能冒険者だった。


いいぜ、お前にはいっぱい言いたいことがあんねん、まずこの戦いが終わったらてめぇのけつの穴に○○ぶち込んで○○して取り出した○○を直接口に食わせてやるよぉ!いっとくが俺は本気だぞ、このカスが、助けに来るのがおせぇんだよ、いつか絶対に殺してやるからな!!


「………ふざけんなよ、これは俺の戦いなんだ、邪魔すんじゃねぇ」


ちげぇよ!!俺が言いたいのはそんな生易しい言葉じゃねぇよ!


「っ!!すまない、君の戦いの邪魔をするつもりはなかったんだ、けどとても危険な状態だったから………」


じゃあ早く来いよ!!もっと前から危険な状態だったわ!!


ってあれ?怒りすぎたせいか?頭に血がのぼって………意識が。


そして俺が最後に見たのは瞬殺された鳥の姿だった。

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主人公っぽい立ち位置に転生したけれどあまりにも弱かった件 紅の熊 @remontyoko

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