第17話

 沖縄の梅雨入りがニュースで報じられた五月上旬。

 浩之邸で紹介された米沢紀子は実際の年齢よりはるかに若く見え、政雄と相田はしばらくの間、少し眩しそうにして紀子とまともに視線を合わせることが出来ずにいる。

 また、紀子は乳癌を患ったとは思えないほど顔色も良く、はきはきとした受け答えをする明るい女性だった。

 二人の新婚生活を送る住居は、那覇市にあるゆいレール赤嶺駅近くの新築賃貸マンションに決まったようだ。

 赤嶺駅は那覇空港駅から一つ目の駅だが、車が必需品の沖縄では駅近の物件にはあまり意味はないけどな、と浩之は笑いながら言った。

 近くに自衛隊の広大な敷地が広がっていて、那覇空港も近い。

 紀子はジェット機の騒音が少し気になるが、設備が充実している新居に早く引っ越したいと言って、横にいる浩之の顔を見た。

 近隣には大型スーパーやレンタルビデオ店、コンビニや飲食店もあり、幹線道路の国道が通っていて、車での移動も便利なようだ。

 また、最近はリゾートアイランドとして観光客が集まる瀬長島も近くにあり、公園も多いので、散歩をするコースには困ることはなさそうだと浩之が説明をした。

 その横で紀子は、炎天下のウオーキングは暑さと紫外線対策が想像以上に大変です、と笑顔でフォローをした。

 

 政雄と相田、そして久しぶりに参加した竹内の三人は、紀子が話す横でニタニタしている浩之を見て顔を見合わせた。

 政雄と竹内は、気持ち悪いからそのニヤケた顔を止せと盛んに言ったが、浩之は全く意に介さない。

「綿貫さんはいつ沖縄に?」

 手作りのロールキャベツをテーブルに置きながら、紀子は政雄に訊いた。

「いえ、まだ決めかねているんです。建築中のマンションで良さそうなのはあったんですけど、出来上がるのが九月中旬なので、少し時間が空いちゃいそうで……」

 政雄はゴールデンウィーク前に沖縄に行き、築浅の物件を数軒紹介してもらった。その中で一番気に入ったのが、那覇市北部の工事中のマンションだ。

 ただ、完成まで四か月はあるので、内見出来る頃に再度沖縄に行ってから決めることにして、仮押さえの手続きをしてから東京に戻って来た。

「他にいい物件とかなかったんですか?」

「中々これはっていう物件がなかったんですよ。時期的に良くないのかもしれませんね。それと俺の場合は単身なので、貸す方が渋るみたいなんです。県内居住の保証人が必要な物件ははなから駄目みたいですし。一応不動産屋さんからは、いい物件があったらメールで紹介してもらうことになってますけど」

「結構大変なんですね。でも、早く決めて沖縄にお出で下さい。私ら二人だと何かと心細いですから、ね?」

 紀子は、浩之に同意を求めた。

「冗談じゃない!こんなむさ苦しい爺さんが来たって、なんの役にも立たん。逆に毎日飲み食いされて、せっかくの南国ライフが台無しになっちゃうぞ」

 浩之は言下に否定した。

「俺だって、ただでさえ暑い沖縄の新婚家庭に入り浸ったりしねーよ。こっちこそ真っ平ごめんだ。でも、奥さんの手料理くらいはご馳走になりに行こうかな」

 政雄が冗談交じりに言うと、「是非!」「バカ!」と、紀子と浩之から両極端な返答がきた。

「でも、お二人が沖縄に行っちゃうと寂しくなっちゃいますね。ボクなんか最近はお二人としか遊んでいませんから、今後どうしたらいいのか分かりませんよ」

 相田が湿った口調で言って下を向いた。

「何が遊びだ!ただ飲んでくっちゃべってるだけじゃねーか」

 政雄は相田を揶揄いながら、最近、優子も暇を持て余していると言ってたから、ひょっとして二人はまた……と、あり得ない妄想が政雄の頭を一瞬よぎった。

「歳取ると、ヒマつぶしに付き合ってくれる友人が大事なんだよ。それが性格の悪い飲み友達でもな」

 浩之が政雄に言うのを、紀子は袖を引っ張って制止しようとした。

「俺は沖縄に行っても、お前のヒマつぶしには付き合わねーからな」

「それはこっちのセリフだ!」

「もう、止してよ」

 政雄と浩之が言い合うのを、紀子が真面目な顔で割って入った。

「ご心配なく、お二人はいつもこんな感じですから。ボクとしては、綿貫さんが沖縄に行ったら、長谷川さんが奥さんを放ったらかしにして、毎日飲んだくれるんじゃないかと、そっちの方が心配ですよ」

 相田は、紀子にニコニコと笑いかけた。

「冗談じゃない!貴重な南国のゆったりとした時間を、綿貫ごときに使うかってーの」

「そっくりそのまま返してやるよ!おめーなんかハブに噛まれて逝っちまえってんだ!……あ、いや、いきなり奥さんが未亡人になっちゃまずいから、今のはなし!取り消し!」

 政雄は紀子に頭を下げた。

「いいんですよ。この人はハブに噛まれないと治らない性格みたいですから」

 紀子はコロコロと明るく笑った。

「そうですね、奥さんは良く分かってらっしゃる。こいつの口の悪さはハブに噛んでもらわないと治らないかも。まあ、綿貫さんも全く同じですけど」

 静かに飲んでた竹内も口を挟んできた。

 梅沢との飲み歩きで散財したことを奥さんに責められ、竹内は外で飲む機会がなくなっていた。

 今日の浩之と紀子の結婚祝いと壮行会を兼ねた会合は、竹内にとっては久しぶりの家以外での飲み会だったようで、乾杯してから酒を飲むピッチが異様に早かった。

「竹内、そんなに飲むと、家に帰ってからまた奥さんから外出禁止にされるぞ」

 浩之が竹内に言うと、「私も沖縄では外出禁止令を発令しようかな」と紀子が言い、浩之を除く全員が手を叩いて笑った。

 

 憂鬱が大都会を覆いつくすように、小雨が降ったりやんだりしている六月中旬。

 浩之と紀子は、梅雨が明けた夏真っ盛りの沖縄に向けて、笑顔で旅立った。

 会社を辞めてから一番長く時間を共有していた友人が傍にいなくなり、有意な時間がすっかり喪失してしまったことを、政雄は実感した。

 相田は毎週末に遊びに来るし、会社時代の友人たちとも飲んではいるが、埋める術がない虚しさは、政雄の中で日々大きくなっている。

 飲んでいる間は頭から離れるが、ベッドに入ると、焦燥感を伴った重苦しい不安に襲われることが多くなった。

 この頃は、そんな落ち着かない状況にも麻痺したように慣れてしまい、格別に楽しいことや辛いこともない日々を、惰性で過ごすことが当たり前になっている。


「来週、福岡に行こうかと思ってる」

 風混じりの雨が降る金曜日の夜。

 政雄の部屋で、サキイカを口の端で齧っている相田に、政雄は事務報告をするように言った。

「福岡に?息子さんに用事でも?」

 サキイカを噛み切り、相田が訊いてきた。

「いや、会社時代の友人、といっても取引先の社長だけどな。その友人からこの間電話があったので、東京を離れる話をしたら、だったら福岡に住んだらって話になってさ。一度遊びがてらに行って、不動産屋も訪ねてみようかなって」

「息子さんにも会うんでしょ?」

「いや、息子には連絡しないけど……」

 政雄は言葉を濁すように言った。

「なんでですか?会ってくればいいじゃないですか。暫く会ってないんでしょ?」

「まあそうだけど、会っても話すことはないし」

「東京を離れる話とか、息子さんの転職先や、お付き合いしている女性ひとのこととか、沢山あるじゃないですか」

 相田は屈託のない表情で政雄を見た。

「二泊三日だけど、飛行機代をケチったから初日は福岡に着くのは夕方で、帰りは午前便なんだ。二日目の昼間は不動産屋巡りで、夜は友人と飲むし、息子は仕事だから時間的に無理だな。大体、独立した息子と会って話をしたいとも思わないもんだよ。まあ、向こうもそうだろうし」

「へー、そういうもんですかね」

 相田は政雄のグラスに焼酎を注ぎ足してから、自分のグラスにも注いだ。

「そういうもんだって。お前さんだって社会人になってから父親に会いたいとか、話がしたいとか思ってた?」

 最近、相田に〈相田さん〉と、さん付けで呼ばないでくれと言われた。

 政雄は呼び捨てをするのに抵抗があって、お前さんと呼ぶようにしたが、相田からは、さん付けは直っていないとクレームがついた。

 だが時間の経過と共に、相田は気にしなくなっているようだ。

「ボクですか?もちろん、そんなのないですよ。東京の大学に入学して父親から離れることができた時は、ホントに自由だって解放感に浸りましたから。特にうちの父親は厳しかったので、ボクから話をするとか相談するなんてしたことはなかったですね」

 相田は顔の前で大きく手のひらを横に振った。

「だろ?そんなもんだよ。何かよっぽど困ったときには連絡があるかもしれないけど、それだって金の無心だろうからな」

 政雄の言葉に、相田は笑いながら頷いた。

「でも、近いうちに綿貫さんも遠くへ行っちゃうんですね」

 相田が寂しそうにため息交じりで言って、ゲップをした。

「お前さん、胃とかどこかの内臓が悪いんじゃないのか?」

 政雄が顔を顰めた。

「先月の健康診断では特に悪いところはありませんでしたけど……」

「そうか?なんかブクブク太ってきたし……。他人のことを言える立場じゃないけど、酒の量も増えてるぞ。ちゃんとメシは食ってるのか?」

 政雄が心配顔で訊いた。

「夜はほとんどコンビニ弁当ですかね。仕事のときは、昼飯は社食で食べてるので、結構バランスがいいと思うんですけど」

 相田は更に薄くなった頭を掻いた。

「俺が心配するのも変だけど、お前さん、この先どうすんの?」

「ノープランです。とりあえずは定年まで勤めますし。その後のことは、その時までに決めればいいかなと思ってます」

「確かに定年後に自分のやりたいことや趣味なんかがあれば、目的がはっきりしていていいんだけど、中々そうはいかないよな。俺はただただ仕事から解放されたかっただけで、無計画のまま定年を迎えちゃったからな」

 政雄は相田のグラスに焼酎を注ぎ足してやりながら言った。

「そうなんですよ。やりたいことなんて、何も思い浮かばないんです。周りの人と話しても、結構そういう人って多いですよね。でも、奥さんがいる人たちは戦々恐々としていますけど。狭い家で死ぬまで顔を突き合わせていかなきゃならないなんて、地獄だって」

「それは、奥さんたちの方がもっと強く思ってるよ。子どもが大きくなって、ある程度自分の時間を楽しむ余裕が出来たのに、また面倒な爺さんに邪魔をされるんだからな」

「そうですよね。負け惜しみじゃなく、今、ボクは離婚して良かったとしみじみ思ってます。あのままの生活を続けていても、何の目的も持っていないボクなんかは、完全に女房のお荷物でしたからね。そういう意味では彼女には感謝してます」

 離婚原因に関して一言文句を言いたかったが、政雄は焼酎と共に飲み込んだ。

「先のことは誰にも分からないからな、特に俺たちのように目的というか目標がないやつには。それでも生きてりゃなんか楽しいこともあるかもしれないし……もっとも苦しいことの方が確率的には多いけどな」

「そうですね。ない頭で考えたってしようがないですよね」

「でも、ひとつだけ言えるのは、健康でいないと駄目だぜ。これは老後の最大テーマだよ。もちろん経済的な面や友人知人も大事だけど、とにもかくにも自分の足で歩いて、自分の頭で考えること。これが出来なくなったらお終いだからな。だから、お前さんも酒の量を少しは控えた方がいいぞ、って、俺もだけど」

「大丈夫ですよ。こう見えても普段はちゃんと月曜から木曜までは休肝日にしてますから」

「ありゃ、意外とキミって、しっかりしてるのね」

 政雄は目の前でニコニコしている男におどけて言って、注ごうとした焼酎のボトルをテーブルに戻した。

 

 相田が帰った後、ベランダで雨混じりの湿った夜風に当たりながら、政雄はタバコの煙がゆらゆらと夜空に消えていくのを見ていた。

 相田が優子の浮気相手だったのは遠い昔のように思えてきた、というよりはなかったことのように、最近は思えてきている。

 それと共に、優子を敬遠する気持ちも薄れてきていた。

 葛西臨海公園で会って以来、優子は週に一度の頻度で連絡をして来るようになっていた。

 相田との浮気が発覚した当初は、優子への不信感や嫌悪感があって接触するのが嫌だった。

 今はその気持ちが希薄になっている。

 最近そのことに気付き、どうしてそのような心境の変化に至ったかを考えることが多くなった。 

 今日もそうだが、相田と話をしていても肩が凝ることがない。

 奇妙な出会いのせいかもしれないが、何故か相田を加害者として見ることが出来ず、被害者意識を持って接することはなかった。

 もちろん、優子の浮気相手だから、憎む気持ちが皆無だったわけではない。

 だが、浮気相手に対する怒りより、優子の裏切り行為の方に怒り意識が集中したことは確かだ。

 結婚生活が長くなり、マンネリ化してきた頃から、夫婦の諍いは必ず優子の圧勝で終わっていた。

 それは優子の被害者意識からくる責任逃れ、あるいは悪いのは自分ではないという思い込みのなせるわざだと思っていた。

 確かに一部そういうこともあったのだろうが、優子の立場になって考えてみれば、政雄自身が優子に対して被害者意識を持って接していたことの裏返しだったような気がする。

 自分は仕事を言い訳に家庭を蔑ろにしておきながら、不平不満を言う優子に対して、なんで一々怒るのだろうと辟易していたが、その原因の大半は政雄自身にあったのは確かだ。

 一人息子の一番難しい時期に、仕事を大義名分に単身赴任先で羽を伸ばし、仕事と子育ての両立を一所懸命にしていた優子に対する、理解や感謝の気持ちがほとんどなかった。

 政広の進学問題、政雄の両親との付き合い。

 そして両親が亡くなった時の兄夫婦とのやり取り。

 全てを任せきりにしてきたのは他ならぬ政雄自身だった。

 相田との浮気が露見した時、それまで政雄がしてきたことの反省が一言もなく、一方的に自分を責める理不尽さに対して、優子は積年の怒りと不満を爆発させ、本能的に開き直ったのだろう。

 だが、想像もしていなかった政雄と相田の友人関係を告げられた衝撃で、優子は彼女なりに煩悶したはずだ。

 そして、自分を客観的に見ることに取り組むことで、浮気に関しては、自分が加害者であったことを認めるようになり、同時に政雄に対する罪悪感も芽生えたのだと思う。

 そして、半年ぶりに会ったあの日は、ある程度気持ちの整理はついていて、政雄が離婚を強く要求すれば応じるつもりだったのかもしれない。

 相田との付き合いは短いが、常に自責で物事を考えるタイプの男だというのは良く分かる。

 他人に頼ることをしない浩之も、そういうタイプだ。

 だが、自分は明らかに違う。

 単身赴任中の火遊びは、負うべき責任のない軽い遊びだと勝手に思い込んでいた。

 一時の火遊びと十年以上の浮気は罪の重さが違うと、自分勝手な解釈をしていた。

 だが、それは卑怯な自己欺瞞だ。

 一時だろうと、いや一度でも浮気は裏切り行為以外の何物でもない。

 好んで単身赴任をしたわけじゃない。

 会社の命令だから仕方ない。

 転勤に付いてこない優子が悪い……。

 全てが他責であり、卑怯な責任逃れだ。

 浩之や相田、最近の優子を見ていると自分が恥ずかしくて仕方がない。

 梅沢も自分と同類なんだろう。

 離婚原因には同情するべき点もあるが、そこからの転落は梅沢自身が責を負うべき問題だったと思う。

 竹内も同様で、他人を見下して自分を高い位置に見せたがるのは、自分に自信のない証左だ。

 世の中にはカレー女や、権利ばかり主張し、他人を攻撃することで溜飲を下げようとする輩が多い。

 共通しているのは、悪いのはすべて自分以外だという被害者意識のような気がする。

 だが、そういう自分はどうだ。

 優子のことを被害者意識の塊のように見ていたが、自分自身も大差ない、いやそれ以上に被害者意識の強い男だったのだ。

 自分を客観的に顧みて、加害者の要素が自分にあるということを、冷静に受け入れることが出来ない男だ。

 被害者意識や妬み嫉みから生じる、自身の置かれた境遇や環境に対する不満を外に向けてぶつける。

 その正当性、あるいは無謬性が毒として生成されるのだろう。

 

 体内で代謝に異常が生じ、生成された毒による障害を自家・・中毒と言うが、被害者意識など他責体質から生成された『自己・・中毒』とでも呼ぶべき毒が、自身に比べて恵まれた人との対比で更に強力になって、中毒症状を起こしているのかもしれない。

 この毒を解毒するには、自分を客観的に見つめ、自身の非を認める勇気が必要だ。

 優子はそれを実行しつつある。

 まだ、完全ではないが、政雄に対する被害者意識の払拭と、自分が加害者の立場に至った事実を受容していた。

 今までは形容しがたい分厚い膜を纏っていた感じだが、最近はその膜が取れて、優子の素顔が見えるような気がする。

 遅ればせながら、自分も真摯に解毒をしながら、思考回路の再生に取り組まなければならない。

 そして自分を覆っている膜を引き剥がして、素顔で人と接していけるようにしたい。

 もう、他人を妬んだり、揚げ足を取って揶揄しながら溜飲を下げることから距離をおくべきだ。

 寿命があと何年残っているのかは分からないが、それ程潤沢な時間があるわけではない。

 であるならば、付き合う人に関しては、自分で選別しても構わないと思う。

 その代わりに付き合う相手には素顔を見せよう。

 そのことによって相手に嫌われたり敬遠されるようなら、それはそれで仕方がない。

 素の自分が受け入れられなかっただけのことで、相手を非難するようなことではない。

 浩之や相田と付き合っていて警戒心を抱くことは皆無だ。

 そして一緒にいて気持ちが落ち着くのは、彼らは自己中毒になるほどの他責体質ではなかったからだ。

 結果が悪かった時や思い通りにことが運ばない時は、真っ先に自分の考えや行動を監査する能力が身についているのであろう。

 浩之は口汚く仲の良い友人や政雄を冗談交じりに罵ることはあるが、自分が不利益を被った場合では、決して他人のせいにはしなかった。

 相田も飄々とはしているが、自身の行いについて誰かのせいにしたり、言い訳はしない。

 非が自分にあれば潔く謝罪をするし、同じ過ちをしないように自身を律する強い気持ちを持っている。

 二人のように出来るか甚だ心許ないが、東京を離れこれから生活環境が大きく変わるのを千載一遇の機会にしなければならないと、政雄は自分に言いきかせた。

 そうでもしないと、人が持っている『喜怒哀楽』の感情が、『悲怒哀落ひどあいらく』という、後ろ向きな感情しか持ち得なくなってしまいそうだ。

 雨脚が弱まり、雨が霧のように音もたてずにベランダに吹き込んできた。

 政雄は霧雨に滲み始めた東京の夜景がふと懐かしく思え、暫くの間、目に焼けつけるように凝視した。


※最後までお読みいただき、ありがとうございます。

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